【川口】ワクワクと出合える小さな町「SENKIYA SHINMACHI」

川口市の北部、神根地域に人が集まる場があります。その名も「SENKIYA SHINMACHI(せんきやしんまち)」。
オーナー高橋秀之さんは、代々、植木屋を家業としてきた「千木屋」から屋号を引き継ぎ、「senkiya」としてカフェ、菓子店、雑貨店を開きました。敷地内には、ギャラリー、革小物の店・工房、山歩き・自転車・旅行用バッグの店、フォルクスワーゲンの修理工場など、さまざまな店が並び、小さな町や商店街のような空間です。

senkiyaの成り立ちを高橋さん手作りの紙芝居で紹介してくれました

あるカフェとの出合いがきっかけに

幼いころから家業を継いで植物関連の仕事に就くんだろうなと考え、高校卒業後、専門学校に通っていた高橋さん。友人から誘われたカフェ「1988 CAFE SHOZO」(栃木県那須塩原市)が、高橋さんにとって大きな出合いになったといいます。
「1988 CAFE SHOZO」は新しいものがもてはやされたバブル期の真っ只中にオープン。「リノベーションという言葉がほとんど認知されていない時代に、倉庫から持ってきた椅子を使うなど、古いものを生かして店づくりをしたところなんです」と高橋さん。「田舎で駅からのアクセスも良くないのに、人が集まる空間ができていた」ことに、いい違和感とともに心ひかれたそうです。
その後、同店に通ううちに働く機会を得て2年間、さまざまな経験を積んだ高橋さんは、家を継がなければという思いもあり、川口へと活動の場を移します。

実家の古民家を高橋さん自らリノベーションした店内には、趣味も兼ねて集めていた古い建具が活用されています

senkiyaカフェは、高橋さんの実家をリノベーションしたものです。カフェ時代から気ままに自分で修理、改修し、一部を雑貨店として先行運営していたそうですが、東日本大震災を機に、人が集まれる場を作る必要性を感じ、作業を急ぎ、2011年5月1日にカフェのオープンに至ります。
当時はそれほど発信していませんでしたが、どこからか聞きつけて来る人たちは感度が高く、高橋さんと「こんなことをしたらおもしろいんじゃないか、それにはこうしたらいいんじゃないか」と店でよく話し合っていたといいます。
また、家業も植木栽培から卸売りに移行していて、敷地内に使っていない場所があったことから、「それならそこの倉庫を使ったらいいよ」という流れで、いろいろな店や人が集まってきたそう。

「たぶんsenkiya1店舗だけだったら、今ごろ残ってはいなかったでしょう」という高橋さん。互いに得意なことを生かしながら、付加価値をつけていくことで、小さな町のようになり、共存していけたのではといいます。

地元を、さみしい景色ではなく、おもしろい場にしていきたい

「自分がここで楽しく暮らしていきたい。それが一番のベースにある」という高橋さん。思いの裏には、地元の状況も影響しているといいます。
川口市には古くから、北部は農業・植木、南部は鋳物の二大産業があります。しかし時代の変遷により、植木や植物が売れなくなり、廃業が増えていったそう。
「農地の性質上、用途が限られているので宅地として売ったり転用がしにくい。結果、壁で仕切られた資材置き場になることも多く、さみしい景色になっています。それもあって、ここでなにかおもしろいことをしたいんです」

カフェドリンク、トースト、スイーツなどの他、「ごはん係」と呼ぶ日替わりシェフによるメニューも

「自分はゼロから1を作るのが苦手。だから、それができる人たちを集めて、この地域でおもしろいことをやる管理人を目指したい」という高橋さん。「DJが音楽をミックスするように、いろいろな人やおもしろいことをミックスして人が集まる場を作りたい」と語ります。

senkiyaで一緒に働く人を決めるときは、「なぜここで働きたいのか」思いを書いた手紙を履歴書とともに送ってもらうといいます。
「お金ないなあと言いながら楽しそうに働く人がいたり、おもしろいことを考えてる人、やっている人が集まっている。そこにあこがれたり、ひかれて来てくれる人がいるんだと思います」と話してくれました。

◆取材を終えて
最寄り駅(東川口駅、戸塚安行駅)からは徒歩30分と、恵まれた立地ではないけれども、遠方から訪れる人も多い同店。「なんだかひかれる」のは、SENKIYA SHINMACHIに集まる人たちのワクワクや、高橋さんが大事にしている「日常の中にちらっとある非日常。いい違和感」の塩梅なのかもしれません。 

取材日:2022年12月12日
小林聡美