「日本画巨匠・河鍋暁斎」個人美術館
第165回直木賞受賞作『星落ちて、なお』(澤田瞳子著)は、幕末から明治にかけて活躍した絵師・河鍋暁斎(きょうさい)の娘とよ・河鍋暁翠(きょうすい)の一代記です。偉大な父親の死後、絵師としての道を模索しながら家族を支える、明治女性の苦悩と奮闘が描かれています。
そんな河鍋暁斎・暁翠親子の作品を展示する個人美術館が、埼玉県蕨市にあります。
暁斎のひ孫にあたる河鍋楠美さんが自宅を改装して、河鍋家に伝わる下絵・画稿を公開展示する美術館を創設しました。
暁斎の多様な作品を生かす企画展示
「画鬼」と称された暁斎。
その絵画表現の多彩さ、時に完成度の高さをも感じさせる下絵や画稿は、ここでしか見られない貴重な作品です。
同館は、多作で知られる暁斎の、三千点を超える作品を所蔵しています。
所蔵作品を多くの人に楽しんでほしいと、1、2カ月ごとに作品を入れ替えて企画展を開催しています。
一度展示した作品は、退色を防ぐため半年以上は保護して休ませます。作品の常設展示はおこなっていないため、気になる作品展示の際は、機を逃さず行くのがお勧めです。
貴重な暁翠作品も所蔵
暁斎の娘、暁翠は父親譲りの幅広い画風の作品をのこしました。
同館では『星落ちて、なお』の装丁に使用された錦絵『五節句之内 文月』を所蔵しています。
現在、オリジナルの錦絵は展示していませんが、原寸大パネルが館内にあります。
小説出版後、暁翠作品のことを尋ねられる機会が増えたため、同錦絵のパネルを展示しているそうです。
住宅街の中にある美術館ですが、扉を開けると作品が陳列された展示室が現れ、圧倒されます。
暁斎、暁翠作品の筆使いなどが間近で鑑賞でき、ミュージアムショップでは関連書籍コーナーなどが併設され、日常と隔離された充実した時間を過ごすことができます。
現在、企画展「暁斎が描く『忠臣蔵』と芝居絵」と特別展「『暁斎百鬼画談』の世界」を2021年12月22日まで同時開催中です。
入館料一般600円、学生500円。休館は火・木曜と毎月26日〜末日、年末年始期間。
◆取材を終えて ミュージアムショップでは、暁斎や暁翠の作品をあしらったオリジナル商品を扱っています。ネット販売でも購入は可能ですが、実際に手に取って眺められることは、長い自粛の時間を過ごした私にとっては至福の時間です。 取材日:2021年11月15日 宮内瑞恵