日本各地の峠名とそのコースがプリントされた「峠ステッカー」。峠近くの販売店でしか入手できないもので、ウェブ販売やネット通販はされていません。
作成·販売は株式会社ジャパン峠プロジェクトです。「インターネットで何もかもが手に入る時代だからこそ、あえて時間とお金をかけてその場に行かなければ買えない方法をとりました」と、同峠プロジェクト代表の野口浩之さん。時間を割いて行く先には、想像を超える絶景やその場所でしか食べられないグルメ、同じステッカーを求める仲間同士の絆、販売店従業員の優しい言葉など、ステッカーだけではなく、さまざまな思いを手にすることができるといいます。
峠ステッカーにかける思いと情熱
もともとは地元のお土産を作ろうと思っていた野口さん。なかなかうまくいかなかったそうです。試行錯誤の末、自分の得意分野を考えたところ、「ドライブ」「デザイン」「営業」の3つにたどり着いたとか。得意分野をうまく活用しながら何かつくれないかと考えたときに、峠のステッカーを作って全国に広めようというアイデアを思いついたことが、ステッカー作りのきっかけだったそうです。
2016年に、全国の峠ステッカーを作成·販売する「JAPAN峠PROJECT」を立ちあげました。峠を回り、峠に近い飲食店などにステッカーを販売してもらえないか営業したそうです。
「関東から徐々にエリアを広げていき、現在では宮城県から兵庫県まで78種類のステッカーが販売されています」と野口さん。目標は、全国の峠ステッカーを1県に1枚は作成し販売すること。「峠を楽しんだあとの土産として購入してほしい」と語っています。
峠ステッカーを通じて仲間の絆が深まっていく
峠を愛し、ステッカーを集めるファンは、老若男女を問わないそうです。
「車だけでなく、二輪車や自転車、ハイカー、バスで訪れる人も多いんです」と野口さん。峠を訪れる人から「ステッカーを集めることでいろいろな場所へ行くようになった」と、感謝されることもあったそうです。
ステッカーを販売してから仲間の輪が全国に広まりました。野口さんは峠ファン同士の交流の場をつくるため、同プロジェクト主催のイベントを年に一度開催し、限定ステッカーやオリジナルグッズを販売しています。
また、販売されている全ての峠ステッカーを集めた人には、希少なステッカーをプレゼントする「コンプリート感謝祭」もあるとのこと。「イベントを盛り上げるためにキッチンカーを準備して、1年をかけて峠の鹿ちゃんモンブランもつくりました」と野口さん。0.8mmに絞った極細和栗モンブランに、峠の形をかたどったクッキーをのせたオリジナルモンブランです。イベント出店時には全国からお客さんがきてくれるそうです。
峠というと「夜の峠の走り屋」を連想する人もいるようですが、「昼間に峠の景色を眺めたり、ご当地のグルメを楽しんだりすることが、われわれのプロジェクトのコンセプトです」と野口さん。
全国各地の峠を走らせてもらっている感謝を込めて、毎年10月最終日曜の峠の日(「10」と下旬の「げ」)、自分たちの好きな峠に集まり自主的にクリーン活動などのゴミ拾いも実施しているとのことでした。
◆取材を終えて 埼玉県では正丸ステッカーは「奥村茶屋」、定峰ステッカーは「峠の茶屋」、間瀬峠は「LOVERS cafe」、土坂峠は「吉田元気村」、志賀坂峠は「レストランイデウラ」、雁坂みちは「大滝温泉」で購入できるそうです。私も峠や自然が好きなので、近くのステッカーから集めてみたいと思いました。 取材日:2023年4月19日 田部井斗江