子どもとの毎日がしあわせなものとなるように。全力で子育て親子の支援に打ち込む

親になって、具体的に子どもへの対応を学べる場はありますか? 親になったほとんどの人が、初めての経験に戸惑いながら、一生懸命子育てをしているのではないでしょうか。そんなとき、すぐ近くに「大丈夫だよ。それでいいんだよ」と言って、相談に乗ってくれる人がいたら救われますよね。
子育て家庭支援センター「あいくる」は、まさにそんな存在です。日々、全力で子育て支援に打ち込む「あいくる」施設長の村野裕子さんに、子育てのヒントや、お母さんが自分らしくあるためのヒントをうかがいました。
(彩ニュース編集部)

○子育てが〝楽しい〟より〝大変〟が上回るのはなぜ?
○この仕事は親子に丸ごと関われるのが魅力
○親になって子育てにつまずかないように「未来教室」
○「こうしたい」に軸を置く
○子どもが人のせいにしなくなる
○自分で考え自分で決める でも時には頼ることも大切

Profile 村野裕子(むらの ゆうこ)
職業:NPO法人子育て家庭支援センター「あいくる」(埼玉県入間市)理事・施設長・保育士
他:親子遊びサークル「ハッピーキッズ」を主宰
こども食堂ネットワークいるま会長
子どもとの毎日を楽しいものにするための種まき活動を多方面で行っている。

1 今の仕事のこと

子育てが〝楽しい〟より〝大変〟が上回るのはなぜ?

――子育て支援を始めるようになったきっかけを教えてください。

村野 もともと幼稚園教諭をやっていて、出産を機に退職しました。
私は自分の子どもを産んで、かわいくて幸せを感じていました。もちろん寝不足やら何やらで大変なこともありましたが、トータルで見たら〝大変〟よりも〝幸せ〟の方が勝っていて、世のお母さんたちもそんな人が大半だと思い込んでいました。

しかし現実には、子育てに対してマイナスのことをいう人がすごく多いということに気づきました。
そこから、どうして「子育てが大変」より「子育てが楽しい」が上回らないのだろう、みんなは何が大変だと思っているのだろうと考えるようになりました。

気づいたのは、私が子育てを楽しいと思うのは、絵本を読むとか歌うとか、子どもが好きなことがもともと好きだからだ、ということでした。さらにお母さんたちは、子どもは外にいると機嫌がいいということも、外で子どもと楽しむ方法も知らないのだと気づきました。
ならば私が子どもとやったら楽しいと思うことを、お母さんたちを集めてやろうと思い立ち、サークル活動を始めました。

子どもは集中力が15分くらいしか続かないので、2時間に短い遊びをびっしり入れました。それが話題になってどんどん輪が広がり、親子遊びサークル「ハッピーキッズ」が入間市と狭山市で始まりました。今年で19年目になります。

――お母さんには、こういう風に子どもに接すればよいのかという学びになったでしょうね。

村野 お母さんたちから「日々の子育てのヒントになる」という言葉をたくさんいただいています。「ふとんの上でゴロゴロ転がっているだけでもいいんだよ。頭を下にする動きになって、将来逆上がりをするときにつながるよ」といったことも伝えるようにしています。

――そういう知識はどうやって身に付けるのですか?

村野 アレルギーの子がいたらアレルギーのことを学び、発達障害のことを学びたくて早期発達支援士の資格もとりました。ほかの勉強は全然好きではないんですけど、子どもに関係することはなんでも知りたいので勉強します。

この仕事は親子に丸ごと関われるのが魅力

――ところで、子育て支援センター「あいくる」に関わるようになったきっかけは?

村野 ある日、あいくるの代表がハッピーキッズの活動を見に来られたのがきっかけで、月1回あいくるで親子遊びをやるようになりました。

さらに、児童センターのない地域に、だれでも無料で気軽に来られる外遊び広場をつくりたいという願いも代表に賛同いただき、週1回、出張広場「はぴはぴ」が始まりました。
はぴはぴは好評で、今では出張広場8カ所、常設広場2カ所に増えました。親子が気軽に立ち寄って遊び、いつでも子育て相談ができる場となっています。

外遊びの力は絶大。子どもに良い影響を与えてくれます

――改めて思いましたが、子育て支援というのは〝子育てをするお母さんを支援する〟ということでもあるのですね!

村野 そうなんです! 代表が〝母親を支援したい〟という思いがとても強く、私もそう思っています。

幼稚園教諭だったとき、どうにも荒れてしょうがない園児がいて、教諭みんなでその子をケアしましたがダメでした。家庭に目を向けたら、分かったのは、お父さんの家庭内暴力(DV)が原因で、お母さんが子どもにやさしくできないということでした。
そこでお母さんのつらい気持ちを受け止めるようにしたら、お父さんのDVをなくすことはできませんでしたが、お母さんの気持ちがやわらいでその子への態度が変わり、その子が本当に嘘みたいに落ち着いたんです。

幼稚園の現場でそこまでいくのにとても時間がかかりました。
ですが、この支援センターで働くようになってから、それが早いんです。親子で来ているから家庭の状況を早く把握できるし、子どもの様子を見ながらお母さんとの関わり方を目の前で見られるし、「お母さん、困っている?」と直接声も掛けられる。
そのスピードと、丸ごと関われるということが私にとってかなり魅力的です。

親になって子育てにつまずかないように「未来教室」

――ところで中学・高校生対象の「おやこde先生の未来教室」というのもユニークな活動ですね。

村野 乳幼児と触れ合う機会の少ない若者たちのもとへ乳幼児親子が訪問する活動です。先生となるのは幼い子どもたちとその保護者たちです。

実は、子育てにつまずくお母さんが年々増えているのがとても気になっていて、中高生のときに1回でいいから赤ちゃんを抱く体験をさせてあげたいと思っていました。その1回があとで生きてくると思います。

小さな命のぬくもりを感じて自然とやさしい表情に

――1度でも赤ちゃんを抱く経験をすることで変わりますか?

村野 この事業を始めてまだ5年くらいで、生徒が親になっていないので検証できていませんが、変わると信じています。

中高生は、妊婦さんのおなかをさわらせてもらったり、赤ちゃんを抱かせてもらったり、幼児と一緒に遊んだりします。最後に「今まで親に感謝したことなんかなかったけど、ちょっと感謝しました」「絶対子どもなんかいらないと思っていたけど、ほんのちょっとだけ親になってもいいかなと思いました」とか言ってくれるんです。ほんのちょっとでいいんです。

この事業は協力してくれるお母さんが多くて、「自分が中学生の時にこの授業があったら、母親になる第一歩が絶対に違った」と言ってくれるのもうれしいです。

おなかの中の赤ちゃんの動きが、手の平から伝わってくる

――ふれあいの力ってすごいですね。
村野さんはほかにも、ドイツの遊び場を学び、外遊びを推奨する「プレーパーク」を立ち上げたり、「こども食堂ネットワークいるま」の代表を務めたり、若者を支援したり、「パパ力UP講座」を開くなどユニークな活動を精力的になさっていますね。
村野さんを突き動かしている思いはなんですか?

村野 みんなが自分なりに幸せでいてほしいと思っています。子どもも、お母さんも、お父さんも、若者たちも。やっていくとここが足りないと見えてくるので、考えたり学んだりして、また進む、という繰り返しです。

私がやっているのは種まきのようなもの。かかわった方々が持ち帰り、それぞれの場所へその種を運んでくれたらもっと広がると思うんです

2 あなたらしくあるために大切なこと

「こうしたい」に軸を置く

――お母さんたちが自分らしくあるために何を重視したらよいと思いますか。

村野 自分がどうしたいのかを考えてほしいと常に思っています。
「お母さんはあなたのために言っているの」「だんながこう言うから仕方なくて」と本気で思っている方がいますが、「人のため」とか「世間がこうだから」ということを考えて生きるのではなく、「あなたはどうしたいの?」というところに軸を置いて生きてほしいと思っています。

それは自分らしい働き方のスタイルを選ぶことにもつながります。
たとえば仕事を探すとき、〝子どもが学校から帰ってくる3時には家にいたいのかどうか〟がはっきりしていないと、雇用主に「5時までできる?」と聞かれたら、雇ってほしいから「はい、できます」とこたえてしまう。
でも仕事を終えて帰宅すると、子どもがおなかをすかせてイライラしていたらどうですか? 「できます」と言わなければよかったと後悔しますよね。

一方で、〝雇用主は5時と言っている。私はこの仕事がしたい〟と思ったら、それが希望となるから、「お母さんはこの仕事がとってもしたくて5時まで働きたいから、あなたは3時から5時までは一人で待っていてね。おやつを用意しておくからね。お母さんは5時に帰ってきてからご飯の支度をするね」と、子どもときちんと話し合えばいいのです。

そういう手はずを踏まないと、いろいろなところにひずみが出ます。実に多くの方が「自分がこうしたい」というところを分からずに日々過ごしていると思います。

子どもが人のせいにしなくなる

村野 だからお母さんたちに機会があれば、「自分で考えて自分で選ぶことが大切」と伝えます。たとえば息子の朝練のために朝早く起きるのは、仕方ないから起きるわけではなく、自分が早く起きるのを選んだからです。

――〝息子の朝練のために朝早く起きるのを私が選んだ〟という立ち位置で子どもに接すると、そうでないときとは違いますか。

村野 絶対に違います。子どもが人のせいにしなくなります。
そうした日々の積み重ねが大きな選択の時に生きてくる。たとえば高校受験で進路を決めるときです。
「なぜその学校に行きたいの?」と子どもに聞くと、「偏差値がそのくらいだから」「お母さんに言われたから」と答える子どもが少なくありません。

――自分の人生なのに自分が主体で考えられなくなる。それは危ないですね。

村野 危ないんです。高校に行って少しでもいやなことがあると、「お母さんが行けって言ったからこの学校にきたのに」ということになっていくんです。
自分で選択すると自分のせいだから、だれのせいにもできず、次はどうしようと考えることにつながります。
なので、小さいころから「これとこれ、どっちがいい?」といったことでも自分で決めさせることが大事です。

3 未来を生きる子どもたちへ

自分で考え自分で決める でも時には頼ることも大切

――これからの子どもたちへ、生き抜く力を与えるメッセージをお願いします。

村野 「自分で考えて自分で決める」ということを伝えたいですね。
でもそう言われると〝自分で何でもやらなくちゃ〟と思いがちですが、そうではないということを伝えたいから、「時には頼ることも大切」と付け加えたいですね。
作戦をAからEまで立てられれば、AがだめだったらB、BがだめだったらCを試せばいい。いろいろな手段を持っていてほしいと思います。

取材を終えて
第一印象は〝あたたかくて目力のある人。取材が進むにつれ、その目は真剣さを増し、覚悟をもってこの仕事に取り組んでいる、ということをひしひしと感じました。
親自身も「自分で考えて自分で選ぶことが大切」ということは、選んだことを実行するということ。子どもが人のせいにしなくなるためには、親も〝やらされている〟のではなく〝自分で選んで、やる〟。どちらにも親の覚悟が必要ですが、そうして子どもと向き合うことで一歩前進できるのだと思います。
「自分で考え自分で決める」と言ったあと、「時には頼ることも大切」を付け加えた村野さん。子育てに悩むお母さんたちに寄り添ってきたからこその視点です。そのひとことが勇気を与えてくれます。
今、いろいろな問題を抱えた若者が増えています。そんな若者たちも子ども時代に、こんなすてきな大人に巡り合えていたら、今ごろ違ったのではないかと思わずにはいられませんでした。
取材日:2020年10月12日
綿貫和美