その昔、所沢には蔵元があり「東若菊」という日本酒がありました。そんな所沢の地酒の復活を夢見て、「所沢の米で日本酒を造りたい」という数名の熱意から発足したのが「所沢の米で日本酒を作る会」。それから25年、「所沢の田んぼを守りたい」思いをつないで歩み、昨年からは「会員の手で米を作る」事業も始まりました。6月に行われた、毎年恒例の「田植え体験」を取材しました。
今年25周年の「所沢の米で日本酒を作る会」 昨年から自分たちで米作りも
昨年「会員の手で米を作る」という大きな事業が加わったのは、長年米作りで協力してくれた2軒の農家が高齢と体調不良のため米作りを断念したからです。
会ではなんとしても田んぼを守り、無農薬での所沢産の米作りを存続させたいと、苗を買い付け田植えをし、雑草を抜き、稲刈り、稲干し、脱穀までを自らの手で行いました。
特に稲刈りは借用した田んぼがぬかるんでいたため、刈りながら足を前に進ませるのにひと苦労。
稲架(はさ)という稲干し台(いねほしだい)で乾燥させる、昔ながらの手法である稲架がけ(天日干し)では、刈った稲を田んぼに置けずリレー方式で手渡しするのに時間を要して苦戦。半日予定だったものが一日がかりになったといいます。
「今までは田植え体験と稲刈り体験に参加するだけで、あとはみんな農家におまかせでした。昨年すべての作業を自分たちでおこなってみて、初めて本当の大変さが身にしみました。けれど、その分収穫の喜びもひとしおでした。これからも自分たちの手でできる限り米作りを続けたいと思っています」と会長の横山裕子さん。
のどかな風景の中で田植え体験
田植え体験は6月5日に行われました。朝8時半、所沢市の狭山湖運動場から程近いその場所では、田んぼのオーナー粕谷宇平さんがすでに準備を進めていました。苗をまっすぐ植えるための目印となる線が専用道具で引かれ、数十本の苗の束を田んぼに投げいれる「投げ苗」をしています。
ふんわりと弧を描いて飛ぶ様子、ピタッと吸い込まれるように着地する苗束、ポトンという重い着水音…心地よい光景です。
苗を植えるのは生命を植えるということ
「昔は子どもが家の手伝いで投げ苗をしていたんだよ」。そう話すのは、初代会長(現名誉会長)の菊池一雄さん。農業の経験があり、市内の小学校でも子どもたちに田植えと稲刈りを教えています。
「田んぼには後ろ向きになって入りますよ。近くの苗束をとって、根を切らないように苗3~4本をはがし、鉛筆みたいに持って、指の第二関節くらいの深さまで植えてください。苗を植えるのは生命を植えるということです。そういう気持ちでね」
参加者はそれぞれのペースで、泥に沈む重い足を一歩ずつ前に進めながら苗を垂直に植えていきます。田んぼの半分くらいまで進むと、植えたばかりの緑の早苗の間を2羽のカモが泳いでいることに気づきました。
突然の訪問に一同顔をあげ「カモがいる!」「25周年を祝いに来たよう」「活着(根づいて生育)するまで待っていて」と表情を和らげます。「作業中にカモが田んぼに入ってきたのは25年行なっていて初めてのこと」と横山会長も顔をほころばせました。
昔ながらの農法で米作りを行うこの地は、次世代に継承したい田んぼとして上山口堀口天満天神社周辺里山保全地域(令和2年8月1日付)に指定されています。
「所沢の米で日本酒を作る会」は会員を募集しています。年会費11,000円で、「ゆめところ」1.8ℓ 4本または720ml 8本がつきます。事務局は日野屋酒店(電 04-2922-2700)。
◆取材を終えて 所沢の米で造る日本酒があるとしり、「ゆめところ」を購入したことがきっかけで「所沢の米で日本酒を作る会」に出会いました。協力の手をつなぎながら25年間続けてこられたわけですが、容易なことではなかったでしょう。 参加して初めて理解できることがたくさんあります。私自身、初の田植え体験は貴重でした。まずは今回のように楽しい体験をすることが大人も子どもも大切で、興味の入口になると感じました。 取材日:2021年6月5日 磯崎弓子