【暮らす】服をよみがえらせる職人技「かけはぎ」に注目!

お気に入りの服が破れたり、穴が開いてしまったりした経験はありませんか? 「自分ではどうしようもないから、処分するしかない」とあきらめてしまう前に、「かけはぎ」を職人に依頼する選択肢があります。かけはぎは、布の破損箇所をつなぎ合わせ、元通りに見えるように修復する技術です。関西では、「かけつぎ」と呼ばれています。かけはぎについて、さいたま市北区「かけはぎ工房本城」の本城富男(ほんじょう・とみお)さんに話を伺いました。

作業中の本城さん。愛用の針は、約55年前に本城さんの師匠が考案した特別なもの

和服からドレスまで対応する匠の技

本城さんは、和服、コート、セーターなどの衣類や、帽子やネクタイなどのファッション小物の修復を手がけています。修復の相談は、高価な服や、ハイブランドの衣類が中心。中でも特に多いのは、紳士服、スーツです。安く簡単に買えるファストファッションの衣類とは異なり、持ち主が「修理してでも着たい」と思う大切な服が店舗に預けられています。

かけはぎは、大きく分けて3種類の方法があります。「刺し込み」「織り込み」「割り込み」です。
①刺し込み:破損箇所に布を当てて直す
破損箇所に合わせ、新しくかぶせる布の糸を抜き、柄を合わせて縫い込んでいきます。
②織り込み:布を織り直して作り直す
小さな穴の場合に多く使われる技術です。穴を縫い合わせて埋めていくイメージです。
③割り込み:布どうしをくっつけて合わせる
毛足の長い布地の修復に向いています。

刺し込みで直す場合。穴の開いてしまった箇所に、布を当て、縫い込みます。周りになじんで、跡が分からないほど

かけはぎが難しいのは、光沢感が強い布、極端に薄い素材、複雑な織り方の生地などです。また、長く愛用していた服は色あせや日焼けがある場合があり、かけはぎを行うと、周囲から浮いて目立ってしまうこともあるそうです。
「かけはぎができるのかどうか、どのくらい時間が必要なのか、確認してから作業しますから、あきらめずにご相談ください」と本城さん。

大切に着ていても、布がすり切れたり、ひざから破れたり、虫に穴を開けられたりして、破損することがあります。
「気をつければ避けられるのは、紳士服のヒップポケットの破損です。修復のご相談が多いのですが、構造的に修復が難しい箇所でもあります。普段から、ヒップポケットに財布やスマートフォンを入れている方は、持ち運び方法を見直してみると良いですよ」

「お客さんの宝物を預かる責任があるから、ご期待に応えたい」

本城さん。かけはぎ工房本城の店舗前にて

本城さんは、兵庫県出身。愛知県豊橋市のかけはぎ職人に弟子入りし、26歳のときにさいたま市(旧大宮市)で店舗を構えました。40年以上、かけはぎ一筋です。
「40年以上続けて来られたのは、直ったのを見たときのお客さんの驚きと、笑顔のおかげです。預けてくださる衣類や小物類は、お客さんにとって思い入れのある宝物。ご期待に応えられるよう、技術を日々磨いてきました。これからも丁寧に1つ1つ作業をしていきます」

◆取材を終えて

服にあいた穴の上にかぶせた布が、本城さんの手によって服になじんで見えなくなっていく様子は、手品のようでした。「すごい!」と何度も口にしてしまいました。
「手品じゃありませんから、完全になかったことにはできません。ですが、修復した跡が見えなくなるよう、慎重に行っていますよ」と本城さん。
取材中、修復を依頼したお客さんが服の引き取りに来店し、とても喜んでいるのを目にしました。
着られなくなったら服を処分してしまうのが習慣化している自分にとって、1着を大切に着ることを考えさせられる取材でした。

取材日:2023年4月27日
塚大あいみ