秩父鉄道「秩父駅」から5分ほど歩くと、ひときわ目立つ茶色の建物が目に入ります。建物には「松竹秩父国際劇場」の文字があり、道沿いにおしゃれなカフェテラスが見えます。
一見、お店なのか映画館なのかわかりませんが、実は戦後地元で親しまれていた「秩父国際劇場」という映画館をリノベーションした、イタリアンレストラン「TRAGHETTO」(トラゲット)です。
古い建物を利用してレストランを始めたきっかけ
明治時代に建てられたこの建物は「秩父座」という芝居小屋でした。古い秩父市内の地図には「秩父座」の名称で記されています。戦後昭和23年に「秩父国際劇場」と名前を変え、昭和58年まで秩父市民の娯楽施設(映画館)として親しまれていました。
映画館が閉館したあとは、トラゲットのオーナー上石さんの父親が経営する、建築資材販売会社「上石建材店」の資材置き場として保管されていたようです。
上石さん自身は、東京の洋食やイタリア料理の店で修業していましたが、「実家の土地を利用して、イタリアンレストランを始めよう」と秩父へ戻ってきました。
当初は建物をすべて取り壊し、新しくイタリアンのお店を建てる考えだったといいます。
「秩父で店舗リフォームプロジェクトがあり申請しようとしたところ、建物を残すことが条件だったので、国際劇場の建物をリノベーションし、オープンさせることにしました」と上石さん。こうして歴史のある貴重な建物が、今の時代に合わせて生まれ変わることになったのです。
来店者の中には「昔ここの映画館に通っていたの。懐かしいわ」とうれしそうに声をかけてくれる人もいるそうで、「最初はこの建物の歴史の重みをわかっていませんでしたが、今となってはこの建物を残して良かったと思います」と笑いながら話してくれました。
地元住民の輪が広がる集いの場所へ
同店は「トラコン」を不定期で開催しています。トラコンとは、トラゲット主催の合コンです。
上石さんは中学校から地区外の学校へ進学したため、地元に友達と呼べる仲間が少なかったといいます。「ですが地元に店をだすことで、地域のいろいろな人に協力してもらえて、うれしかったですね」と上石さん。
手伝ってくれた人たちに感謝をし、地域に溶け込まなくてはという思いからトラコンを開催しはじめたそうです。
店がオープンしてから今までに15回、延べ1500人が参加しています。現在までに120組のカップルが誕生、結婚の報告は4組受けているそうです。
会話が苦手な人でも楽しめるよう、スタッフがサポートしています。
現在はコロナ禍で中止していますが、トラコンのほかにも、ダンスや音楽系のイベントを開催したり、子ども連れでもゆっくりランチが楽しめるように子どもが遊べるスペースを用意したりしています。
「観光客だけでなく、地元住民の輪が広がる集いの場所としてトラゲットを提供していきたいですね」と上石さん。
人気料理は、A5ランクの九州黒毛和牛とスペイン産イベリコ豚の合い挽き肉で作る「特製ふわふわハンバーグ」980円。テイクアウトのお弁当は800円です。
◆取材を終えて トラゲットは、秩父でも目立つ存在の建物だと思います。古い歴史ある建物をリノベーションして、現在でも有効活用できる建築は、素晴らしいと感じました。上石さんも「店内の広い空間を利用し、テーブルの間隔をあけて、これからもソーシャルディスタンスが保てる空間づくりをしていきたい」と考えているそうです。古い建物を維持していくのは大変だと思いますが、地元にも観光客にも愛される店になっていくと確信しています。 取材日:2022年1月19日 田部井斗江