働きやすい職場づくりを実践「プラチナ認定企業」
埼玉県では、仕事と家庭の両立を支援するため、多様な働き方実践企業の認定制度を設けています。彩ニュースでは、3区分された認定ランクの中で最高位の「プラチナ認定企業」を取材して紹介します。
今回は、粉末状の塗料を使った“粉体塗装”を手掛けている「有限会社山口金属塗装」です。2022年8月にプラチナ認定企業となった同社を草加市内の工業団地に訪ねました。
♯12 有限会社山口金属塗装
設立:1966年
事業内容 : 粉体焼付け塗装、塗装に関わる業務全般
特徴 : 残業削減への取り組み、有給休暇取得の推進、女性管理職の活躍、社員用駐車場の完備
企業担当者にインタビュー
代表取締役 山口修代(なおよ)さん
常務取締役 榎本裕次郎さん
代表取締役 山口修代(なおよ)さん
代常務取締役 榎本裕次郎さん
約11年前に、創業者である父親から会社を引き継いだ山口さんと、社長を支える立場の榎本さんに、同社の変遷や職場づくりについて伺いました。(以下敬称略)
環境に考慮した先代が粉体塗装を選択
――最初に「粉体塗装」とはどういうものなのか、教えてください。
山口 粉体塗装の工程は、お化粧と似ています。お化粧は、洗顔して肌をきれいにしてから化粧水を付け、パウダーを付けますよね。粉体塗装の場合も、前処理をしてから粉を付けます。その後、熱を加えて焼き付ける点が違いますけどね。シンナーを使った溶剤(液状)塗装に比べ、粉体塗装は環境への負荷が少なく、また塗膜の強度が高いため、品物に傷が付きにくいといった利点があります。
榎本 この方法で建物回りのフェンスや柱、ガードレール、照明器具、金具などの金属を塗っています。
――ずっとこの方法で塗装をしているのですか。
山口 創業したころは、まだ粉体塗装という手法はなく、溶剤塗装が一般的でした。昭和56年にこの工業団地が出来るタイミングで移転したのですが、遠方まで溶剤塗装特有の匂いが流れてしまい、市に苦情が寄せられるということも度々あったと聞いています。そのため、父は今後の塗装業界において環境面を重視していくことが大切だと考え始めたようです。
一方で当時、新しい手法として粉体塗装が登場し始めていて、お客さんからの要望で少しずつ手掛けるようになっていました。そこで、新しもの好きというか、先見の明があったというか、父が粉体塗装へ切り替えることを決断したんです。溶剤塗装工場と粉体塗装工場を並行して稼働させながら、粉体塗装の割合を高めていき、平成20年に粉体塗装に一本化しました。
――時間をかけて移行させていったんですね。山口さんはどのような経緯で社長に就任したのですか。
山口 看護師として数年働いた後、結婚・出産を経て、弊社に入社し塗装の仕事をしていました。2012年、私が社長に就任すると同時に父は会長になりました。自分が現役の状態で引き継がせたかったようですが、当時、製造工場の社長で女性はあまりいなかったので、父にとっても勇気ある決断だったんじゃないかと思います。
――ご自身は2代目になることに抵抗はなかったのですか。
山口 子どものときから継ぐように言い聞かされてきましたからね。悩むこともありましたが、私と同じような立場で会社を継いだ人たちと知り合ったことで、少しずつ気持ちが落ち着いていった感じです。
実は2年前、頼りにしていた父が亡くなったんです。自分だけで決断して進めていかなくてはいけない状況になったことで、社員の生活や働きやすい職場環境について、それまで以上に深く考え始めました。
――そうして、いろいろ見直したことがプラチナ認定につながったんですね。
給与形態の変更や社員用駐車場の整備などを実行
――職場環境はずいぶん変わったのですか。
榎本 ここ2年ほどで社長がいくつもの決断をし、職場環境を改善していきました。例えば、それまで時給制だった社員の給料が月給制に変更され、土曜日が休みになりました。給料の額は、前年の年収に基づいて計算していますから、社員も納得しています。
山口 当時、コロナ禍で仕事が減っていて、土曜日まで出勤する必要がなかったということも変更のきっかけになりました。
榎本 有給休暇も取りやすくなりましたね。しかも、工場内で同じ工程を担当する複数の社員が同じ日に休みを申請しても、社長は「いいよ」と許可してくれるんです。
――その工程はどうするんですか?
榎本 社員たちがどうすれば良いかを自然に考えるようになり、ラインを動かす努力をしてくれています。社長や私、事務の社員も手伝いには入りますが、メインの仕事は現場スタッフに任せています。工場担当者15人中、病欠を含め8人が休んだ日も工場が止まることはありませんでした。
昨年、新しい塗装設備を導入し、仕事の効率が上がったのも良かったです。少ない人数でも、なんとか稼働できるようになりました。
――結束力が強いですね。ほかに、どのようなことがありますか。
榎本 社長が技能実習生のための寮や、社員用の駐車場を買ってくれました。寮はあったのですが、古かったんです。寮も駐車場も「借りるより買っちゃえ」ということでした。私から見ると、その思い切りの良さは先代譲りですね。
山口 以前の寮は築60年ということもあり、住みづらくなっていましたし、駐車場を用意したのは、雨の日も自転車で通勤する社員を見て、どうにかならないかと思っていたからです。どちらも以前からの課題だったわけではなく、必要を感じ、整えました。
――今後の抱負を教えてください。
榎本 元気に稼働している弊社の姿を周囲に見せ続けることで、工業団地を盛り上げていきたいですね。「工業団地は活気があっていい」と思ってもらうためにも、そうした役割を担えればと思います。
山口 社員のモチベーションを上げ、みんなが貪欲に仕事に取り組めるような環境づくりをしていく予定です。既にいくつか構想もありますので、近いうちに実現したいと考えています。
社員にインタビュー
年齢や職種の壁がなく、みんなで力を合わせて仕事をしています
年齢や職種の壁がなく、みんなで力を合わせて仕事をしています
営業事務 嶋﨑英子さん
営業事務 嶋﨑英子さん
勤続8年の嶋﨑さんに、仕事の内容や職場環境について伺いました。
取引先と現場をしっかりつなぐ橋渡し役
――入社のきっかけと仕事の内容を教えてください。
嶋﨑 自宅から通いやすいところで、事務の仕事を探して見つけた職場です。パートスタッフとして入社し、その後、社員になりました。
営業事務なので伝票処理のほか、受注の窓口としての業務も担当しています。お客様と電話でやり取りし、塗装する品物の確認や金額・納期の交渉などをして、その内容を現場に伝えています。お客様の品物を塗るときは、受注書の内容と合っているか、現場に行って確認したりもしますね。
――取引先と工場をつなぐ、重要なポジションですね。
嶋﨑 工場で人手が足りないときには、出来る範囲でお手伝いもしています。初めて「手伝って!」と呼ばれたときは、足を引っ張ってしまうんじゃないかと心配しましたが、少しずつ手順を覚え、梱包作業などができるようになりました。
――大変ではないですか。
嶋﨑 1日中、座って事務仕事をしていると、かえって疲れてしまうんですよね。私の場合、工場で適度に体を動かしたほうがいい感じです(笑)
私、こちらに入社してから大きな声が出せるようになりました。それまでは恥ずかしくて大声を出すことはなかったのですが、先代が元気にあいさつする方だったこともあって自然にそうなりましたね。事務職ですが、堅苦しさはなく伸び伸び働いています。
――時給制から月給制に変更されたそうですが、いかがですか。
嶋﨑 時給制のときは、ゴールデンウイークやお盆など長期休みが入ると給料が少なくなってしまっていましたが、今は安定しているので、とてもいいですね。家計のやりくりもしやすくなりました。
――有給休暇の取得についてはいかがでしょう。
嶋﨑 希望すれば有休は取れますし、実際、取っていますが、休んでいても職場のことが気になるんですよね。というのも、事務スタッフ3人がそれぞれ担当しているお客様の伝票の形式が違うからなんです。担当者にしか分からないことも多く、他の人に仕事を代わってもらいにくい状況です。
それを解決するために、事務仕事のマニュアルを作ろうと思っています。事務スタッフの間で仕事を代われるようにしておくと、安心して休めますからね。時間を見つけて進めていきたいです。
●有限会社山口金属塗装
住所 埼玉県草加市青柳1丁目5-49
電話 048-936-3586
取材を通して
山口社長は、淡々とした口調の中にも熱を持ってインタビューに答えてくれました。職責とはいえ、さまざまな職場改革を短期間で行うためには、かなりのエネルギーが必要だったことでしょう。そんな社長を陰になり日向になり、サポートしているのが榎本さんです。榎本さんは、かつて別の会社で社長を務めた経験があるため、トップに立つ人の苦労が理解できるといいます。
そこでお二人に「山口さんにとって榎本さんはどのような存在ですか?」と聞いてみました。すると、声をそろえて「サンドバック!」と一言。“悩み事など何でもぶつける山口さん、それを受け止める榎本さん”という間柄のようです。ときには、事務所内でバトル(?)に発展することもあるそうですが、それだけ本音で話し合えるということだと思います。
事務職の嶋﨑さんは、取引先からも現場からも厚い信頼を寄せられていて、会社にとってなくてはならない存在。そのうえ、自身の責任感がとても強いため、容易に休みを取らないそうですが、「孫が生まれたときは休みました」とのこと。その際には、榎本常務が頑張ってサポートしてくれたそうです。
長い社歴の中で何度目かの大きな過渡期を迎えている同社。「プラチナ認定企業」取得を機に、企業としてさらに大きく発展していくのではないかと思いました。
取材日:2023年1月27日
矢崎真弓