行田市の世界に誇る田んぼアート 難しいデザインに挑戦できる秘密とは

行田市の田んぼアートはギネス世界記録™を持つスケール感で、訪れる人を毎年楽しませています。2023年は、同年に公開予定の「翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~」がテーマです。メインキャラクターの壇ノ浦百美(だんのうら・ももみ)と麻実麗(あさみ・れい)がデザインされ、髪の毛や表情が稲ではっきりと描かれています。

2023年7月10日撮影の田んぼアート。「翔んで埼玉」の麻実麗と壇ノ浦百美(右)がはっきりと見えます。©映画「翔んで埼玉」製作委員会

2008年から始めた行田市の田んぼアートは、2015年に「世界一の大きさの田んぼアート」としてギネス世界記録™に認定されました。行田市環境経済部農政課で田んぼアートを担当している橋本卓也(はしもと・たくや)さんにお話を伺いました。

壇ノ浦百美の髪質まで再現! 徹底したこだわり

壇ノ浦百美は、光をまとう細かいウェーブがかかった金髪の持ち主。田んぼアートにする上で、キャラクター2人の特徴を捉えて再現しなければなりません。行田市の田んぼアートを実施している「田んぼアート米作り体験事業推進協議会」(以下、「協議会」)の一員である橋本さんは、今までの経験の蓄積があってこそ実現できたデザインだと考えています。
「稲の生育状況によって用意しておいた予備の稲を植えたり、密集していれば引いたり、雑草を抜いたり。デザイン通りのアートになるように、手入れは怠れません」と橋本さん。

行田市の田んぼアートは、隣の古代蓮会館の展望タワーから見るのが前提です。約50mの高さで、角度としては25度下を向く視点となります。きれいにはっきりと見えるアートにするために、デザイン画から測量会社が計算し、稲を植える目印となる図を起こします。図を元に、目印である杭を打ち、ロープを張り、田植えを行うのです。2023年は、6,107本の杭と8,051mのロープが使用されました。田植えでは、埼玉県のブランド品種「彩のかがやき」をメインに、「紫905」「べにあそび」「ゆきあそび」の4種類の稲を指定された範囲に、間隔を調整しながら植えていきました。

「行田市の田んぼアートは、2008年から今までさまざまな工夫を重ね、精巧さが求められるデザインにも取り組めるようになりました。稲刈りまで、見た方に楽しんでもらえるよう、手入れを欠かさず続けていきます」

ギネス記録認定への険しい道のりから生まれた数々のコラボレーション

行田市で収穫されるお米のPR、そして観光施策の一環として、行田市は田んぼアートを開始。2008年、約1,983㎡(2反)の広さの水田に、行田市の市花である行田蓮(古代蓮)を描いたのがスタートです。年々、田んぼアートに使う水田の面積は広がり、2011年には、28,000㎡の規模になりました。
世界記録を目指そうという動きがうまれ、協議会は田んぼアートのカテゴリー作成をギネス社に依頼。すると、ギネス社からきびしい条件が出されました。その条件に適合した田んぼアートを成功させるべく、担当者たちが試行錯誤する日々が始まります。

古代蓮会館内で紹介されている、歴代の田んぼアートの数々

「ギネス社の条件には、田んぼアートがアートとして成立していなければならない、という視点があります。申請しても通らない年はもちろん、天候不順で思うようなアートにならず、申請そのものを見送った年もありました。失敗や反省点をいかし、使う稲の種類や除草剤の使用、徹底した田起こしなどを行い、ついに2015年に認められました」と橋本さん。

2015年、行田市の田んぼアートは、27,195㎡の世界最大の田んぼアートとしてギネス世界記録™に認定。翌年以降は、有名ゲームタイトルやテレビドラマ、大使館などのコラボレーションデザインが続いていきます。ギネス記録への挑戦が、緻密なデザインにも応えられる技術となり、今に至っています。

すべては行田市のおいしいお米を知ってもらいたいから

田んぼアートを構成している稲のほとんどは、収穫され、おいしく食べられています。例年4月頃には、田植えのボランティアを募集。田植えに参加すると、稲刈りにも挑戦でき、前年に収穫された田んぼアートの米がプレゼントされます。

今回お話をお伺いした、行田市環境経済部農政課の橋本さん

「元々、行田市でおいしいお米が採れることを知ってもらうために、田んぼアートを行っています。田んぼアートをいかした活動や事業をより増やしていきたいと考えています。2021年度には、田んぼアートで収穫した米を使ったライスヌードルで防災備蓄食のカレーうどんも作りました。田んぼアートをさまざまな形で、行田市の農業振興に役立てていきたいです」

◆取材を終えて
古代蓮会館の展望タワーから臨む田んぼアートは、麻実麗と壇ノ浦百美の表情がはっきりと見えて感激しました。その後で実際に地上の田んぼの近くからも見てみると、奥に向かって絵が伸びているのを確認。頭上からの眺めを計算して植えられている点が理解でき、感心しきりでした。

取材日:2023年7月10日
塚大あいみ