2015年に国連サミットで採択された、持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」。現在、17の目標に沿って、個人や団体、企業などがさまざまな取り組みを行っています。
2017年創業の「株式会社サムライトレーディング」(桶川市)は、環境保全に向けたアイデアを形にしている企業です。中でも、同社が開発した卵の殻を使ったバイオマス(生物由来の資源)プラスチックやエコペーパーは注目を集め、既に多方面で活用されています。代表取締役の櫻井裕也さんに、開発の経緯などを伺いました。
産業廃棄物の削減方法を模索して
櫻井さんは、食品製造会社の元経営者。「主に飲食店向けのマヨネーズやプリンなどを作っていたんですが、卵を大量に使うので殻の廃棄料だけで毎月40万~50万円かかっていました。それで、なんとかできないかと考えるようになったんです」と振り返ります。
2005年には、取引先の大手飲食店の自家農園へ、肥料として卵の殻を提供し始めましたが、あまり量を減らすことはできなかったそうです。
模索を続けていた2011年、櫻井さんは仕事で訪れたアメリカのスーパーマーケットで印象的な風景に出合います。「店内が茶色っぽいなと思ったんです。よく見ると、食品トレイが再生紙で作られていました。日本はプラスチックを使っているから、店内が白っぽいんですよね」。櫻井さんにとって、日本の環境保全対策の“遅れ”を実感する出来事となりました。
新素材を生み出した食品製造の技術力
そんなある日、ふと卵の殻をプラスチックに混ぜるアイデアがひらめいた櫻井さん。殻を粉末にして試作してみると、スムーズに完成に至ったといいます。
「食品製造会社としての技術が生かせました。マヨネーズなども複数の材料を混ぜ、分離させないよう考えて作りますからね。マヨネーズができるなら、きっと作れると思いました」
こうして、卵の殻を60%配合した素材「PLASHELL(プラシェル)」が誕生。廃棄物となる殻を削減できるとともに石油由来のプラスチック樹脂の使用を減らせるのが、特長です。さらに、卵の殻はそのほとんどが炭酸カルシウムで出来ているため、自治体によっては「燃やせるごみ」としての排出が可能で、焼却時の二酸化炭素発生も抑えられるとのことです。
その後、続けて同社では卵の殻の粉末を10~50%配合した紙「CaMISHELL(カミシェル)」を開発しました。紙の原料となる木材の使用を減らし、森林保護につながると話題になり、現在、紙袋や名刺などに使用されています。
2019年、プラシェルは革新的な技術開発などに贈られる埼玉県主催「渋沢栄一ビジネス大賞」において奨励賞を、翌年カミシェルは大賞を受賞しました。
「今、活用を考えているのは、産業廃棄物となっている『雑ビン』と呼ばれるビン。これで江戸切子を作れば伝統文化を守ることにもなるので、業界の人に相談しているところです。ほかにも家庭から廃食用油を回収するシステムづくりや、海洋ごみの活用などを始めています」と熱を込めて話す櫻井さん。環境に貢献するためのアイデアは、尽きることがありません。
取材を終えて
櫻井さんは、自然災害の被災地でのボランティア活動にも尽力されていて、その経験も気候変動など環境を考えるきっかけになったとのこと。終始、快活に受け答えをされる様子からは、山積する地球規模の問題をどうにか解決につなげたいという熱意とパワーを感じました。
取材日:2022年2月15日
矢崎真弓