埼玉県秩父郡小鹿野町にある「須崎旅館」は創業115年の老舗旅館です。
秩父は古くから養蚕が盛んな場所で、各地からまゆを買い付けにくる商人のために、宿をはじめたのがきっかけだったそうです。
明治40年頃、初代須崎四郎が呉服店だった建物を買い取り宿をはじめたため、今でも館内のところどころで呉服店の名残が見受けられます。
また、地元出身の小説家・大谷藤子が執筆の際にとう留したともいわれる、風情のある旅館です。
先代から受け継がれてきたおもてなし
「宿泊された方が、この地を訪れてよかったと感じてお帰りいただけるようなおもてなしを心がけています」と、女将の須崎真紀子さん。先代から受け継がれてきた考え方を大切にしているそうです。
館内に入るとアンティークな家具が出迎えてくれます。フロントの横に囲炉裏があり、宿泊者がくつろげる空間になっています。囲炉裏を囲むように、明治時代から使われていた大きな金庫や、電話ボックスが飾られています。普段では目にすることのできない古い家具たちは、経年変化の様子を楽しめるだけでなく、歴史を感じられるアイテムです。
同旅館の露天風呂は、大竜寺源泉(だいりゅうじげんせん)を使用しています。
神経痛や腰痛などによいとされているメタ珪酸·メタ硼酸泉の温泉で「柿の湯」や「柿見の湯」と呼ばれている露天風呂です。
「露天風呂に浸かりながら、見事な柿の木が見られるためそう呼ばれるようになった」とのこと。
貸し切りで利用できるため、気兼ねなく風情のある温泉が楽しめます。
女将新たな挑戦
女将は、町内で50歳以下の男女が所属する、小鹿野町観光協会青年部の「ちょこっともてなし隊」(通称:ちょこもて隊)に所属しています。「青年部」だと男性だけのイメージになるため、女性も積極的に参加してほしいと名称を「ちょこもて隊」に変更したそうです。
ちょこもて隊は、小鹿野町のマップ作成や地元高校とのコラボイベントなど、イベント計画の実施や補助が主な活動になります。
竹を使いあかりを灯す「竹明かり」や「和傘展示」では小鹿神社に飾り付けを行います。また、2021年11月7日におこなわれた「尾ノ内渓谷紅葉まつり」では、ダリア園の協力のもと、フラワーロードもつくりあげました。
活動を通じて「小鹿野町を訪れた人が楽しめる町にしたい」という思いがあるのだそうです。
また、大学時代に勉強した心理学を生かし「子育て中のお母さんが、落ち着ける地域にしたい」と旅館経営や町の活動に力を入れています。
◆取材を終えて 須崎旅館は、おもてなしを大切にしている老舗旅館です。 客室の和空間や部屋のなかにほんのり香る茶香炉など、宿泊者が気持ちよく過ごせるよう、細かいところにも気を配っていました。 明治時代にタイムスリップしたような空間で、くつろぎのひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか? 取材日:2021年12月8日 田部井斗江