飼い主と一緒に散歩をしている犬のリードに、黄色のリボンが付けられているのを見たことはありませんか。このリボンには「近づかないでほしい」という意味があります。
飼い犬の中には、怖がりな性格、病気療養中、トレーニング中などの理由から、他の犬や人に近づかれたり、触られたりするのを避けなければならない犬がいます。その目印として黄色のリボンが使われているのですが、認知度が低いのが現状です。
2021年発足の「みんなのイエロードッグプロジェクト」は、黄色のリボンの意味を広めるために活動しているボランティア団体です。代表の染川美智子さんに、活動を始めたきっかけや、黄色のリボンを必要とする“イエローリボン犬”について聞きました。(以下敬称略)
発作で倒れた愛犬と多くの犬のために団体を発足
――ボランティア団体をつくったきっかけを教えてください。
染川 元保護犬の“まるこ”を飼い始めたことがきっかけです。保護施設から譲渡されるとき「犬が苦手で、他の犬が側に来ると呼吸が荒くなってしまうので近づけないようにしてください」と説明を受けたので、散歩させるときは犬を連れた人に気を付けていたんです。でも、「近づかないでください」とお願いしても「うちの子は大丈夫だから」などと言って、犬と一緒に近くに来てしまう人も多く困惑しました。
そんなある日、まるこは近づいてきた犬にすごくほえられ、発作を起こして倒れてしまったんです。
――発作の原因はなんだったんですか。
染川 まるこは、もともと複数の持病があるんですが、病院で診てもらっても原因は特定できませんでした。また元保護犬なので、生い立ちに不明な点も多く、もしかしたらトラウマになるような経験をしたのかもしれません。とにかく極度に犬が苦手なんです。
後から知ったことですが、保護犬に限らず、ドッグランで大きな犬に追いかけられたり、 強くほえられたりしたことをきっかけに犬が苦手になるケースもあるそうです。また人から嫌な思いさせられた場合は、人が苦手になることもあります。
「トレーニングをすれば直る」と考える人も多いのですが、ドッグトレーナーなど知識のある人に伺ったところ、訓練しても全ての犬がうまくいくとは限らないとのことでした。機械ではなく、生きものですからね。
――それが今の活動へつながったんですね。
染川 この現状をSNSに投稿したところ、ある方から、散歩中の犬に近づかないよう、黄色のリボンで知らせる取り組みを教えてもらったんです。これはスウェーデン発祥のもので、1990年代に日本に入ってきたもののあまり広まらなかったそうです。私はぜひ広めたいと思い、友人・知人の協力を得て「みんなのイエロードッグプロジェクト」を立ち上げました。行動力だけはあるんです(笑)。
現在、埼玉県、東京都、神奈川県、大阪府、福井県にメンバーがいて、連絡を取り合いながら活動しています。
どんな犬も安心して散歩ができるように
――団体発足後、何から始めたのですか。
染川 まず自分の住む杉戸町で広まらないと意味がないと思い、チラシを最寄り駅や公民館などに置いてもらったり、自宅前の道路に面した場所に張り出したりしました。そして3か月ほど経つと、私たちの散歩中、通りがかりの人が避けてくれるようになったんです。思っていたよりも効果が表れるのが早く、驚きました。
それまでは、犬を連れた人を見たら一方的に逃げなくてはならなかったので、お相手が嫌な気持ちになっていないかとても不安でした。それがリボンのおかげで意思の疎通ができ、安心して出かけられるようになって本当にうれしかったです。
――その後、複数のメディアで取り上げられるようになりましたね。
染川 そうですね。犬を飼っている人からは「うちの犬も犬が苦手」とか、「以前からリードに黄色のリボンを付けていたが、全く効果がなく困っていた」などの声も届くようになりました。他の犬に近づかれると飼い主をかんだり、ほえ続けたりしてしまう犬もいて、苦労している人は多いようです。
一時期、一部の人から「飼い主に問題があるのではないか」「しつけをすればいいだけだ」といった意見もありましたが、少しずつそうした声は減っていきました。
――チャリティーグッズも販売していますね。
染川 リボンは、ボランティアスタッフが作ってくれています。「亡くなった愛犬は犬が苦手で、私も苦労した経験があるから」と言って手伝ってくれる人もいますね。うちのまるこのように、ずっと黄色のリボンが必要な犬もいますが、病気療養中やトレーニング中など期間限定でリボンを付け、日常生活に戻ったら外すという使い方ももちろんできます。
販売しているリボンは、はっ水加工されているので雨にぬれても大丈夫です。売り上げは、チラシ製作費など、みんなのイエロードッグプロジェクトの周知活動費に充てています。
――今後の目標を教えてください。
染川 人間には、一見して分かるヘルプマークやマタニティマークがあります。犬にとって、黄色のリボンがそれらと同じ存在になれるよう、活動を続けていきたいです。
取材を終えて
犬を散歩させている人同士が犬を通して仲良くなるという話はよく聞きます。でも、そうしたくてもできない場合もあることがよく分かりました。犬好きの人は、散歩中の犬を見かけると駆け寄ってしまいがちですが、近づく前に飼い主に許可を取ることも大切とのこと。一人一人が少し気を付けるだけで、人にも犬にも住みよい地域になると思います。
取材日:2023年4月7日
取材:矢崎真弓