さいたま市大宮区にある「檸檬(れもん)堂。」は、瓶入りのプリンを中心に製造販売しています。喫茶スペース併設の本店に加え、プリンのテイクアウト専門店「檸檬堂 f」を氷川参道近くにオープン。しっかりした感触のプリンは、高級で上質な素材が使われているにもかかわらず、どこか懐かしくて優しい味わいです。材料と製法にとことんこだわったプリンについて、オーナーの菊池俊茂(きくち・としたか)さんにお話を伺いました。なお、コロナ禍により2022年12月現在、「檸檬堂 f」のみ営業中です。
研究を重ねた製法と納得できる材料が生み出す味
「檸檬堂。」では、常時3、4種のプリンを販売しています。牛乳、生クリーム、砂糖など、全て最上級の品質を持つ食材を使用。中でも、プリンの要である卵は埼玉県産の「トップラン」です。菊池さんは、初めてトップランを使ってプリンを作った日のことを忘れられないと言います。
「衝撃でした。いろいろな養鶏場の卵を使って試作を繰り返していた中で、トップランは別格だったんです。おいしいのはもちろんですが、濃厚なのにくどさがなかった。とにかく一刻も早く、もう一度トップランを作っている矢部養鶏場さんに行きたかった。その日の夜は興奮して眠れないくらいだったんですよ」
トップランは、3つ星シェフに愛用されるブランド卵です。駆け出しのパティシエが取引を依頼するにはあまりにも無謀でしたが、菊池さんは1時間以上のプレゼンを決行。取引を成立させました。
「この出会いが『檸檬堂。』のプリンの完成につながりました。今でも、卵の買い付けには自分で出向いています。養鶏場のスタッフが一番卵のことをわかっていますから、ニワトリの様子を教えてもらうこともありますよ。そのときの親鶏の体調やえさ、ストレスによって卵も変化するんです」
菊池さんは、卵や牛乳など材料の味や成分の変化に応じて、プリンの材料の配合や製法も工夫しています。
「卵も牛乳も生き物が生み出すもの。季節によって成分の比率が変わります。私たち人間も、四季によって好みが変わりますよね。当店のプリンは、季節ごとにお客様が最もおいしく味わっていただけるように調整しています」
菊池さんは、プリンの種類に応じて材料の良さが引き立つ製法を日々研究しています。例えば、抹茶プリンには埼玉県産の河越抹茶を使用。製造の度に菊池さん自身で抹茶をたてています。
「歴史ある河越抹茶を使ってプリンを作るのですから、河越抹茶の良さを最大限に引き出したいと思いました。苦み成分を抑えて旨み成分が際立つよう、低温抽出製法という特別な手法でおいしさを引き出した後に、注意しながら加熱しているんですよ」
抹茶プリンはショーケースの中に置かれていません。抹茶の成分が紫外線や光によって変質してしまうからです。おいしさを損なわないよう、販売時も工夫をしています。
「元気の源でありたい」 屋号に込めた想い
「檸檬堂。」の始まりは、菊池さんの家族が難病を患ったことがきっかけです。菊池さんは会社勤めをやめ、家族と一緒にいられるよう、店を立ち上げる決意をしました。健康を損ねた家族を元気づけるため、菊池さんの家にビーグル犬がやってきます。名前は「レモン」。レモンが来てから家の中は明るくなり、家族は徐々に元気を取り戻していきます。
「屋号はレモンにあやかって名づけました。プリンは食べた人を笑顔にでき、滋養もあるスイーツです。だからこそ、店で出すプリンは、おいしさはもちろん、健康と安全を意識した商品でありたいと思っています」
会社員を辞めてから店を立ち上げ、今日まで多くの人に助けられたと語る菊池さん。「おいしいプリンを作っていくことで恩返しを」と、今日もおいしい味わいや新しいフレーバーの研究に励んでいます。
◆取材を終えて 取材中、愛犬レモンをはじめ、さまざまな人たちへの感謝の気持ちを口にしていた菊池さん。「檸檬堂。」のプリンが濃厚で優しい味わいなのは、菊池さんの温かな思いがぎゅっと詰まっているからだと感じました。 取材日:2022年9月2日 塚大あいみ