世代や地域を超えて農業女子で連携。やりたいことをやっていると人は前向きになれる

食べること。これは人の根本。農作物を作る農業は人の営みの基本です。後継者不足などが取り沙汰される一方で、〝農業女子〟の活躍が始まっているのをご存じですか?全国の農業女子が参加する「農業女子プロジェクト」(農林水産省)では、女性ならではの視点を生かし、ワクワクするようなことを次々と仕掛けてきました。その立ち上げから関わり、自身もいろいろなことに挑戦している貫井園の貫井香織さんにお話を伺いました。
(彩ニュース編集部)

○会社勤務を経て30歳直前に就農
○フランス外食産業見本市での失敗と販路獲得
○現場に立つからこそ見える真の情報
○全国の意欲ある農業者たちとつながる
○行動しながら変えていく
○新たにブドウを栽培し ワインづくりに挑戦中!
○〝自分がどうありたいか〟で選ぶ
○目の前のことを一生懸命やると 何かが見つかる

Profile 貫井香織(ぬくい かおり)
職業:生産者
ほか:農業女子プロジェクトメンバー
受賞:2014年度第10回さいたま輝き荻野吟子賞
   2017年農業女子アワード「農業女子の知恵・夢部門」
2018年6次産業化アワード奨励賞(女性活躍賞)
1978年生まれ、成蹊大学経済学部卒業。
採用コンサルティング会社、PR会社を経て2008年4月、父が経営する貫井園(埼玉県入間市)に就農。
原木しいたけ・狭山茶の生産から販売まで携わる。

1 今の仕事のこと  

会社勤務を経て30歳直前に就農

――就農のきっかけを教えてください。

貫井 大学卒業後、PR会社などで働いていました。30歳になる直前、ふと、実家が農産物を作って直接お客様に届ける事業を生業(なりわい)にしているのは貴重だと思い、実家に帰り就農しました。まずは農作業の基本的な流れを覚えるところからのスタートでした。

貫井園では、シイタケ本来のおいしさを知っていただきたいと原木栽培にこだわり続けてきました。私はそうした商品を「多くの人に届けたい」と思っていたので、レストランに直接出荷するようにしたり、オンラインショップをもうけたり、都内や海外のイベントに出たりして積極的に販路を広げていきました。

貫井園の原木シイタケはこれまで何度も農林水産大臣賞を受賞。収穫まで1年間じっくり育てます

――貫井園のホームページを見ると、原木シイタケを使ったいろいろなレシピを紹介していますね。

貫井 食べ方の提案として、フレンチやイタリアンのシェフ、和食の料理人にレシピを考案してもらっています。肉厚でプリプリの原木シイタケは油との相性がとても良く、揚げても焼いても煮ても蒸しても、いろいろな料理方法に合います。

また、食生活に気軽にシイタケやお茶を取り入れてもらいたくて、加工品の開発にも取り組んでいます。

原木シイタケのうまみを生かした加工品「だし粉」や「ヘルしぃ茸ソース」など

フランス外食産業見本市での失敗と販路獲得

――2008年4月に就農され、翌年1月にはフランス・リヨンの大きな外食産業見本市に出展されていますね。その行動力とスピードに驚きますが、海外にも目を向けたきっかけは?

貫井 そのころ、生産者が消費者に直接販売するマルシェが日本全国にできていました。都内のあるマルシェに出ていたら、お客さんからフランスの食の見本市に出ませんかとご案内いただきました。それまでフランスに旅行で行ったことはありましたが、仕事で行ったことはなかったので、軽い気持ちで出展してみようと思いました。

とはいっても、見本市に出ること自体初めてのことでしたから、何を準備したらいいか分からず、今振り返ると準備不足。フランス語も英語も話せないのに、通訳を頼まなかったので商談にならず、結果もさんざんでした。

2011年に東日本大震災が起こり出荷制限などもあって、フランスの見本市にもう一回出てみようかなという気持ちになりました。
2回目はパリ国際農業見本市です。千葉県の農家さんと一緒に出て費用負担を分け合い、通訳もお願いしました。

見本市から結びついたわけではないのですが、このとき現地の日本食材を扱うお店の方と商談することができ、ありがたいことに取り引きが始まりました。

――その食材店と何かつながりがあったのですか?

貫井 1回目のリヨンの見本市のとき、ごあいさつにうかがっていました。2回目に改めて時間をいただき、商談を進めることができました。

現場に立つからこそ見える真の情報

――フランスへの輸出は10年近くたった今も続いていますね。遠いだけに大変だと思いますが。

貫井 今は新型コロナの影響で行けませんが、それまでは年1回くらいのペースでフランスに行き、お店にお邪魔していました。年1回でも売り場を見ることは大事です。

――売り場を見ると気づくことがありますか?

貫井 食材店と貫井園だけの取引だと、うちの商品しか見えませんよね。
ですが、その食材店が扱っているのはうちの商品だけではありません。たとえばお茶は売り場の中のどの位置に置かれるのか、左右どれくらいの商品がどのくらいの価格で売られているのか、ほかの会社の商品パッケージはどうか、どういう商品が入れ替わっているのかなど、行けば見えてきます。

それは電話やメールのやり取りではなかなか分からないこと。自分で情報をとりに行かないと得られない情報です。

――表面的な情報ではなく、実際に足を運ぶからこそ見えてくる真の情報ですね。

貫井 日々納品している地元のスーパーも同じで、売り場をよく見るようにしています。
私にとってフランスはあくまで取引先の一つ。日々の納品先を大事に思っています。

全国の意欲ある農業者たちとつながる

――貫井さんは「日本グローバルファーマー連絡協議会」を立ち上げましたね。どういう協議会ですか?

貫井 2013年に、自ら生産する農産物の販路を、自ら国内外に広げていこうとする意欲ある農業者たちでつくった任意団体です。個々の農家単独では成し得ない事業展開を進めていこうと設立しました。ただ、現在はほぼ活動していません。

――ほかにも、農林水産省の進める「農業女子プロジェクト」に立ち上げ期から関わっていますね。

貫井 「農業女子プロジェクト」は、女性農業者と民間企業が手を組み、新しい商品やサービスを開発するというものです。2017年には「農業女子プロジェクト」の農業女子メンバーから参加者を募り、香港で「香港・農業女子フェア」も開催しました。
今年(2020年)はコロナ禍であまり活動できていませんが、11月には伊勢丹新宿店で「農の祭典 サロン・ド・アグリ・ジャポン」に参加しました。

行動しながら変えていく

――貫井さんはどんどん行動していくタイプですね。

貫井 それは思いますね。やりながら変えていく。「そう言ったけど、ごめん、また変えます」ということも多々あります。常にいろいろなことを同時並行で進めています。

――いろいろなことを同時並行で進めた方が、アイデアが浮かぶのでしょうか?

貫井 そういうことではないですね。同時並行で進めながらも、最近は「こうしよう」と〝腑(ふ)に落ちるまで待つ〟ようにしています。

シイタケのこと、お茶のこと、加工品のこと、販売先のこと、新しく始めたブドウのこと、栽培から、企画、販売まで、いろいろ同時並行で進めています。その中には、出荷など決まった仕事や、種まきなど季節によって変わるベースの活動もあります。
これら気になっていること、やらなきゃいけないことが常に頭の中にいくつもある中で、「こうこうこうだから、こうしよう」とパッと決まるときがあります。それが〝活動するタイミング〟です。

そのタイミングは、すべて自分の中で決まるわけではなく、いろいろな外部的要因で決まっていくので、〝腑に落ちるまで待つ〟ようにしているのです。

――頭の中にやるべきことの箱がずらりと並んでいるとしたら、そのふたをあけたままにしておいて、タイミングを待つというイメージですか?

貫井 それに近いような気がします。
私の働き方は、時間で区切っているわけではないんですよね。物理的に農作業をしていない日はありますが、24時間365日仕事が頭から離れることはありません。
365日働いている両親を幼いころからずっと見てきているので、それが私の働き方の根本になっている気がします。

――それが楽しいんですよね。

貫井 そうなんです。それは24時間自分の時間をどう使うかということで、何かに縛られてやるわけではないので。

新たにブドウを栽培し ワインづくりに挑戦中!

――そうやって続けていると手ごたえを感じるときがありますよね。最近どんなことがありましたか?

貫井 最近特にうれしかったのは、ようやく初めて醸造したワインの瓶詰めが終わりまして、リリースのめどが立ってきたことです。

私、ワインが好きで、せっかく農業をやっていて畑があるので、いつかはワイン用のブドウを作りたいと10年くらい前から思っていて、5年前にお茶畑のお茶の木を抜いて初めての苗を植えたんです。ブドウが育ってきて今年、ようやく少しまともに収穫できるようになりました。

秋に醸造してスパークリングワインを80本つくり、今、瓶内2次発酵という工程に入っています。早くて来年の冬リリースすることができるかなという段階までようやく来ることができ、ほっとしています。

2 自分らしくあるために大切なこと

「自分がどうありたいか」で選ぶ

――自分らしくあるために、何を重視して生き方・働き方を選ぶと良いとお考えですか?

貫井 自分の「やりたい」に正直になることだと思います。周りの人がどう言うかという視点ではなく、自分がどうありたいかで選べば、どんな結果だとしても自分で納得がいきます。何より、やりたいことをやっているとき、人は前向きになれると思うのです。

周りがどう思おうと、やりたいことをできることが幸せですし、それでお金がいただけるということはとてもありがたいことだと思います。

3 未来を生きる子どもたちへ

目の前のことを一生懸命やると 何かが見つかる

――これからの子どもたちへ、生き抜く力を与えるメッセージをお願いします。

貫井 世の中はどんどん良くなっていっていると私は思っています。100年前は女性が仕事をすること自体難しかった時代ですよね。男女雇用機会均等法ができたのもたかだか30年くらい前です。
今の子どもたちは、生まれながらにして職業とパートナーを選ぶ権利を持っている。それがつらいという人もいるかもしれませんが、どちらかと言えば私は、職業とパートナーを自分で選べる世の中の方が一歩前進していると思います。

選べるのだから、自分はどういう環境の中にいると居心地が良くて幸せだと思えるのか、考えてみたらどうでしょうか。答えは自分の中にあるものなので、その答えを見つけられたら、結果的に選択できるようになると思います。

でもそれはすぐ見つからなかったりします。みんながみんな二十代の就職の時にやりたいことが見つかるわけではありませんよね。
見つからなくても、目の前のことに一生懸命になっていると、一生懸命になれる中の何かが自分にヒットすることがあって、目覚めにつながるのではないかなと思います。

取材を終えて
貫井さんがフランスの食材店に販路を獲得したいきさつを聞いたときのことです。1回目の訪問ではあいさつのみ、2回目で商談が成立しました。「1回目があったから2回目に実を結んだのですね」と質問すると、貫井さんはこう答えました。
「とは限りません。その裏には、うまくいかないことの方が多かったりもするのです」
この言葉を聞いて、「貫井さんは物事の本質を見ようとする人なのだ」と感じました。
広い視野と企画力、そして行動力で全国の農業女子のネットワーク作りに一役買い、数々の賞も受けていますが、「農業の本質はおいしいものを作ること」と冷静です。
そんな貫井さんが今ワクワクしながら挑戦しているのは、自ら育てたブドウでワインをつくること。ワインに合う原木シイタケを使った一品も考案中とのことで、ワインとのマリアージュを思い浮かべるだけでこちらまでワクワクしてきます。
取材日:2020年10月19日
綿貫和美