【学ぶ】自然に近い方法で水をきれいに 荒川水循環センターで下水道を知ろう

私たちの生活排水が昼夜を問わず流れ込む下水道。下水道はどのようなしくみで、汚れた水を処理しているのでしょうか?
複数の市町村の公共下水道をつなぎ、まとめて処理する下水道を「流域下水道」と呼びます。全国の流域下水道の中でもトップクラスの水量を処理している「荒川水循環センター」(戸田市)で、公益財団法人埼玉県下水道公社、荒川左岸南部支社の吉田和久(よしだ・かずひさ)さんに、下水道のしくみについてうかがいました。

荒川水循環センターの管理棟入り口。管轄エリア内のデザインマンホールがお出迎え

埼玉県には県が管轄する下水道処理施設が9か所あり、水循環センターと呼ばれています。その中で最大規模の処理量を誇るのが、荒川水循環センターです。主にさいたま市、川口市、上尾市、蕨市、戸田市の下水を処理しています(さいたま市と川口市の一部は中川水循環センターで処理)。およそ30haの広さ(東京ドーム6個分)で、年間処理水量は約2億6,900万㎡。2022年には通水50周年を迎え、流域下水道の中では、全国で2番目の古さです。

埼玉県は、県の面積に対して川が占める広さの割合が約3.9%と高く、全国2位の数値です。下水道の整備が進むと、川の環境が良くなり、県全体の環境改善につながります。

私たちの生活排水はどうなる? 下水道のしくみを知ろう

家庭や工場、学校などさまざまな場所から排出される汚水(おすい)は、汚水管を通って下水処理場へ向かいます。
下水処理場に到着した汚水は、5つの工程を経て、河川に放流されます。

①沈砂池(ちんさち)
大きなゴミと土砂を取り除きます。

②最初沈殿池(さいしょちんでんち)
時間をかけ、さらにゴミを落とします。

③反応タンク
下水の汚れを取り去る仕事を毎日休まず行うありがたい存在がいます。肉眼では確認できない小さな生き物たち、微生物です。反応タンク内では、微生物が水の汚れ成分を食べ、水をきれいにする助けをしています。

④最終沈殿池
汚れを食べ終えた微生物の塊をゆっくりと落とします。

⑤消毒施設
水を消毒し、川へ戻します。

※汚泥処理施設
取り除かれた汚れを濃縮、脱水後、焼却処理します。焼却灰は、セメント原料などに再利用。

反応タンクと最終沈殿池(右)。最終沈殿池の水は透明感があり、きれいになっています

微生物の働きで下水をきれいにしているのは、自然に近い方法だそうです。
「もともと、河川には自浄作用があるんです。川にある石に触れたとき、ぬめりを感じたことはありませんか? ぬるぬるしているのは、微生物がいるから。微生物たちが有機物を食べて、河川をきれいに保っているんですよ。その自然のしくみを応用したのが、微生物の働きを使った下水処理なんです」と吉田さん。

「下水処理場で主に薬品を使うのは、最終工程の消毒くらいです。限られた資源である水を自然に返す役割だからこそ、環境に優しい方法で処理する必要があります。より高度な処理で、さらに処理水の質を向上させる取り組みも進めているんですよ」

下水道施設が生み出すエネルギー源をこれからの社会のために

下水道の処理施設では、アンモニアやメタンガスなどの化合物、リンが生まれます。次世代のエネルギー源とも言われている物質の宝庫なのです。そのため、水循環センターは研究機関にさまざまな協力をしています。

「環境に優しいのはもちろんですが、下水道の処理施設は将来のエネルギー問題解決につながる可能性を秘めています。新たな技術が開発されて、有効活用されるのを期待しています」と吉田さん。

下水の浄化や洪水の対策だけではなく、資源の活用を未来の環境作りにつなげるのも、下水道の大きな役割のひとつです。SDGs(国連による「持続可能な開発目標」の略称)がうたわれるずっと前から、下水道は持続可能な循環型社会を目指しています。

将来のためにも、下水道のしくみを長く大切に使えるよう、家庭でできることを考えるきっかけになるのが各水循環センターの施設見学です(電話にて事前問い合わせがおすすめ)。夏休みの自由研究に、足を運んでみてはいかがでしょうか。

荒川水循環センターの吉田さん。後ろは最終沈殿池

取材を終えて

荒川水循環センターの管理棟入り口に展示されているマンホールのフタ。鮮やかなカラーのものや、限定のデザインが目を引きます。マンホールのフタが描かれたコレクションカード「マンホールカード」というものがあると聞いて驚きました。このカードは全国各地の下水道関連施設などで配布され、968種(2023年7月時点)にもなります。その場所でしか手に入らず、コレクターも多いそうです。
「自分の住んでいる場所のマンホールのフタはどのようなデザインだったかな」と確認したくなりました。旅行の際もマンホールのフタに注目してみると、おもしろい発見ができそうです。

取材日:2023年7月13日
塚大あいみ