近年、クローズアップされている“ヤングケアラー”の問題。2020年3月、埼玉県が全国に先駆けて施行した「埼玉県ケアラー支援条例」の中には、ヤングケアラーへの支援についても明記されています。
ヤングケアラーとはどういう人のことを指し、また、どうすれば支援につなげることができるのでしょうか。埼玉県福祉部地域包括ケア課の主査・篠原啓佑さんと、主事・板橋和輝さんに話を聞きました。
――埼玉県では、どういう人をヤングケアラーと呼んでいるのですか。
板橋 埼玉県ケアラー支援条例の中では、“ケアラー”の定義を「高齢、身体上または精神上の障害または疾病等により援助を必要とする親族、友人その他の身近な人に対して、無償で介護、看護、日常生活上の世話その他の援助を提供する者」としています。そのうち、18歳未満の方をヤングケアラーと呼んでいます。
篠原 一言でケアといっても、身体的な介護だけではなく、家事や育児を担ったり、日本語が話せない親のための通訳をしたりと、とても幅が広いです。詳しくは、「埼玉県におけるヤングケアラー支援 スタートブック」にも書いてあります。内容は、県のホームぺージから見ることができます。
<具体的なヤングケアラーの例>
・病気や障害のある家族に代わり、家事をしている
・病気や障害のあるきょうだいの見守りや世話をしている
・目が離せない家族の見守りや声掛けなどの 気遣いをしている
・心が不安定な家族の話を聞いている
・日本語が話せない家族や障害のある家族のために通訳をしている
・病気や障害のある家族の入浴やトイレの介助をしている
・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている
・がんや難病など慢性的な病気の家族の看病をしている
・家計のために働いて、病気や障害のある家族を助けている
・病気や障害のある家族の身の回りの世話をしている
――日常生活にケアが組み込まれていて、自分がヤングケアラーだと気づかないこともありそうですね。
篠原 家庭での役割として、ずっと当たり前のように続けてきたという人も多いです。ケアの内容にもよりますが、難なくこなしている人もいれば、負担に感じる人もいて個人差がありますし、大人の庇護(ひご)の下でケアをしているのか、そうでないのかといったことでも違ってきます。ひとくくりにはできない問題だと思っています。
埼玉県では、小学生・中学生・高校生向けにヤングケアラーのハンドブックを作成し、学校で配布しています。これは周囲への啓発だけではなく、本人が気づけるきっかけとし、困ったときは相談できることを知ってほしいという狙いもあるんです。
身近な人が気づき、連携し、支援につなげる
――スタートブックには、事例が4つ掲載されていますね。2つほど紹介していただけますか。
篠原 まずは、中学校で本人が「進学しない」と教員に話したことから発覚したケースです。母親が精神疾患を抱え、金銭的な課題もあったため、教員が市の社会福祉協議会に相談し、市の福祉担当課や母親の支援に関わっている病院とも連携して対応に当たりました。結果として金銭的な課題はクリアされ、進学ができたほか、主任児童委員とも情報共有することで見守り体制が手厚くなりました。
ヤングケアラーの問題は、子どもだけではなく、親も含めて世帯全体を支援していく視点が重要です。
もう一つのケースは、小学生です。仕事で忙しい両親に代わり、大好きな祖母のお世話を進んで担っていましたが、疲れから学校を休みがちになっていました。祖母のケアで訪問したホームヘルパーが気づき、高齢者のための相談窓口「地域包括支援センター」を中心に、小学校や地域の子ども食堂とも連携して対応に当たりました。そして祖母のデイサービス利用や、小学校での子どもへの配慮、子ども食堂への参加等によって負担が軽減したことで休まず登校できるようになりました。
子ども食堂は、単に食事を提供するだけではなく、学習のサポートなども行い、子どもの居場所となっています。介護保険などの公的支援制度は、利用するための要件もあり、誰もが利用できるわけではないため、子ども食堂などのインフォーマル(非公式)な支援は、非常に重要な役割があると考えています。
――事例のように既に公的支援を受けている場合は、比較的、支援につながりやすい気がしますが、そうではない家庭の子どもも多いと思います。ケアを担っている子どもの存在に気づいた人は、何をすれば良いですか。
板橋 「すぐ公的支援などにつなげなければ」と思いがちですが、そうではなく、まずは今の状況をどう思っているのか、本人の話を聞いてあげてほしいです。いきなり尋ねても話してくれませんから、心を開いてもらえるよう、あいさつから始めて少しずつ信頼関係を築くことが大切だと思っています。ヤングケアラーへの支援のポイントは、地域の子どもに関心を持つ大人を増やしていくことだと考えています。
――まずは、気持ちに寄り添うことが大切なんですね。当事者が直接相談できる場所はありますか。
篠原 県では、LINEを活用した相談窓口「埼玉県ヤングケアラーチャンネル」を開設しています。相談員を務めているのは、元ヤングケアラーの方です。「ただ話を聞いてほしい」という人も多く利用しています。話をすることで気持ちが楽になったり、自分の思いを整理できたりする効果もありますから、気軽に利用してもらいたいです。
取材を終えて
家族同士が協力し合って暮らすのは大切なことだとも言えますが、一人に負担がかかるのは、大人であっても辛いもの。“子どもらしく”過ごせないでいる、多くのヤングケアラーの力になれるのは、私たち一人一人です。支援の仕方はさまざまですが、私は、近くに気になる子どもがいたら、さり気なく声を掛けられる大人でありたいと思っています。
取材日:2023年6月1日
矢崎真弓