本庄市は、埼玉県一のナス生産量を誇るまち。特に、みずみずしさと軟らかさが特徴の「児玉なす」は、高い評価を得ています。
一方、生産量が多い分、皮への傷や大きさ・形のふぞろいなどにより出荷することができない、いわゆる「規格外ナス」も多数発生しています。市では現在、使い切りを目指すプロジェクトを実施し、市内の食品製造会社などへ規格外ナスの活用を勧めています。
出荷できないナスを活かして「焼ナスアイス」を考案
そんな中、規格外ナスを使った「焼ナスアイス」を誕生させたのが、「焼き菓子とシロップの店 Heart song(ハートソング)」の店主・渡辺美津子さんです。
「最初、ナスをブラウニーに使ってみたりしましたが、なかなかうまくいきませんでした。アイスにするアイデアは、ある日ふとひらめき、すぐ完成させることができました」と渡辺さんは振り返ります。
低温で焼いたナスをペーストにしてバニラアイスに混ぜ、隠し味にみそを加えたところ、ナスの風味を残しつつ、さっぱりした甘さに仕上がったとのこと。2021年8月に店で販売を始めると、これまでにない味わいが評判を呼び、今ではリピーターもいるそうです。
自分にできることを積み重ねて「埼玉県環境SDGs取組宣言企業」に
同店は2004年にオープン。当時から渡辺さんは、できるだけ食品ロスを出したくないと考えていたため、日持ちのしない生ケーキではなく、焼き菓子とシロップを主力商品としたそうです。食品を無駄にしたくないという思いは次第に外へも向かい、果樹農家から規格外のナシを購入したり、台風による落下で傷ついたリンゴを長野県から取り寄せたりしてシロップやアイスクリームなどの商品に使用してきました。
2011年には、さらに商品づくりを見直すきっかけがあったといいます。「東日本大震災の影響でバターが品薄になり、常に安定して材料が入ってくるとは限らないと気付かされたんです。商品を作るだけではなく、持続させていくことも大切だと実感しました」
現在、果物の皮は堆肥化させて自身のハーブ園で使用。また、近くの障がい者施設と連携し、そこで焙煎されているコーヒーを仕入れるなど、持ち前の行動力でさまざまな試みを続けています。
こうした取り組みによって、今年1月、同店は「埼玉県環境SDGs取組宣言企業」の承認を受けました。「特にSDGs(持続可能な開発目標)を意識していたわけではないですが、お客様に私の考えを伝えるとき、この言葉を使うと分かりやすいので良かったです」と渡辺さんは笑顔で話します。
野菜の使い切りを目指すNPO法人を設立
今年8月、渡辺さんは新たな挑戦をスタートさせました。本格的に規格外の野菜を活用するため、商品開発と販売を手掛ける「NPO法人エシカルプロジェクト」を設立。仲間には農家や主婦、会社員など16名が集まりました。既に規格外ナスを使った商品を複数開発し、販売を始めています。
「軌道に乗ったら、商品製造を障がい者施設に頼みたいと考えています。将来は加工場も作って、地域の人の働く場にしたいですね。自分のためだけに頑張っていた時期もありますが、今はそれだけでは頑張れないんです」と笑う渡辺さん。これからも、食を通して誰もが幸せになる方法を探し、実行していくようです。
◆取材を終えて 亡き母の故郷の近くに20歳で店を開き、一人で切り盛りしてきた渡辺さんは、明るさとたくましさが感じられる方でした。「やりたいことなので」と、自然体でさまざまな取り組みを続けている姿にも好感を持ちました。 取材日:2021年10月12日 矢崎真弓