【行田】人々を引き付ける彩り豊かな花々。まちを挙げて取り組む「花手水」

関東7名城の一つ「忍城(おしじょう)」や、ハスの名所「古代蓮の里」など見どころの多い行田市。最近は、花手水(はなちょうず)をメインとしたイベント開催で注目を集めています。花手水とは、神社や寺にある、手や口を水で清める場所「手水舎」に花を浮かべる習わしです。行田市は、これをヒントにした取り組みで多くの観光客を呼び込んでいます。一般社団法人行田おもてなし観光局の事務局長・富山紀和さんに、これまでの流れやイベント内容について聞きました。

「行田八幡神社」(上)と「忍城址」(下)に飾られた花手水

“参拝者への癒し”から始まり、地域全体へ拡大

行田市で初めて花手水が飾られたのは、2020年4月のこと。新型コロナウイルスの感染拡大で世の中が暗く落ち込む中、少しでも参拝者の心が安らぐようにと「行田八幡神社」が花手水として水の入った鉢に花を浮かべて境内に置いたのが最初でした。

まもなく、参拝者たちが次々に花手水の写真を撮ってSNSに投稿。一気に評判が広がり、続いて市内の「前玉(さきたま)神社」でも花手水を置くようになります。そのころから明らかに行田を訪れる人が増加。そこで、地域全体でおもてなしをしようと、同年10月、行田八幡神社前の八幡通りに立ち並ぶ商店などの軒先でも花手水を飾り始めました。これが今も続いているイベント「花手水week」のスタートとなったそうです。

花手水weekは、神社だけではなく、地域の商店や飲食店、民家などでも花手水を飾って、まちを訪れる人を迎えるというもの。年々、協力者が増え、現在約100軒が参加しています。イベント開催は1日~14日ですが、1月・11月は15日~末日。7月・8月は休止です。

イベント開催時の花手水スポットを記した散策マップ。店舗等の都合により展示していない場合もあるとのこと

「花を浮かべる器は、統一感が出るよう、市が無料で信楽焼の鉢を貸与しています。花は各自で用意することになっているので費用が掛かりますが、参加店からは『お客さんが店に入って来やすくなった』『お客さんとの会話のきっかけになった』といった声も届いていて、良い効果を感じているようです」と富山さん。

定期的にライトアップイベントも開催

2021年4月からは、ライトアップイベント「希望の光」を開始。メイン会場となる忍城址、行田八幡神社、前玉神社のほか、花手水の各スポットも幻想的な光に包まれます。開催は第1土曜ですが、11月のみ第3土曜。1月・7月・8月は開催していません。時間は日没から午後8時ごろまで。毎回、市内外から多くの人が訪れるそうです。

ライトアップイベントの様子。さまざまな光の演出で会場を盛り上げます

花手水の取り組みは大きな経済効果を生み、特産品などを販売する観光物産館の売上は格段に伸びたとのこと。また、博物館など市内の施設も入場者数が増えているといいます。

「行田花手水によって、コロナ禍というピンチをチャンスに変えることができました。イベントがしっかり定着したので、これからはそれをきちんと継続していくことが重要だと考えています」と富山さんは話しています。

◆取材を終えて
コロナ禍で新しいイベントを始める“攻めの姿勢”と、花代を自己負担しながらも協力を惜しまない市民の皆さん。どちらも簡単ではないはずですが、それができるまちであったことが、今の成功を生んだのだと思いました。取材日は、花手水weekの期間内。取材後、行田八幡神社と忍城址を訪れ、きれいな花手水を堪能することができました。

取材日:2023年5月10日
矢崎真弓