【挑戦者たち】発酵ジンジャーエールで創業。見沼田んぼ再興に挑む

さいたま市で発酵ジンジャーエールづくりを行う株式会社しょうがのむし。ビジネスコンテスト「世界を変える起業家 ビジコンinさいたま2019」(さいたま市産業創造財団主催)でグランプリを受賞した同社創業の起点には、見沼田んぼの休耕地を活用したいという思いがありました。

代表の周東孝一(しゅうとう こういち)さんは、フードロスや廃棄和服の削減にも取り組む30代。今の働き方に至った経緯や、思いを行動に変える力は何かを聞きました。

収穫したショウガを両手いっぱいに持つ周東さん。実は帽子の下は“ちょんまげ”ヘアです

 周東さんの働く意識

自分を変えたいと思ったら
  いい所も悪い所も含め、ありのままの自分を受け入れる

自分を分析して得た自分を動かすヒント
  自分に一番効くのは「自分を追い込む」こと

はじめの一歩を踏み出すには
  「やってみなきゃわからない。失敗しても必ず何か得るものがある」と考える

仕事にするには
  感じた違和感や疑問を大事にする

「自活」の第一歩:サラリーマンを辞め、語学習得のために台湾へ

周東さんは小さい頃から「自力で生きていくには」を考え、「社長になりたい」という気持ちはあったといいますが、20代半ばまでは消極的だったと話します。新卒で酒類販売店に就職したものの、「このまま何十年働き続けても自分は変わらないのでは」という焦りを抱き仕事を辞め、中国語習得のために台湾へ身を投じます。その時点ではほとんど中国語は話せないレベルだったとか。
そして帰国後、自活するためと、友人の夢を手伝うために29歳で翻訳業をスタートします。

ありのままの自分を受け入れる。そこに自分を動かすヒントがある

「自分は必要に迫られないと動けないタイプ。ここぞという時は自分を追い込む」と語る周東さん。
自分を分析した結果、この方法が一番効果的だとわかったそうです。
「自分のいい所も悪い所も、ありのままを受け入れる。それが自分にあったスタイルを見つける第一歩。見つけられたら、その方法で突っ走るだけ」
ちなみに、自分を追い込む方法はいろいろあるそうですが、一番簡単なのは、人に話したり、SNSで発信することだそうで、周東さんはこれを「背水の陣作戦」と話していました。

発酵ジンジャーエールづくりは、見沼田んぼの休耕地を生かしたい思いが起点

奥様の実家がある台湾の田舎を訪れたとき、お裾分けの大量のショウガに困り、発酵ジンジャーエールをつくってみたら、ご近所にとても喜ばれる、という経験をした周東さん。帰国後のある日、見沼田んぼの休耕地問題を知ったとき、台湾でのその経験と結びつき、発酵ジンジャーエールづくりを仕事にすることを決めます。
ここでも、まったく知識がない中から「身を投じてやってみる」ことを実践した周東さん。さいたま市内のクラフトビール醸造所へ、無償で働くので醸造を教えてください、と駆け込んだそう。
「発酵ジンジャーエールは現在のジンジャーエールのルーツで、海外では“ginger beer”と呼ばれ、広く親しまれています。ショウガの心地良い辛味と、発酵による独特な香味が特徴です」と周東さん。 発酵過程でアルコールは発生しますが、度数は1%未満の炭酸飲料。お酒が飲めない人でも楽しめます。

同社の発酵ジンジャーエールはさいたま市産のショウガや果物などを使用。定番の2品はhoney bee(ハチミツ味)=左=と、northern dark snail(紅茶&カモミール味)。季節のフルーツやハーブを使用した限定品も次々に発売するそうです

また、周東さんは見沼グリーンセンターでショウガの試験栽培もおこなっています。栽培で一番手間のかかる雑草の除去頻度を減らし、どこまでショウガの栽培が可能なのか検証、休耕地でかつて盛んだったショウガ栽培を復活させるプロジェクトも進めています。

見沼グリーンセンターで収穫した採れたてのショウガ。収穫時はあたりにショウガの葉の爽やかな香りが漂っていました

できる・できない」じゃなく「やるか・やらないか」 失敗しても必ず何か得るものがある

多くの人は“はじめの一歩”をためらい、とどまります。「本当に自分にできるだろうか」。そんな思いが足を止めさせます。
周東さんに、一歩を踏み出す行動力や決断力の根源は何か聞きました。
「何をするにもみんな“わからない”ところからスタートします。人がわからないことを恐れるのは当然です。だから自分は怖くなくなるまで調べる、不安がなくなるまで動く。今の自分を変えたいなら、『できる、できない』じゃない、『やるか、やらないか』だけなんですよ」
そこには、壁にぶち当たっても必ず何か得るものがあると前に進む周東さんの姿勢がありました。

廃棄和服の再利用として、発酵ジンジャーエールの緩衝材に着物の“端切れ”を使用。しょうがのむしはオレンジ色ののぼりが目印です

取材を終えて

「それでいいの?という違和感にぶち当たると、放っておけない」という周東さんは、フードロスや廃棄和服の削減にも取り組んでいます。“当たり前”と流されている現状の違和感や無駄に気づき、持続可能な方法を考えることが新しいプロジェクトのきっかけになるといいます。
後継者不足による農地の休耕は日本各地で増えています。若手と農家が手を組んで農地の活用とともに新しい取り組みが行われるのは、とても楽しみです。

取材日:2021年11月4日
小林聡美