【草加】食品ロスと困窮世帯をゼロに!~フードリカバリースーパー ゼンエー

「食品ロス」とは、問題なく食べられるのに廃棄されてしまう食べ物のこと。国が公表している、2020年度の食品ロス量は522万トンに及びます。これは、日本の全国民が毎日一人茶碗1杯分の食料を捨てている状態に該当するとされています。

「フードリカバリースーパー ゼンエー」(全栄物産株式会社)は、食品ロスの削減に取り組んでいるスーパーマーケットです。一般の商品のほかに、賞味期限が迫っていたり、容器がへこんでいたりするなどの理由から、通常の流通から外されてしまう菓子や飲料等の食品も販売。また、大きくなり過ぎたタマネギや少しキズのあるニンジンなど、いわゆる「規格外野菜」も扱っています。店名の“リカバリー(回復)”には、こうした食品を流通に“戻す”という意味が込められています。

売り場に掲げられているパネルには、商品説明が書かれています

スーパーの敷地内に“公共冷蔵庫”を開設

同社の代表取締役・植田全紀(まさき)さんは、もともとは青果店の経営者。2012年当時、売り場を借りていたスーパーが閉店すると聞き、経営を引き継いで新たにオープンさせたのが、今の「ゼンエー」です。「店を軌道に乗せるまではいろいろ大変でしたが、少し安定した2018年ころから食品ロス削減に取り組み始めました。何か世の中のためになることをしたいという気持ちがずっとあり、どうすれば良いか考える中で食品ロスの問題を知ったんです。これなら社会に貢献できるのではないかと思いました」と植田さんは経緯を話します。

その後も、常に人の役に立つ方法を考え続けていた植田さん。2021年12月に「コミュニティフリッジ(公共冷蔵庫)」という仕組みを知ると、実現に向けて動き出します。これは、生活に困窮している人たちに、寄付された食品や日用品を24時間、無料で提供するという仕組み。欧州で始まり、日本では2019年に初めて岡山県に登場しています。

植田さんは、岡山の運営団体にコミュニティフリッジのノウハウを教えてもらった後、活動をより広げるため、自身が青年部の会長を務める草加商工会議所に一つの事業として提案。スムーズに採用となり、2022年6月、スーパー敷地内の拠点でスタートさせました。

コミュニティフリッジの拠点の前に立つ植田さん。中には、企業や個人から寄付された食品などが並んでいます

コミュニティフリッジの利用は登録制で、児童手当や就学援助等の受給世帯が対象。利用者は、スマートフォンのアプリで電子ロックを解除して、食品や日用品を持ち帰ることができます。
「寄付していただくものは、人の手で受け取っています。自家菜園で育てた野菜を持ってきてくれる方もいらっしゃいますね。企業は、現在10社ほどが協力してくださっています」とのことで、少しずつ広がりを見せているようです。

問題解決に向けて活動団体を設立

コミュニティフリッジを実現させた翌月、植田さんは仲間を集めて「一般社団法人日本フードリカバリー協会」を設立。食糧支援や食品ロスの啓蒙活動、フードリカバリーショップの運営などを通して、地域貢献を目指しています。

「地域の食品を地域の人に提供し、ある意味“地産地消”みたいな感じになるといいですね。草加で食品ロスと貧困世帯がゼロになれば、自分たちの活動が役に立っているという実感が持てるのではと思います」と、植田さんは信念と希望を持って目標に向かっています。

2022年2月に「生鮮スーパーゼンエー」から、現在の「フードリカバリースーパー ゼンエー」に店名変更
◆取材を終えて

個人スーパーの経営者の立場で、直接、金銭的利益につながらない活動に力を注ぐのは、なかなかできることではないと思います。日々の食事に困っている人たちがいる一方、毎日大量の食品が捨てられているという、とても不自然な状態が改善された世界を私も見てみたいです。

取材日:2022年8月22日
矢崎真弓