1棚ごとにオーナーが異なるシェア本棚という形態をとり、“みんなでつくる私設図書館&本屋”として営業している「本と喫茶 夢中飛行」(旧ハムハウス)。今年(2023年)8月6日にBibli(旧大宮図書館跡)から一の宮通りに移転し、新たなスタートを迎えました。
本棚オーナー、貸出会員、新刊本購入など、いろいろな楽しみ方ができる同店について、企画運営を行う直井薫子さん(CHICACU/デザイナー、アーティスト)に、その思いや楽しみ方を聞きました。
シェア本棚ってなに?
シェア本棚とは、本棚の一画などのスペースを定額で借り、本の貸し出しや販売を行う形態。
同店で本棚オーナーになると、その区画に自分の好きな本やおすすめ本を置いて貸し出しや販売ができるそう。棚内のレイアウトや本の入れ替えも自由にできるため、個性が光ります。直井さんは「本棚オーナーそれぞれが自分たちの“好き”を表現している」といいます。
どの区画も定額にし、定期的に棚の引越しを行うのが同店のスタイル。3ヵ月に1度の棚の引越しは、参加できるオーナーが集まってやるそうです。
「人目につく区画は値段を高くする方法もありますが、誰でも利用できるように、この方法にしました。それでも、あえて人目につかない場所にひっそり置きたいというオーナーもいるんです。いろいろなオーナーがいるので、彼らと接するだけでもとても楽しいです」と直井さん。
本棚オーナーにはどんな人がいるの?
「一番多いのは30代~40代。仕事や家庭などが少し落ち着いた頃合いの人が多いように思います」。
とはいえ、過去には小学生や80代がいたりと、年代やバックグラウンドもさまざまだそう。
「本が捨てられなくて、という人も多いのですが、プラスアルファの機会を求めている人も少なくないように思います。中には、人と話すのは苦手だけれど本棚を通して人とつながっているのがいい、という人もいます。本の返却時にコメントが返ってきたり、家に本を置いておくだけでは得られないものがあるんです」という直井さん。
直井さんは必ず伝えることがあるといいます。
「借り手みんなが本を丁寧に扱ってくれるとは限らない前提で本を選定してほしいと伝えます。それでも他者に勧めたい・読んでほしい本は何か。本棚空間を使って“他者に対して自分を表現する”ことは、自分を知るとともに社会を考えるきっかけになる」と話してくれました。
本棚オーナーが集まる機会も定期的に開催。「ここでは、母とか妻とかではない自分としていられると言ってくれる人もいます。肩書や利害関係を手放してつながれる場って、なかなかないものです」。
直井さんってどんな人?
浦和(さいたま市)出身の直井さん。美術大学を経て出版社のデザイン部にいたそうです。さまざまな経験からコミュニティづくりのおもしろさも実感し、これからの時代のメディアのあり方を模索する中で、本をフックに人とつながる方法を探っているといいます。
直井さんは最近まで、住宅の一部を開放する「住み開き」スタイルで、北浦和の自宅を開放して本屋を運営していました。同店で新刊本の購入もできるのは、この活動がもとにあります。
完成形がないクリエイティブをしたいと語る直井さんからは、「実は、本棚オーナーさんには、用意された場を逸脱して、そんなことやる?!っていうアクションもひそかに期待しています」というコメントもありました。
同店では、音楽ライブやトークイベント、写真展など、さまざまなイベントを開催。本棚オーナーや貸出会員に限らず、誰でも参加できるそうです。
◆取材を終えて 「本棚オーナーはみんな個性豊かで、いろいろなキャラクターを持ち合わせている。めちゃくちゃおもしろい人たちばかり。実は運営者の自分が誰よりも一番楽しんでいる」と語る直井さんのワクワクしている様子がとても印象的でした。 あなたも今までとは少し違ったスタイルで本との出合い、人との出会いを楽しんでみませんか。 取材日:2023年5月18日 小林聡美