【久喜】安心して楽しく過ごせる子どもたちの居場所~“はぴチル”宿題かふぇ

現在、国を挙げて、子どもと保護者を支えるさまざまな施策が考えられています。また日本各地でも、その地域に根付いた取り組みが行われています。

久喜市に拠点を置く「学校法人柿沼学園」は、1975年に幼稚園の開園からスタート。現在は認定こども園や保育園、子育て支援センター、学童クラブのほか、市の委託事業「子育て案内所えんむすび」など子どもに関わる幅広い事業を手掛けています。一方で、委託や助成を受けない独自の事業も展開しています。

独自の事業の一つが、2020年に開設した小学生対象の「こどもむら寺子屋ハウス“はぴチル”宿題かふぇ」です。どのような場所なのでしょうか。同法人の地域協働室で室長を務める狩野(かりの)紀美子さんに、立ち上げの経緯や取り組み内容などを伺いました。

宿題かふぇが併設されている「子育て案内所えんむすび」外観と、保育士資格も持つ狩野さん
宿題かふぇは「子育て案内所えんむすび」に併設。右は、保育士資格も持つ狩野さん

行政の手が届きにくい部分を独自事業でカバー

同法人では、宿題かふぇに先立つ2017年から子どもの居場所として「駄菓子屋むすび堂」を開いています。「むすび堂は、認定こども園を卒園後、学校や家庭に居場所がなかったり、友だちとうまく付き合えなかったりしている子どもたちに対し、私たちに何かできることはないかと考えて始めた独自事業です。放課後、気軽に立ち寄れて、先生や保護者には話しづらいことを打ち明けられる“第三の大人”がいる場所を目指しました。実際、今、子どもたちは駄菓子を買いながら、ちょっとした悩みを相談してくれますし、私たちにとっては来店した子から『○○ちゃん、最近学校に来てないんだよ』といった情報を得ることができる場となっています」と狩野さん。

そして、むすび堂を運営する中で分かってきたのが、家庭環境に問題のある子どもや夕方遅くまで一人で留守番をしている子どもの存在でした。それが、学童クラブとは異なる、新たな子どもの居場所「こどもむら寺子屋ハウス“はぴチル”」開設のきっかけになりました。

「私たちはこれまでも地域のニーズに合わせて、子どもや親の手助けになるような場所をつくってきました。ほかにも、妊娠中の人や産後間もない人が気軽に集まれる場『マタニティハウス・ベビールーム』といった独自事業もあります。宿題かふぇもその一環ですね。行政の手が届きにくい“隙間”を埋めている感じでしょうか」

「宿題かふぇ」としたのは、目的があったほうが子どもたちも利用しやすいと思ったからだそうです。「子どものやる気や自主性を尊重しつつ、分からないことがあれば、教員免許を持つ常駐スタッフが丁寧に教え、基礎学力を身に付けられるようにしています」というのが、宿題かふぇの方針です。

建物の中は、二部屋あり、勉強に集中できる環境。宿題を終えた子どもは隣接するプレールームへ移動し、スタッフが見守る中、思い思いに過ごします。

宿題をする部屋では、スタッフに教わる子どももいます。プレールームでは、子どもたちが読書や手芸、カードゲームなどを楽しんでいました
上は、宿題をする部屋。スタッフに教わる子どももいます。下は、プレールーム。取材日には、子どもたちが読書や手芸、カードゲームなどを楽しんでいました

ポイントをためたら駄菓子券をプレゼント

「ここで学年を越えて縦割りで過ごすことは、良い経験になると思いますし、家で一人で描いていた絵をプレールームで他の子に褒められたりすると自信につながります。そして何より宿題を済ませて家に帰れば、それだけ親子でゆっくりできる時間が増えますよね」と、この場所は多くのプラス効果を生み出しているようです。

宿題かふぇでは、勉強への意欲を引き出すためにポイント制を導入。宿題を終えたらカードにはんこを1つ押し、3つたまった子どもには、駄菓子屋むすび堂の本店・はぴチル店で使える駄菓子券をプレゼントしています。「やっぱり、ご褒美があったほうが頑張れますからね」と狩野さん。

子どもをやる気にさせるポイントカードと駄菓子券。子育て案内所内の一角には「駄菓子屋むすび堂はぴチル店」があります
ポイントカードと駄菓子券(左)。子育て案内所内の一角にある「駄菓子屋むすび堂はぴチル店」

宿題かふぇは、登録・予約制で利用は無料。保護者や小学校と連携しているため、その日利用する子どもは放課後、直接訪れることができます。開設時間が19時までと長いこともあり、プレールームではおにぎりなどの軽食も提供しています。

「おなかが満たされていれば落ち着いて過ごせますからね。ご要望を受け、これから市内にもう1か所、宿題かふぇを開設する予定です。子どもが生まれて育っていくことをみんなで喜び、一緒に子育てを楽しむまちになればいいなと思っています」と狩野さんは話しています。

◆取材を終えて
自宅・学校(職場)以外の3つ目の居場所は、子どもにも大人にも大切だとされています。電子ゲームの持ち込みがNGとはいえ、プレールームで子どもたちがテーブルを囲み、昭和時代からあるカードゲームを楽しんでいる姿は新鮮でした。宿題かふぇに限らず、地域の課題を素早くキャッチして実現させる柿沼学園の姿勢は注目を集めていて、埼玉県知事や国会議員も視察に訪れています。

取材日:2022年1月13日
矢崎真弓