【挑戦者たち】十色とうがらしファーム~“激辛”で農と町をつなぐ

「さいたまを激辛の聖地に!」と活動する女性たちがいます。 
2021年4月に見沼田んぼ内に開設されたトウガラシ専門農園「十色とうがらしファーム」。運営者は「合同会社 十色(といろ)」のサカール祥子(さちこ)さん、釘宮葵(くぎみやあおい)さん、松葉早智(まつばさち)さん。NPO 法人、IT 企業、自衛隊など、多様なバックグラウンドを持った彼女たちが農業を起点にさまざまな活動に取り組んでいます。 

トウガラシ色の服で取材に応じてくれたサカールさん(左)と釘宮さん。芽が出始めた麦とともに 

  <彼女たちの働く意識>

 チャレンジへのアプローチ
・おもしろがる。そして自分たちが楽しくあること!

 はじめの一歩を踏み出すには
・突破力。(詳細はあとで詰めることも多々)
まずは「やってみる」というスタンス。 

 仕事を続けていくには
・失敗は学びに変える。
・3人それぞれの強みを生かしあう。
・損得勘定で動かない。不便なこと、面倒なことでも、自分たちがやるべきと感じたらやる。

 農家じゃない女性3人で就農

農家出身ではない彼女たち。友達に誘われたことなどをきっかけに、それぞれが週末に見沼田んぼで農業をしていたそう。3 人は福祉系 NPO 法人で出会い、意気投合。そのNPO法人の事務局として、3 人で、障がいのある子ども向けに農体験イベントを立ち上げました。 

農体験イベントには一般からの参加希望も多かったことから、いろいろな人が農業と触れ合える機会を増やしていきたいと考えるようになったといいます。それには農業でしっかりと利益を出していける仕組みづくりが必要と考え、非営利団体であるNPO ではなく、営利企業として活動をスタートするに至ります。 

なぜトウガラシだったのか

利益を出していくにはどの作物がいいのか 1年間いろいろな作物をつくってみたそうです。 
「トウガラシは色もきれいで、形もかわいい。何より作っていて楽しかったんです。摘み取るときに気分があがるんです」 
実は辛いのが苦手というサカールさん。辛くないトウガラシを作ろうとしたのに辛いものができてしまったとか。そこでフードデザイナーに相談したり、いろいろと調べてみると、日本にはフレッシュで食べられるトウガラシが少なく、激辛好きからのニーズも高いということがわかり、本格的な栽培を決めたといいます。 

同社では見沼田んぼの生態系保全のため、農薬や化学肥料を使わずに栽培 

今年はトウガラシ50種類に挑戦!

同社で栽培するトウガラシは世界各国の多品種。ドラゴンズブレス、キャロライナリーパー、トリニダードスコーピオンブッチテイラーなど、名前からして辛そうなものまでさまざまです。 
「今年は 50 種類つくるぞ!と決めて種を集めました。アフリカの種はもしかしたら日本初の品種かもしれません」 
トウガラシ栽培で大変なのは芽だしから苗にするまでだそう。 
「熱を与えて強い苗に育ててから、畑に植えます。それまでに 2 カ月程かかります。2 月下旬から種まきをするのですが、苗にするまでに失敗しないようにとドキドキです」 

もっといろいろな人が気軽に農業に触れられるように

同社のテーマは「農と町をつなぐ」です。いろいろな人が気軽に農業に触れられるようにと、栽培体験やワークショップなどを数多く開催しています。 
今年は、トウガラシ栽培体験はもちろん、田植え・稲刈り、生き物観察体験のほか、ビール麦の栽培体験などを開催予定。 
「体験してもらうことが一番の近道」とサカールさんたちは言います。 
体験参加者から、スーパーで売られているものはサイズが均一なのに、ここのサトイモがふぞろいなのはなぜかという声があがったこともあるとか。 
「実際に見て触って得られる気づきというのは何物にも代えがたいもの。楽しんで学んでいるから、よりわかってもらいやすいと思うんです」 
昨年は耕作放棄地のノアザミやススキといった雑草を集めてスワッグ(花や葉を束ねて壁にかける飾り)づくり体験も実施。楽しい体験を通して、身近にある農地の現状を伝えていきたいと語ります。 

田植え体験では大人から子どもまでいろいろな人が参加しています

「“不便益“(ふべんえき。不便から生まれる益のこと)という言葉がありますが、私たちがやろうとしていることもそれに近いと思います。手間がかかっても、自分たちがやるべきと感じることなら、おもしろがって、やりたいですね」 
大変なことも楽しそうに語る彼女たち。 
「自然相手だと思い通りにいかないことばかりだけど、自分で作ったものを食べることは楽しいし、おひさまの下で体を動かすのも気持ちがいいですよ。それがポジティブでいられる原因かもしれません。失敗しても学びだったと思えるんです。心身ともに健康的です!」 

取材を終えて

今回の取材では松葉さんに話をうかがうことができませんでしたが、みなさん旅好きで、アジア、欧州、アフリカなどさまざまな国の滞在経験があるそう。大変なことでもおもしろがり、楽しむスタンスは、そういった経験があってこそかもしれません。異なるバックグラウンドを持ち、それぞれの強みを生かしながら突き進む彼女たち。何より楽しそうな様子が印象的でした。 

取材日:2022年2月4日
小林聡美