【プラチナ企業】社会福祉法人ともに福祉会 “職員も生活者である”との視点で

働きやすい職場づくりを実践「プラチナ認定企業」

埼玉県では、仕事と家庭の両立を支援するため、多様な働き方実践企業の認定制度を設けています。
彩ニュースでは、3区分された認定ランクの中で最高位の「プラチナ認定企業」を取材し紹介します。
今回は、さまざまな事業で多方面から障害のある人たちの支援をしている「社会福祉法人ともに福祉会」です。春日部市にある事業所の一つを訪ねました。

♯06  社会福祉法人ともに福祉会
創業:1997年※事業開始は1992年
業務内容 : 日中支援(通所施設)、地域生活支援(訪問介護など)、暮らしの場(グループホーム)、相談支援
特徴 : 業務・技能に見合った給与体系、男性職員への育児休業取得促進、一人一人の負担を軽減する職員配置、介護休暇の整備など

企業担当者にインタビュー

法人本部役付・相談支援専門員・グループホームなないろ管理者  矢田部夏生さん

法人本部役付・相談支援専門員・グループホームなないろ管理者  矢田部夏生さん

管理職の立場で、職員の待遇改善などより良い職場づくりに尽力している矢田部夏生さんに、これまでの取り組みについて伺いました。(以下敬称略)

矢田部さんは職員の人事や知的障害児・者の相談など、幅広い業務を担当

給与体系の見直しと残業の削減を実現

――いつから働きやすい職場づくりに取り組み始めたのですか。

矢田部 2017年です。私自身、こちらで非常勤職員から始めたこともあって、現場で働く職員の給与規定や休みの取り方に目を向ける必要があると感じていたんです。まず自分が委員長となって「給与改定委員会」を立ち上げ、法人の“体力”も考慮しつつ、初任給や基本給のアップを実現させました。当法人の理事長が「自分たちの職場は自分たちで良くしていってほしい」という考えだったことも後押しになりました。

――残業を減らすシステムも導入したそうですね。

矢田部 ちょっと大変な作業だったのですが、過去3カ月間の時間外労働の内容を調査し、どの業務にどのくらい時間をかけるのが適正なのかを割り出しました。そのうえで、時間外労働になりそうなときは、職員が事前に業務内容と残業時間を申請する方法を導入したんです。

結果、適正時間に合わせて仕事を終わらせようとすることで、業務の効率化が図られ、残業の削減につながりました。もちろん、申請した時間を超えてしまった分も残業代は付きますが、自分でスケジュールを立てて仕事を進めることは、職業人として必要なことだと思っています。

先陣を切って男性職員として初の育休を取得

――矢田部さんは、男性職員で初めて育児休業を取得されたと聞きました。

矢田部 自分のような立場の人間が取れば後進が続きやすいと思い、2020年8月に1カ月間、休みました。僕は保育士資格を持っていて、以前は法人内の児童発達支援センターの管理者をしていました。そのころから「愛着形成の面からも乳幼児に接することは大切だ」と言い続けてきたので、取らないわけにはいきませんでしたね(笑)。その後、グループホームなないろ主任の酒井(雅人さん)が育休を取得し、現在2例となっています。

育児休業中の矢田部さん

――育児休業以外の休みも取りやすいのですか。

矢田部 当法人はもともと休みに関して理解があり、親の介護のための休暇制度が整っていますし、子どもの急な発熱などで仕事を休むことになっても問題ありません。職員の間には、お互いをフォローし合う関係性ができています。

グループホームでは3年ほど前、勤務体制を変えることで、より休みを取りやすくしました。グループホームは男性棟が3棟、女性棟が2棟あるのですが、以前は職員の勤務する棟が固定されていたため、1棟で複数人が休みを取ると他の職員にかかる負担が大きくなってしまっていました。そこで職員を固定せず、どの棟へもフォローに行くことができるように変えたんです。一人分の仕事を多くの人数で分ければ、一人一人の負担が減りますからね。

また棟を越えてさまざまな利用者さんに関わる中で、職員が初めて気づけることもあると思います。利用者さんにとっても、いつもとは異なる職員と接し、これまでに見られなかった面が引き出されるなどメリットは多いと考えています。

――今後、どのような職場づくりをしていきたいですか。

矢田部 利用者さんを支えるのが我々の仕事であり、その大事な部分を支えているのが職員です。決してないがしろにはできません。利用者さんだけでなく、職員も一人の生活者であることを忘れることなく、両者が満足して毎日を暮らしていけるように考えていきたいと思います。

社員にインタビュー

家庭を大切にしながら働き、専門職として経験を重ねてきました

家庭を大切にしながら働き、専門職として経験を重ねてきました

グループホームなないろ 主任 酒井雅人さん

グループホームなないろ 主任 酒井雅人さん

約6年前に業界未経験でスタートした酒井雅人さんに、入職のきっかけや職場の良さなどを伺いました。

酒井さんは今年(2022年)、棟長から主任に昇格

――こちらで働き始めたきっかけを教えてください。

酒井 大学卒業後、電子部品の製造やIT関係の仕事を経験しました。前職を退職し、次の仕事を探していたとき、当法人で働いていた知人から紹介されてグループホームを見学させてもらいました。その際、先輩職員がとても楽しそうに働いていたのが、今でも印象に残っています。仕事内容としては、利用者さんが一人ではできない、食事や排泄、洗濯などの生活のサポートをするという説明でした。それを聞いて「自分にもできるかも。やってみよう」と前向きな気持ちになり、入職しました。

――未経験の仕事で戸惑うこともあったと思いますが、どのように解消していきましたか。

酒井 会話をすることが難しい利用者さんも多いので、どうコミュニケーションを取ったら良いのか、当初は戸惑いました。でも、先輩から「家族に対するように接してください」とのアドバイスをもらったことで心構えができ、今もそれを柱としています。

経験を積むうち、少しずつですが、利用者さんの仕草などを見て「今ならこちらの言葉を聞いてもらえそう」とか、「今は距離を取ったほうがいいな」と判断できるようになりました。その繰り返しの中で、会話のバリエーションが増えるなどの変化が見られると、自分の気持ちがきちんと伝わっていることが感じられてうれしいです。

育休を取得したことで仕事への意欲がさらにアップ

――育児休業を取得されたそうですね。

酒井 二人目の子どもの誕生に合わせて2021年の6月から8月まで取りました。その前年、一人目が生まれたときも矢田部(夏生)さんからは育休取得を勧められたのですが、ちょっと勇気がなかったので(笑)、有給休暇を使って1カ月休みました。でも、子どもの世話や妻の手伝いをするには1カ月では短いと感じたので、二人目のときには制度を使うことにしたんです。育休の3カ月間は、とても貴重な時間でした。育休を取ったからだと思いますが、職場復帰後、仕事への意欲も増しました。

――このほか、どんなところに職場の良さを感じますか。

酒井 明るくて、人と話すのが好きな職員が多く、立場や経験年数などを超えて意見交換がしやすいです。また、矢田部さんの提案によって、職員がグループホーム間を行き来してフォローし合う体制に変わったことで、ぐっと働きやすくなりました。

グループホームの利用者に笑顔で接する酒井さん

――今後の抱負を教えてください。

酒井 これまでと同様、利用者さんが安全に、リラックスして過ごせる場所づくりをしていきたいです。僕は何一つ資格も経験もない状態からこの仕事を始めましたが、今年、介護福祉士の資格を取り、グループホームの主任にもなりました。主任は、3棟の男性棟を把握し、目配りをするのが主な仕事です。プレッシャーはありますが、全力でやっていこうと思っています。

社会福祉法人ともに福祉会
住所 埼玉県春日部市内牧3921-1
電話 048-753-3878

取材を通して

同法人は、現在、春日部市内に5部門15事業所を展開しています。事業所の開設を市内に限定しているのは、最初に立ち上げた地域でしっかり足元を固めることを重視しているからだといいます。実際、近所の人がパートスタッフとしてグループホームの食事作りや清掃を担うなど、地域とのつながりは密接です。

地域に根づいている法人だという安心感もあってか、未経験でこちらの仕事にチャレンジする人も少なくないようです。職場には、研修会の受講や資格取得を後押しするなど、職員がステップアップを目指せる環境が整えられています。

そんな中、見る見るうちに成長していったのが酒井さんです。ただ意外にも本人は「この仕事に向いているとは思っていません」とのこと。それを聞いた矢田部さんいわく「向いていないと思っているくらいのほうが自分の仕事を振り返ることができて良いんです」。“向いている”との思い込みは、過信につながる恐れがあるのでしょう。どんな仕事にも共通することではありますが、特に人の生活や命を守る仕事には重要な観点かもしれません。

取材日:2022年4月5日
矢崎真弓