【秩父】秩父神社御本殿の彫刻〜国宝に向けての準備!古来の姿へ~

城門を感じさせる秩父神社の神門

秩父神社は秩父市のなかでも歴史があり、2014年に創建2100年を迎えました。
同神社の大祭である秩父夜祭は、京都の祇園祭、飛騨の高山祭とともに「日本三大曳山祭」に数えられ、2016年にはユネスコ無形文化遺産に登録されています。

秩父神社彫刻の塗りなおしを開始

本殿正面の彫刻「子宝子育ての虎」。近くで見ると迫力があります

同神社の本殿には、歴史ある彫刻がいくつも見られます。
「本殿は1569年に武田信玄によって焼かれてしまいましたが、1592年に徳川家康公により建て直されました。家康公により再建された本殿の彫刻は当時の形を変えることなく、改修を重ねそのままの状態をとどめています」と権宮司の薗田建(そのだ・たけし)さん。

本殿正面にある彫刻「子宝子育ての虎」は徳川家康が寅(とら)年だったため、虎にまつわる祈祷(きとう)のある秩父神社を気に入り、名工・左甚五郎に彫らせたと言われています。
家康が建てたのだとすぐに分かるよう、本殿正面に彫らせたそうです。

同神社ではこうした歴史ある彫刻の塗りなおしを「御鎮座2100年奉祝事業」として2019年から開始しました。
「前回の塗りなおしから約50年経っており、国宝を普段から手がけている国内屈指の職人を呼び、4年間にわたる長期の塗りなおしを決定しました」

埼玉県で唯一国宝としてある建物は、妻沼聖天山のみ。秩父神社も彫刻や歴史的価値が高いため、伝統工法で作業をおこなうことにより国宝に向け準備を進めています。

古来の姿へ戻すために

職人の手により、古来の鮮やかな色合いへ

今回の塗りなおしで「古来の色合いと違うのでは?」という疑問が職人から出されたといいます。そこで科学的な調査を依頼し、本来あった姿へ戻す作業を行うことになりました。
彩色には、鉱石を砕いた岩絵の具を使います。

薗田さんは「現在使用されている塗料は化学溶剤を使っており、色合いが不自然になるのです。古来の工法や材料を使おうとすると、材料が手に入らないときもあり費用も高額になりますが、日本の誇る伝統文化を残すには古来からの工法でやり遂げたい」と考えたそうです。
現代では僅少な”本物の建造物”を伝えていくため、国内屈指の職人と共に作業の打ち合わせや確認を行いました。

伝統工法職人のこだわり

これぞ職人の技。筆一本で鳥の羽などの細部まで描きあげられています

「職人さんの本気度は、彫刻の細部を見ると分かります。狛犬(こまいぬ)やバクの手の肉球、鳳凰(ほうおう)・山鳥の鼻孔の細かい部分まで描かれているのです」と薗田さん。マスキングをせず筆一本で鳥の羽を描きあげていく技術を持った職人は、国内でも数少ないといいます。

「歴史ある建造物や彫刻を次の世代に残し、若い人たちにも知ってもらうこと、そして伝統工法ができる職人の腕を振るう場所を残すことが、秩父神社としての使命であると考えています」と語る薗田さんの真剣なまなざしが印象的でした。

◆取材を終えて

彫刻本来の耐久年数は約20年から30年ほどと言われています。秩父神社は自然環境が良いため、はげ落ちることなく50年間持ち続けたそうです。心穏やかに歩きながら彫刻を眺めたい気分になりました。   

取材日:2022年3月2日
田部井 斗江