夏の空に向かって元気に花を咲かせているヒマワリ。一面に黄色い花が広がるヒマワリ畑が熊谷市にあります。運営者の遠藤ファーム(熊谷市/直営店は群馬県太田市)では、循環型農業を実践しながら野菜やハチミツを中心とした製品を生産・販売しています。
「ヒマワリ畑をきっかけに、少しでも農業に興味や関心を持ってもらえたらうれしい」と話す遠藤政子さんに、その思いや経緯を聞きました。
同ファームでは化学肥料を使わず、家畜たい肥を中心とした有機質肥料で、白ネギ、ヤマトイモ、ゴボウなどを中心に約50品目の野菜を栽培。また、土づくりにも注力し、「野菜収穫後は土壌を休ませるために季節の花の種をまきます。そして咲いた花が朽ちて土に還ると緑肥になり、それがまた野菜栽培へとつながる循環農法を行っています。ヒマワリ畑もその一環」という政子さんは、ヒマワリの種からヒマワリオイルを抽出したり、ミツバチが花から集めたハチミツを使い、オリジナル商品の開発から販売も手掛けています。
さまざまなことが順調に進んでいるように見える政子さん。しかし現状はたくさんの弊害をどうにか乗り越えて、「今やっと種まきができているところ」と語ります。
実は「お嫁に来て初めて農業に触れた」という政子さん。初めての農業は驚きの連続だったといいます。
「以前はエアコンが効いた室内で働くアパレル職だったので、外で作業をする農業にまったく体がついていけませんでした。農作物の単価にも驚きました。あれだけ手間ひまをかけたのに、野菜一つ百円程度なんて!って」。
一方で、自然の中で働く心地よさや独特の時間の流れに魅力も感じたそうです。
その後、妊娠出産による体調変化も重なり、思うように農作業ができない時期が続いたことから、自分ができることは何だろうと考えた末、アパレル職の経験を生かして、商品作りや情報発信ができないかと動き始めたそうです。しかし、さらに苦難は続きます。
2019年は法人化した矢先の豪雨災害で、自宅、車5台、農機具などが水没。さらに冬にはコロナ禍へ突入。何度も先が見えないアクシデントに見舞われたそうです。ヒマワリ畑を無料開放したのは、そんなころだったそうです。
「近くの幼稚園で子どもたちが遠足にも行けない、写真を撮る機会もない、と聞いて。ヒマワリ畑なら外だし、使ってもらえれば、と思ったんです」
閉塞(へいそく)感が漂うコロナ禍で周囲から批判の声も少なくなかったそうです。ただ、少しでも明るい気持ちになってもらえればと続けたことで、大学生と連携したイルミネーションイベントにつながり、SNSやテレビでも取り上げられるようになりました。今では海外から訪ねてくる人も増えているといいます。
多くの人と接点を持つほど、“伝えていかなければ”という思いを強くしている政子さんは「ヒマワリ畑を知ってもらうことで、農業や農家のこと、食や自給率、自然環境などについて少しでも意識を向けてもらうきっかけにしたい」と語ります。
そして学生、企業、地域など多方面とつながりながら、「一緒にワクワクのサイクル、ワクワクの共創者を増やしていきたい」といいます。
11月まで楽しめるというヒマワリ畑。今後の「ひまわりイルミネーション」は2023年9月16日~18日、10月7日~9日、11月3日~5日を予定しているそうです。
◆取材を終えて 「何度も涙を流した」という政子さん。女性として、母として、妻として、さまざまな立場で悩むことも多いけ れども、お嫁に来てからの友人や農業女子の仲間が大きな支えになっていると教えてくれました。 農業の素人だからこそ感じた困難や悩み、自分ができることを考え一つ一つ取り組み、前に進む様子は、 空に向かって大きな花を咲かせるヒマワリのように力強く素敵な女性に感じました。 取材日:2023年8月1日 小林聡美