働きやすい職場づくりを実践「プラチナ認定企業」
埼玉県では、仕事と家庭の両立を支援するため、多様な働き方実践企業の認定制度を設けています。彩ニュースでは、3区分された認定ランクの中で最高位の「プラチナ認定企業」を取材して紹介します。
今回は、長年にわたり、多種多様な野菜の種や苗などを開発し、国内外に供給している「トキタ種苗株式会社」です。5年前、創業100周年を機に建て替えられたという、さいたま市の社屋を訪ねました。
♯10 トキタ種苗株式会社
創業:1917年
事業内容 : 野菜・花卉種苗の品種開発、生産、販売、輸出。農園芸資材の開発、販売
特徴 : 子育て等の事情に合わせた短時間勤務制度、自己啓発支援制度(語学習得・資格取得・書籍などの費用支援)、チームでの健康づくり
企業担当者にインタビュー
執行役員会長秘書・総務経理部部長 我如古(がにこ)春世さん
執行役員会長秘書・総務経理部部長 我如古(がにこ)春世さん
21年前に入社し、現在、要職を担っている我如古 春世さんにお話を伺いました。(以下敬称略)
部署の垣根を越えて活発に交流
――オフィスを拝見しましたが、とても開放的な雰囲気ですね。
我如古 当社では、新社屋建設を機に社員の固定席を決めない「フリーアドレス制」を導入しました。2週間に1回、席替えをするというシステムです。部署ごとの区切りがないので、必要なときに必要なメンバーがすぐに集まってミーティングができ、部署間の交流も活発になりましたね。
ペーパーレス化も進めていて、デスクの上には最小限のものしか置かれていませんから、席替え時の移動もしやすいんです。ただ、私が担当する総務経理部については重要資料が多いため、固定席です。
――種苗の品種開発などの部署がある「大利根研究農場」は、本社から離れた埼玉県加須市にありますが、どのように連携されているのですか。
我如古 品種開発の担当者と、本社勤務の販売担当者は、密な連携が欠かせませんので、しょっちゅう、オンライン会議を行っています。コロナ禍の影響もあって、海外のグループ会社の社員とのミーティングも含め、オンラインが当たり前になりましたね。
――社員間のコミュニケーションが円滑なのですね。
我如古 社員からの提案で、部署を超えてチームをつくり、定期的に一人一人の野菜の摂取量を測るという健康づくりにも取り組んでいます。チーム対抗ですが、競うのは食べた量ではなく、前回からの上昇率です。皆さん、チーム内で声を掛け合って、野菜を食べるようにしていますね。
当社で品種開発したイタリア野菜などが社員に提供される機会もあるので、意識して野菜を食べている人も多いです。その結果、当社の野菜の摂取量が全国平均より高くなりました。
――たくさんの品種を開発されていますね。
我如古 当社では、多くの人に野菜づくりを知ってもらおうと、毎年、大利根研究農場の一部を開放する「オープンデー」(※)を開催しています。今年(2022年)は、11月17日(木)・18日(金)の予定です。
※詳しくは同社ホームページ参照を
社員の子育てを支援する制度と社風
――子育て中の社員に理解のある職場だとお聞きしています。
我如古 今年3月には、初めて男性社員が育休を取得しました。会社として、特に男性社員に取得を奨励していたわけではないのですが、本人が育休を取るのを自然なこととしてとらえていたようです。復帰後、「生まれたばかりの子どもの世話ができて良かった」と話してくれました。
女性社員で長期間、育休を取ることになった場合などは、代わりとして派遣社員をお願いすることもありますね。そして本人が復帰した後も、派遣の方に引き続き働いてもらったりしています。
――時短勤務もできるそうですね。
我如古 定時は8時40分~17時で、夏季のみ17時30分までですが、9時~16時勤務の人もいます。時短勤務ができるのは、子どもが3歳になるまでとしていますが、個人の事情や希望によって延長することも可能です。大人数の企業ではありませんから、一人一人への期待が大きいですし、経験を積んだ社員を大切にしたいという考えもあります。
――こうした社風は以前からのものですか。
我如古 そうですね。私は、子どもが保育園児と小学生のときに入社したのですが、当時、総務経理部長を務めていた現会長の奥様から「一番大切なのはお子様です。病気になったとき、学校行事のときなど、いつでもお子様を第一優先にしてください」と言っていただきました。実は私は前職で、職場の理解が得られず、子育てと仕事の両立に挫折した経験があったので、その言葉はすぐには信じられませんでした。でも、実際とても働きやすかったです。
“子ども優先”は、社員に限ったことではなく、パートナー(パートスタッフ)さんについても同じですから、皆さん、長く勤めてくださっていますね。働く人をずっと家族のように大切にしてきた会社だと思います。
社員にインタビュー
子育てと両立しながら働き、学び、スキルアップを目指しています
子育てと両立しながら働き、学び、スキルアップを目指しています
海外事業部 飯塚(いいつか)美穂さん
海外事業部 飯塚(いいつか)美穂さん
1年2か月の育児休業を経て今年4月に復帰した飯塚さんに、現在の仕事内容や働きやすさなどを伺いました。
研究農場から海外との取引を担う部署へ異動
――どういう経緯で、こちらに入社されたのですか。
飯塚 私は大学院で土壌微生物学を研究し、修了後は、青年海外協力隊の野菜栽培隊員としてモザンビークで2年間活動しました。トキタ種苗のことを知ったのは、帰国後に開かれた隊員向けの就職説明会の場です。農業分野の会社を希望し、何社もの説明を聞いたのですが、担当者として来ていた当社の部長の話し方がとても柔らかかったんです。人や会社の良さが伝わってきたことが、入社の決め手となりました。
2016年4月に入社した後は、大利根研究農場で、出荷する種の品質管理などの業務を担当しました。
――その後、今の部署に異動されたのですね。現在の仕事内容を教えてください。
飯塚 海外に種などを販売するため、中国、インド、アメリカ、イタリア、チリにあるグループ会社や現地の取引先などと直接やり取りをしています。新しい品種が出来たら取引先に紹介し、試作してもらい、OKが出れば販売につなげていきます。
海外に種を送ることになった場合は、社内の各部署と連携して、在庫確認や先方の要望に合わせた梱包(こんぽう)などを行います。貿易に必要な書類を間違いのないように作成するのも、私の仕事です。多ければ10t、20t分の種を何十日もかけて送りますから、無事に着いたという連絡が入ると、ほっとします。
――海外とやり取りされているということは、外国語が堪能なのですね。
飯塚 残念ながら、一例目以大学院時代にブラジル留学の経験があり、ポルトガル語はある程度できましたが、入社時は、英語は得意ではありませんでした。でも、週1回、社内で開かれている英会話教室を受講することで上達してきたと思います。外部から講師を招いていますが、会社の支援制度なので、どの部署の社員も無料で学ぶことができます。
――社員の「学びたい」「知りたい」という気持ちを応援してもらえるんですね。
飯塚 自分の興味のある本を買って書評を書くと、会社に代金を負担してもらえるという制度もあります。金額の上限はなく、内容も問われません。その本は手元に置いても、会社に提供しても良いことになっています。提供された本が並ぶ本棚には、テレビのバラエティ番組のシリーズもありますね(笑)。
育休中や復帰後の支えに改めて働きやすさを実感
――育児休暇を取得されたそうですが、どのくらいの期間だったのですか。
飯塚 2021年2月から1年2カ月間です。なかなか保育園が見つからず、予定よりも長くなりました。復帰前は、子どものことで会社に迷惑をかけるのではないかといろいろ心配しましたが、上司も同僚も優しかったです。子どもの急な発熱で突然、仕事を休むことになったときも「お互い様だから」と言ってくれました。
――いい職場ですね。復帰に当たり、業務そのものへの不安はありませんでしたか。
飯塚 育休中、部長が毎月決まった日にメールで月報を送ってくださっていたので、職場に戻っても“浦島太郎状態”にならずに済みました。新しいシステムを導入したことも事前に教えてもらっていましたね。
その新システムは、引き継ぎがしやすいため、子どもの急病で私が欠勤したときなども、自宅から同僚に電話して代わりに対応してもらいやすいんです。このほか、困ったことがあれば、何でも相談にのっていただけるので安心して働くことができています。ますます働きやすい職場になったと思います。
――今後の目標を教えてください。
飯塚 貿易事務の資格取得にチャレンジしてみたいですね。それから、今は保育園へのお迎えのため、社内の英会話教室に参加できていませんが、いずれ復帰したいです。ワーク・ライフ・バランスを実現しやすい会社なのでできると思います。
現在、さまざまな職場で子育てと仕事との両立がしやすくなってきたのは、これまで社内外の多くの女性の先輩たちが強く頑張ってきてくださったからだと思っています。私も次の世代にバトンをつなげられるよう、頑張ります。
●トキタ種苗株式会社
住所 埼玉県さいたま市見沼区中川1069
電話 048-683-3434
取材を通して
我如古さんは、かつて子育てと仕事との両立に苦労していたとき、職場でも保育園でも「すみません」と謝ってばかりだったそうです。そんな辛い経験があるからこそ、子育て中の社員への理解が深く、言葉の端々からは後輩を応援する思いが伝わってきました。
飯塚さんは、優しい笑顔と穏やかな口調が印象的な方。大利根研究農場から海外事業部へ異動となった理由について、我如古さんが「いつもニコニコしていて気立てがいいから、人と関わる仕事をしてもらいたいということだったようです」と“裏話”を教えてくれました。ご本人は初耳としながらも、「研究所の仕事も好きでしたが、海外事業部にも興味があったので異動は楽しみでした」と笑顔で話してくれました。
オフィスにお邪魔した際、少々驚いたのは、フロアの社員の皆さんが口々に「いらっしゃいませ」とあいさつをしてくださったこと。社長室のドアも開いていて、会社全体がとてもオープンな雰囲気でした。
同社は、創業100年を超える老舗。長く続いている理由の中には、“人を大切にしている”“働きやすい職場環境を整えている”こともきっと含まれていると思います。
取材日:2022年10月4日
矢崎真弓