埼玉県に関東有数の規模を誇る市場があるのをご存じですか?
通称「大宮市場」(おおみやしじょう)は、魚市場と青果市場から成る、埼玉の台所ともいえる場所です。
市場というと、業者しか出入りできないイメージがありますが、一般客も買いに行くことができます。一年で最も活気があり、一年で一番おいしい魚が並ぶという12月。魚市場のプロに、市場の楽しみ方を聞いてきました。
今回は、魚市場の船川佳之さん(株式会社埼玉県魚市場・執行役員、営業本部長)と、長川順一さん(有限会社丸長・取締役、埼水仲卸協同組合・副理事長)にお話をうかがいました。
「大宮市場には、日本だけでなく世界各地で取れた魚が並びます。北日本から運ばれてくる魚は、豊洲より先に荷下ろしされるものもあるので、少しの時間差だけど、鮮度がいい魚が手に入ります」
早朝に届いた魚はすぐに「せり場」に並べられ、「せり」が行われます。そこで買い付けられた鮮魚は、加工業者やスーパーなどに送られるものと、市場内にある仲卸業者の店に並べられるものに分かれます。仲卸業者の店に並んだものは、小売商や飲食業の買出人が買いに来るほか、一般客も同じように買うことができるのです。
市場の人と交流しに来てほしい!魚のおいしさをもっと知ってほしいから
仲卸を行う長川さんは、市場内にある店に「ぜひ買いに来てほしい!気軽に声をかけてほしい」といいます。
「本当においしい魚を、一度は食べてみてほしい。スーパーに比べると多少値段は高いかもしれないけど、それだけのおいしさがあります」。
長川さんも船川さんも、魚を語る表情はとても生き生きしています。そして、一般の人たちに会えることをとても楽しみにしています。
「市場の人は、人によっては気難しそうだったり、ぶっきらぼうに見えるかもしれませんが、みんな熱い心や魚愛をもっています。どんな魚が食べたいか、どうやって食べたいか聞いてくれれば、伝えられることはたくさんあります。ぜひ僕たちとも話をしながら、魚を見に来てください」
一般客におすすめなのは朝8~9時頃。少し落ち着いて会話をしながら魚が買えるそうです。
魚や市場を取り巻く環境の変化
大宮市場の開場は1970年。まずは青果卸売がスタート、その1年後に魚市場が設営されました。市場がもっとも活気づいていたバブル前は、「マグロの取り扱いは1日当たり1000本。せり前に見て回るのに1時間半もかかる量。それが毎日すべて売り切れる。今は1日100本程になりました」と長川さんが教えてくれました。
背景には、梱包・運搬技術の発達によって流通環境が変化し、他国でも魚を食べる人が増加。さらに地球環境の変化も影響した資源の枯渇(漁獲量減少)、一方で日本人の食生活の変化で魚食の減少など、さまざまな要因が影響しているといいます。
最近は、魚を買うにも切り身が多く、魚そのままの姿を食卓で目にする機会は少なくなっているかもしれません。それが「本当にさみしい」という長川さん。
「昔はまちの八百屋さん、魚屋さんには目利きの職人がいて、お客さんと、その日のおすすめやおいしく食べる調理法をやりとりしながら買い物する景色が普通だったんだよね。僕たちは、食の文化だけでなく、そういう人とのつながりも市場から伝えていきたいと考えています」と二人は話してくれました。
市場に行くなら第3土曜日がおすすめ
開市日であれば誰でも買いに行くことができますが、初めてで少し心配、という人は毎月第3土曜日の「お客様感謝Day」に行くのがおすすめです。イベントや特典などもあるので、より楽しめるかもしれません。
車の人のために広い駐車場を備えています。大宮駅やJR高崎線「宮原駅」「上尾駅」、埼玉新都市交通ニューシャトル「今羽駅」からバス+徒歩でも行くことができます。
◆取材を終えて 日常ではあまり行く機会がない市場の景色は、ワクワクするものがありました。そして、そこで働くお二人のまっすぐな思いを感じ、とても胸が熱くなりました。みなさんも大宮市場に足を運び、熱い心意気をもった人たちに触れてみてください。そして、「本物のおいしさ」を味わいながら、笑顔で新しい年を迎える準備を進めましょう。 取材日:2022年11月10日 小林聡美