【秩父】尾ノ内氷柱“誕生秘話”

秩父・小鹿野町の冬の風物詩「尾ノ内氷柱」(河原沢地区)。人工的につくられたダイナミックな氷柱で知られています。尾ノ内氷柱の誕生について取材しました。

地元の人たちの尽力で人工的に作られる尾ノ内氷柱。間近で見るとダイナミックです(尾ノ内氷柱実行委員会提供)

発端は平成19年の朝。西秩父商工会青年部三田川支部の部員自宅で、うっかり夜に止め忘れた散水がきれいに凍結していたのです。
それを見て「冬の自然のなかに、この風景をつくれないものか?」と考えたのが尾ノ内氷柱のはじまりでした。

21年の冬、西秩父商工会青年部員たちは、まずは河原沢地区日向沢で氷柱を人工的につくりだせないか試しました。そして現在の尾ノ内渓谷へ場所を移し、「氷柱プロジェクト」が本格的に始まりました。

当初は、ホースやポンプを自分たちで購入し、手探りで氷柱づくりにチャレンジしましたが、ダイナミックな氷柱はできませんでした。
それを見守っていた地元の人たちから取水方法のアドバイスや協力もあり、徐々にプロジェクトは進みはじめたといいます。

この年はあくまで「試験段階」でしたが、新聞の地域版に掲載されたことをきっかけに、見学者が8000人と一気に増えました。
まだ公式発表前でしたが、「この機会を好機と捉え、地域活性化事業に乗り出そう」と準備を急ぎ、23年に「尾ノ内氷柱実行委員会」が発足しました。

氷柱づくりの準備は前年の夏から始まる

1月~2月下旬が見ごろとなる尾ノ内氷柱ですが、その準備は前年の夏から始まります。実行委員会メンバーや住民など多くの人が協力し合い、氷柱の舞台となる沢のゴミを取り除いたり、氷柱のもとになるホースの位置などを確認しながら作業を進めていきます。

秋になると沢を2日おきに掃除。それは真冬の氷柱期間終了まで続きます。

いよいよ氷柱を制作。ポイントは「散水」

冬の開催期間に近づくと、いよいよ氷柱を作る準備に取り掛かります。水の取り口付近の準備作業をおこないます。

ダイナミックな氷柱を制作するには「散水」がポイントになります。「ホースにゴミが詰まるとうまく散水できないので、水の取り口から散水口まで4カ所にフィルターを設置しました」と、同実行委員会メンバーの強谷武夫さん。
初期のころ、ゴミが詰まり散水ができずに大変な思いをしたため、令和元年からフィルターを設置したのだそうです。

ホースは沢を挟んで左右にあり、吊り橋の周りに散水するホースと、滝の奥に散水するホースに分かれています。
しっかり圧力をかけて散水できるよう、ホース位置の確認も重要な作業です。

取材日はホースの位置確認をする日でした。斜面によじ登って位置を修正していました

こうした作業には尾ノ内氷柱実行委員会メンバーだけでなく、同実行委員会の女性部や、地域活性ボランティア組織「よってがっせー委員会」など多くの人たちが参加しています。お昼には、女性部手作りの食事が振る舞われます。

マイクロ水力発電による「氷柱ecoライトアップ」

ダイナミックな氷柱のライトアップに、大勢の人があつまります。(尾ノ内渓谷氷柱実行委員会提供)

尾ノ内氷柱では開催期間中の土・日曜、マイクロ水力発電によるライトアップがおこなわれます。
マイクロ水力発電とは、一般河川や沢の水をダムのようにためることなく、直接取水し発電させる発電方式のことをいいます。

開催当初からライトアップの要望があったため、平成23年に小鹿野町所有の電気自動車(EV車)2台を借りて、LEDによるライトアップを試験的におこなったこともあります。

「マイクロ水力発電でライトアップができないものか」と考えた同実行委員会の北孝行会長は、実際にマイクロ水力発電をしている3カ所を視察。長野県天竜市で、田んぼの水で発電を成功させているのを見て、「沢の水でもできる」と確信したそうです。

尾ノ内氷柱では「尾ノ内沢」の上流から水を吸い上げ、渓谷づたいにホースで取水タンクまで水を引き込みます。そこから導入管で発電小屋まで水を運び、電気を作ります。
このマイクロ水力発電を使ったライトアップは、令和3年1月に工事が完了し、同月30日に初めての点灯式が行われました。
「秩父の自然を生かしたおもてなしを楽しんでいただけたらうれしいですね」。北会長の言葉は、携わる人たちの思いそのものなのだと感じました。

◆取材を終えて

尾ノ内氷柱は、尾ノ内氷柱実行委員会や地元ボランティアなど多くの協力で開催される、小鹿野町の冬季限定のイベントです。開催期間はとても寒くなり、道が凍って滑りやすい場所もあります。歩きやすい服装や防寒対策して訪れてほしいと思います。
また、天候状況により開催期間が変更となる場合があります。詳しくは西秩父商工会ホームページ参照を。  

取材日:2021年12月5日
田部井斗江