地震や台風、火災など、いつ起こるか分からない災害。近年は、特に気候変動による自然災害が多発しています。自分の身を守るためには、災害について理解したり、災害時の行動を見直したりすることが大切だとされています。
そうした機会を提供しているのが、埼玉県防災学習センター「そなーえ」です。子どもも大人も楽しみながら防災を学べる体験施設で、入館は無料です。
大地震や消火作業を疑似体験
1階には、体験施設や防災クイズのコーナーがあります。展示は自由に見て回れますが、体験はスタッフの案内で行われます。今回は、同館で総務管理グループ長を務める根岸 学さんに案内してもらいました。
最初に「スイッチングシアター」でアニメを鑑賞。当たり前の日常が災害で一変するという内容で、見ているうちに防災に向けて気持ちを切り替えることができます。
その後「地震体験」へ。囲いの中に入って実際に起きた地震の揺れを疑似体験するというもので、今回は東日本大震災発生時の最大震度7を選択。揺れると分かっていても怖さを感じます。「体験は45秒ですが、実際にはこの2、3倍の時間、揺れたそうです。そう考えると、被災地の人の気持ちがよく分かると思います」と根岸さんが説明してくれました。
「消火体験」では、練習用の消火器で、目の前の画面に映し出された火を消火します。消火器は、まず安全ピンを抜き、次にホースを外して火元へ向け、最後にレバーを握ると水が噴射します。「手順は“1ピン、2ホース、3レバー”と覚えてください」と根岸さん。団体など大人数での参加でも全員が体験できるよう、練習用消火器をいくつも用意しているそうです。
このほか、空間に充満した煙から避難する「煙体験」と、最大風速30mの風を受ける「暴風体験」もあります。ただし、この二つの体験は密室で行われることから、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、2022年5月22日現在、休止しています。
楽しく学べるさまざまなイベントも
2階は展示フロア。壁には、架空の町を舞台に災害発生前から発生直後、そして復興までの移り変わりが絵巻物のように描かれています。また、非常持ち出し袋の中身や自宅に備えておくべき品、地震時にブレーカーを自動的に落とす装置など、多数の展示品もありました。
同館は小学校や幼稚園など団体利用も多く、中には何度も来館する熱心な学校や園もあるとのこと。副所長の富山加代子さんは「幼稚園の方針で、3年連続で来館してくれた年長のお子さんの話です。一人で留守番中に大きな地震が起きたのですが、お母さんが帰宅したとき、その子は家具など何もない部屋で頭を布団で守り、じっとしていたそうです。『センターで何回も習ったから』と言っていたと聞き、繰り返し学ぶことの大切さを感じました」と防災学習の効果を話します。
同館では、楽しく防災を学べるように、企画展や工作、実験、ワークショップなどさまざまなイベントも開いています。取材日に行われていたのは「ぼうさい釣りゲーム」。フェルトで作られた水や時計、薬などの中から避難の際に持っていきたいものを3つ、磁石で釣り上げ、その後、選んだ理由を発表し合います。この日は何組かの家族が参加し、小さな子どもも楽しんでいました。
現在、同館では夏休みに向けたイベントを準備中。内容は決まり次第、ホームページに掲載されます。
所長の新井孝佳さんは「災害に関して『自分は大丈夫』と思っていると、大変なことになる場合があります。日頃から危機意識を持ち、万一のときにすぐ動けるようにしてもらいたいですね。堅苦しいだけの施設ではありませんので、ぜひ来館していただきたいです」と呼び掛けています。
◆取材を終えて これまで映像や文章を通して、震度7の威力を知ったつもりになっていましたが、「地震体験」をさせてもらい、本当の恐ろしさを実感しました。やはり、“体験”は、何よりの学びになります。一人でも多くの人に来館してもらいたいと思います。 取材日:2022年5月22日 矢崎真弓