見知らぬ誰かの助けに、もしくは自分の助けになるかもしれない献血。献血した後の血液は、いったいどこへ行くのでしょうか。関東甲信越で献血された血液の約半分を集める施設が、東松山市にあります。「日本赤十字社 関東甲信越ブロック血液センター埼玉製造所」(以降「埼玉製造所」)です。日本赤十字社関東甲信越ブロック血液センターの吉成美帆(よしなり・みほ)さんに、献血した後の血液について教えていただきました。
献血した血液が利用できるようになるまで
ブロック血液センターは、献血された血液の検査・製造業務を行う施設です。関東甲信越ブロック血液センターは、東京都江東区、埼玉県東松山市、神奈川県厚木市の3か所。令和3年度は、3か所で合計約187万人分の献血血液を受け入れ、全国の4割弱を占めました。
東松山市にある埼玉製造所には、1都7県(東京都西部・武蔵野地区、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、新潟県、山梨県、長野県)で採血された血液が運ばれます。1日あたり献血者約2300人分を受け入れています。
血液センターに運ばれた献血血液は検査・調製を経て、輸血用血液製剤となります。それぞれ専門の部門で作業が行われます。
検査部門
献血時に採血した検査用の血液を使って、以下の検査を行います。
●血液型検査
●感染症抗原・抗体検査
●核酸増幅検査【NAT】(B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルス・E型肝炎ウイルス・エイズウイルス)※1
●生化学検査 ※2
●血球計数検査 ※3
※1:核酸増幅検査(かくさんぞうふくけんさ)は、ウイルスの遺伝子の一部を約1億倍に増幅させ、高い感度でウイルスの存在を確認する方法です。
※2:生化学検査では、肝機能にかかわる酵素やコレステロール値、糖尿病関連検査などを行います。
※3:血球計数検査は、赤血球や白血球などの数を測定します。
生化学検査と血球計数検査の結果は、採血時に希望すると通知してもらえます。献血に協力することは、自分の健康状態を知るきっかけにもなるのです。
製造部門
血液を成分ごとに分け、医療機関で輸血用血液製剤として使用できる状態にします。
<輸血用血液製剤の種類>
種類名 | 主成分 | 保存期間と温度 | 用途 |
---|---|---|---|
赤血球製剤 | 血液から血漿、白血球および血小板の大部分を取り除いたもの | 採血後28日間 2~6℃で保管 | 慢性貧血や手術前後など |
血漿製剤 | 血漿(けっしょう) | 採血後1年間 -20℃以下で保管 | 大量出血時など |
血小板製剤 | 血小板 | 採血後4日間、要振とう 20~24℃で保管 | 血小板減少症など |
全血製剤 | 白血球を除去した血液に保存液を加えたもの | 採血後21日間 2~6℃で保管 | 全ての成分が必要な時 使用されるのはまれ |
<輸血用血液製剤(成分輸血用)ができるまで>
①白血球を除去
輸血で発生する可能性がある副作用を軽減するため、フィルターで白血球を除去します(全血採血の場合)。
②遠心分離
全血採血された血液は、遠心分離機にかけられます。成分ごとに比重が異なるため、赤血球と血漿部分に分かれます。
③放射線の照射
輸血用血液製剤内の白血球の残存で重い副作用が起きないよう、赤血球製剤、血小板製剤、全血製剤に放射線を照射します。
④ラベリングと包装後、保管、供給
ラベリング後、包装された輸血用血液製剤は、それぞれ決められた条件下で保管されます。例えば、血漿製剤は、急速凍結され-20℃以下の冷凍室に保管されます。
輸血用血液製剤は、最適な状態で保管され、医療機関に届けられます。
献血に行く前に知っておきたいQ&A
献血をする前に知っておきたいことについて、吉成さんに教えていただきました。(以下敬称略)
――コロナ禍で新たに運用を開始した『ラブラッドアプリ』のメリットは何ですか?
吉成 ラブラッドアプリの導入で、献血の事前予約がより簡単になりました。事前に問診回答ができる機能も追加されています。献血会場で、よりスムーズに受付をしていただけることで滞在時間を短縮でき、新型コロナウイルス感染対策につながっています。アプリのご利用で、献血協力をより安全かつ気軽に行っていただけるようになりました。
――普段から薬を飲んでいたり、ワクチン接種をしたばかりだったり、献血に協力できるかどうかわからない場合、何を確認すると良いですか?
吉成 献血をご遠慮いただく場合について、以下のURLをご確認の上、ご予約いただけますと幸いです。なお、当日の献血可否については、問診担当医師が判断いたしますこと、ご理解のほどお願い申し上げます。
詳しくは各リンク先のご確認を。
・献血をご遠慮いただく場合
献血をご遠慮いただく場合|献血の流れ|献血について|日本赤十字社 (jrc.or.jp)
・献血前後に気を付けたいこと
献血いただく前に|献血の流れ|献血について|日本赤十字社 (jrc.or.jp)
取材を終えて
血液製剤の種類によっては、採血から4日間しか保存期間がないものもあります。安定した輸血医療ができるためにも、献血への継続的な協力は不可欠です。コロナ禍の約3年間では、献血の必要数に協力人数が届かない日が多く、現在も、団体献血の協力数はコロナ禍以前の状態に戻っていません。
献血への協力が特に必要になる時季があるのかどうかも伺いました。 3月と4月は、年度の切り替わりにあたり、団体献血の実施が難しいことから、献血の協力数が少なくなる傾向にあるそうです。 コロナ禍で献血からすっかり足が遠のいてしまっていましたが、心機一転して、献血ルームにでかけようと思います。
写真提供:いずれも日本赤十字社関東甲信越ブロック血液センター
取材日:2023年2月13日
取材:塚大あいみ