【親子体験】食品サンプルで「おいしそう」を表現しよう (Fake Food Cooking:志木市)

レストランやカフェのメニューを展示紹介する際に使用されている、食品サンプル。本物そっくりの質感や鮮やかな色合いは、見ているだけでお腹が空いてきそうです。自分の好きな料理やスイーツの食品サンプルがあったら、よりうれしくなります。実は、食品サンプルは手作りすることができます。
志木市の「Fake Food Cooking」(フェイクフードクッキング)のわたなべのりこさんは、食品サンプル製作のワークショップを開いています。小学4年生の“食品サンプル作り体験”を取材しました。

ハンバーガー、プリンアラモード、ラーメンなど本物そっくりの食品サンプル
本物そっくりの食品サンプル

今回作るのは、夏らしいメニュー、かき氷の食品サンプルです。

仕上がりをはっきりとイメージしよう!

わたなべさんは、完成見本と同じように作るのではなく、受講生ひとりひとりが自分で思い浮かべたイメージを再現することを目標に、ワークショップを進めます。

「かき氷と言っても、人によって考えるイメージはバラバラです。家で食べるようなシンプルなもの、お祭りの屋台で見かけるもの、カフェで出てきそうなフワフワのもの、アイスクリームやソフトクリームがのったもの、さまざまな種類がありますね。食べてみたい憧れのかき氷を考えてみてもいいですよ」

わたなべさんに材料や器具についてレクチャーを受けながら、“作りたいかき氷”のイメージをふくらませ、順番に作業をします。

“かき氷”作りは、大きく分けて次の4工程があります。
1:トッピングを作る
2:シロップを選び、容器に埋める
3:かき氷の土台を入れ、氷を散らす
4:トッピングを飾りつける

1:トッピングを作ろう

かき氷の上にのせる“フルーツ”や“アイスクリーム”を作ります。着色したレジン液をシリコン型に流し込んで固める作業です。
レジン液に塗料を混ぜる際は、わたなべさんと完成イメージについて相談しながら色を決めます。
「同じバニラ味のアイスクリームでも、見た目や色の印象によって感じ方も変わりますよね。濃厚なのか軽めの味なのか、高級なのか手に入りやすいのか、想像してみてください。理想のイメージに近いアイスクリームは、どんな色と質感でしょうか」

わたなべさんが用意するシリコン型は、本物の食材を型取りしてわたなべさん自身で作成したもの。シリコン型に流し込んだレジン液は、しばらくすると変化が見られます。

「化学変化が起きて、突然変化するスピードが上がりますよ! 目を離さずに注目してみましょう」

シリコンを整え、シロップが底にたまっている様子を再現
レジン液を型に入れた時(左)と、2分経過後(右)。色だけでなく質感まで本物そっくり

アイスクリーム型の中のレジン液が、流し込んで2分ほどで急に、透明から白っぽく変化。じっと見ていた小学生は「すごい!」と目を丸くしていました。硬化していく様子の観察は、理科の実験を思わせます。

2:シロップを選び、容器に埋める

かき氷にはカラフルな“シロップ”が不可欠。小学生が選んだのはブルーハワイです。青い塗料をシリコンと混ぜ合わせ、容器の中に入れます。シリコンは硬化するスピードが速く、混ぜ合わせる工程はある程度の力が必要です。
容器の中に入れたら、側面に押し付けながら見た目を整えます。シロップが底にたまっている様子を再現します。

シリコンを整え、シロップが底にたまっている様子を再現
カップに入れたシリコンを整え、シロップが底にたまっている様子を再現

上から白色のシリコンを入れ、境目をなじませる作業は、硬化していくシリコンと格闘しながら行います。小学生によると、「今回一番難しかった」そうです。

3:かき氷の土台を入れ、氷を散らす

中身の土台として、くしゃくしゃにした新聞紙を緩衝材で包んだパーツを作り、容器に埋め込みます。形を整えたら、シリコンを塗り、いよいよ“氷”を散らす工程です。

「本物の氷を型取りすることはできません。氷として使うのは、演劇などの舞台で雪の演出に使われているスノーフレークです。型取りできない食品をどうやって再現するのか、試行錯誤しながら作っていくのは大変ですが、食品サンプルの面白さでもありますね」

かき氷のトッピングのパイン、ミカン、アイスクリームが完成
硬化して完成したトッピングと、水色に着色したスノーフレーク 

シロップと同じ色で着色したスノーフレークを、土台が見えなくなるくらいに上から散らします。

かき氷の土台にスノーフレークをふりかけで接着。かいた氷を表現
全体の形を整えながらスノーフレークをかけて接着

4:トッピングを乗せて完成!

いよいよ、作っておいたトッピングを乗せます。デコレーションの位置や量を調節し、完成です。色合いや形、大きさを見ながら、自分の完成イメージに近づけます。

トッピングをのせて、思い描いたかき氷が完成
製作した子ども自身の「食べてみたい!」かき氷が完成

好きなものを手に取れる形で残す楽しみ

教室兼アトリエで作業を行うわたなべさん。みずみずしさまで表現したイチゴやキウイフルーツなどをのせてスイーツ作り
教室兼アトリエで作業を行うわたなべさん

ドールハウスのミニチュアフードを作り始めたのをきっかけに、食品サンプルの面白さに魅了されたわたなべさん。

「食品サンプルの面白さは、そっくりに作ることはもちろん、目指す質感や彩色をどのように実現するのか、考えることでもあります。実際に様々なメニューを見たり、新しい技術を取り入れたりするインプットも欠かせません。最近は、フラワーアレンジメント用のスポンジ、フローラルフォームを使う技術も習得しました」

食品サンプルと言えば、ロウを思い浮かべる人が多いかもしれません。現在、食品サンプルの材料は塩化ビニールが一般的ですが、熱に弱いため保管が難しく、扱いにくいというデメリットがあります。

「ワークショップでは、手に入りやすく、管理が簡単な素材を使うよう心がけています。受講して制作方法を身につけたら、自分で新しい作品を作ってもらえるとうれしいですね。食品サンプルを作るのは、難しいことではありません。製作を通して、さまざまなことを発見したり、気づいたりする楽しさを感じてもらいたいです」

◆取材を終えて

後日、体験した子どもの親に感想を聞いてみました。
「不器用なので不安もありましたが、思った以上にすてきな作品ができて良かったです。子ども本人のイメージに合わせて作成するので、受け身ではないワークショップでした」
食品サンプル製作の面白さは、老若男女問わず気軽に楽しめ、発想やセンスで個性が光る点にあると、取材を通して感じました。

取材日:2021年6月18日
塚大あいみ