【川口】鋳物の型でつくるベーゴマクッキー ~地元愛でつながれるように~

川口は鋳物の街と呼ばれ、たくさんの鋳物製品を作り出してきました。今回は、その川口の文化と地元食材でつくられた焼き菓子「ベーゴマクッキー」と、商品づくりを行う特定非営利活動法人ヒールアップハウスをご紹介します。

鋳物のベーゴマ型で作ったクッキーは、ひもを巻き付けるとベーゴマと同じように回るものもあるそうです

鋳物の型を使って焼き上げるベーゴマ原寸大のクッキーは、定番のプレーン、ごま、ココア、みその他、期間限定味のラインナップ。くせになる味わいのみそ味には川口の麦味噌「御成道味噌(おなりみちみそ)」を使用しています。
ベーゴマクッキーをつくっているのは、特定非営利活動法人ヒールアップハウス。障がいのある人が自分らしく働き、生活する場として、さまざまな活動を行っています。
事業所の一つharebare(晴れ晴れ=はればれ)では、埼玉県産の小麦粉や米粉、地元の食材を使い、ベーゴマクッキーの他、麦味噌キャラメルサンドや米粉のクッキーなど、さまざまな焼き菓子をつくって販売しています。
商品は県内の百貨店、ショッピングセンターなどでも売られています。

川口で育つ子どもたち、生きる人たちが“地元愛”でつながれるように

ベーゴマとは、コマの一種で3㎝程の円錐型の遊び道具。遊び方はいくつかありますが、コマにひもを巻き付け、台や床に向けて回し入れ、はじき出されたら負けというのが基本的な遊び方です。
では、なぜベーゴマのクッキーが誕生したのでしょう。
かつて川口市には鋳物工場があちこちにあり、1964年の東京オリンピックの聖火台も川口で作られました。3カ月という短い期間で命を懸けて聖火台を作った職人のものづくりにかける思いや、地域の歴史にとても感動した石崎美智さん(同法人代表)は、国内唯一となったベーゴマ製造所が川口にあることを知ります。


「川口にはこんなにいい文化があったのか!」
実は、「これこそ川口のお土産というものがなく、地元・熊本に帰るときのお土産にいつもしっくりきていなかった」という石崎さん。ベーゴマ製造所にお願いして鋳型をつくってもらい、ベーゴマクッキーが誕生します。

事業所harebareには、ベーゴマクッキーの他、米粉のクッキー、マドレーヌなどが並びます

地元というより所に勇気づけられることが多いという石崎さん。
「悲しい、寂しいときに、好きな何かを心に持っていると強くいられる。そこに地元が入っていたらうれしいです」
これからは多様化がさらに進み、一つの土地に定着しない生きかたも増えていくでしょう。それでも川口で育つ子どもたち、川口で生きる人たちが共通ワードで語れるもの、「地元愛」を感じられるものがあってほしい。ベーゴマクッキーがそのきっかけの一つになれたらうれしいと語ってくれました。

代表の石崎さん。ベーゴマの鋳型や川口の御成道味噌を背景に

誰もが自分らしく働き、生活できる地域を目指して

ヒールアップハウスでは、それぞれが得意なこと・できることを生かしながら働き、許容しあいながら協力していくことで、それぞれが自分らしく一緒に生きていく環境づくりにつながっています。
看板商品の一つ「麦味噌キャラメルサンド」は、事業所で働くみんながカカオをむくのがとっても上手だったことや、麦味噌を作っている他の福祉施設や企業とのつながりをきっかけに生まれたといいます。
働くスタッフにも、「子どもが熱を出したら休んで。そして働けるときに全力であなたのちからを出してね」というのがヒールアップハウスの考え方。

「障がいとか、女性とか、関係なくやっていきたいですね。そうしたらもっとこの町がよくなっていくと思うんです」 障がいがある人も、育児をしながら働く女性も、誰かに負い目や罪悪感をもって生きなくていい。生きづらさを感じないような地域、社会になっていけたらいいと石崎さんは語ってくれました。

◆取材を終えて

実は川口にこのような鋳物の文化があることを、今回の取材で初めて知りました。埼玉移住組の私ですが、第二、第三の地元として、地域への愛が深まる気がしています。多様性が広がる現代でも、同じ立ち位置で語れる“地元”感覚は大事なキーワードかもしれません。埼玉らしさ、川口らしさをみんなで語れる日がきたら楽しそうですね。 

取材日:2021年8月13日
小林聡美