【地域応援】越谷だるまとだるまアート~伝統の継承と未来へとつなぐ挑戦

埼玉県の伝統工芸品「越谷だるま」をご存じですか。
越谷だるまは江戸時代から300年以上続く手工芸品で、日光街道の宿場町として栄えた越谷から関東を中心に、全国各地に届けられてきました。だるまは厄除けや祈願に使われ、縁起物として親しまれています。酉(とり)の市や初詣などで目にする人も多いのではないでしょうか。川崎大師や柴又帝釈天などにも並ぶ越谷だるま。現在は越谷市内の工房数か所で作られていますが、職人の高齢化や後継者不足という課題にも直面しています。
今回は、越谷だるまをこの先の未来にも残していきたい、その魅力をもっと伝えていきたいと活動する人たちをご紹介します。

色が白く、鼻が高い越谷だるま
越谷だるまは色が白く鼻が高い顔立ちが特徴。“美男子“と呼ばれることもあるとか

手描きの絵付けで工房ごとに表情が違う「越谷だるま」

鼻の高い顔立ちが特徴の越谷だるま。越谷でつくられるようになったのは、主な出荷先であった江戸に近く、他の地域に比べて、運搬中にだるま同士がぶつかって壊れることが少なかったことが背景にあるといわれています。
越谷市役所の経済振興課地域産業推進室で聞いたところ、市内の工房では、筆を使って一つ一つ手作業でだるまの顔を描いていくそう。基本的な描き方は決められていますが、工房ごとに特徴があり、表情が異なるといいます。
同課の黒田寛美室長は「鶴亀が描かれている眉や“寿”の文字で描いた眉、曲線で描かれたひげや角ばった貫禄のあるひげなど、よく見るとだるまの表情は一つ一つ違うのがわかります。とってもおもしろいですよ」と教えてくれました。

だるまアートで新しい風を

伝統の越谷だるまの魅力を少し変わった角度から、さらに多くの人に伝えようと取り組んでいるのが、デザイナーの花房茂さん(HANABUSA DESIGN代表)です。
アートという切り口で、斬新なだるまを制作。だるまアートの展示やイベント監修なども行っています。

花房さんと、英字新聞を貼っただるまアート
花房さんとだるまアート。立体のだるまにシワが寄らないように紙を貼るのが難しいそう。ちぎり絵のように切り貼りするそうですが、一枚の紙をまとわせたような出来上がりです

もともとデザイナーとして大手企業のデザインを手掛けていた花房さん。多忙を極めた当時、越谷は寝に帰るだけの場所だったそう。それが、住むほどに住み心地の良さを感じ、生活の場として愛着を感じるようになると、蔵のある街並みや、職人が手作業で作り上げる伝統工芸に目が行くようになり、地域資源の活用に関わる仕事を目指すようになったといいます。

だるまアート発案のきっかけは花房さんがある工房に話を聞きに行ったとき。
越谷だるまはもともと木型に和紙を貼り重ねて作る「張子(はりこ)」という手法で作られていました。工房にあった、その木型や絵付け前のだるまを目にして、とても芸術的で面白いと感じたそうです。
張子の手法からアイデアを得た花房さんは英字新聞を貼ってみたそうです。それがだるまアートのはじまりでした。

一方、花房さん自身や関係者の中には「だるまをアートにしていいのだろうか」という議論もあったそうです。「歴史ある工芸品であるだるまに、むやみに手を加えていいものか。だるまを作る職人さんに失礼はないか」という心配もあったといいますが、越谷だるま組合や職人の方々とコミュニケーションを重ね、一緒に越谷だるまを盛り上げていきたいという気持ちで協力関係ができたといいます。

アートイベントで認知を広げる

花房さんが2016年に東京ミッドタウンにてだるまアートの展示・監修を行った他、さまざまな場所でだるまアートが展示されています。
「アート活動がきっかけとなり、いろいろな人たちが地域の伝統工芸や文化に興味をもってくれたらうれしい」という花房さん。

個性的なだるまアートが並ぶ「だるまアート」
東京ミッドタウンでの展示の様子

子どもたちと一緒にアート展を開催

現在、越谷市内の一部の中学校では、だるまアートの創作を授業に取り入れているそうです。白地のだるまを子どもたちが自由な発想で絵付けするので、大人が思いつかないようなだるまが出来上がるといいます。花房さんは2022年には市内の中学生との合同展を開催、2023年にも中学生約400人とのアート展を企画しているそうです。

また、2022年12月26日~2023年1月9日には商業施設の越谷イオンレイクタウンで越谷だるまアート展も開催しています。

2023越谷だるまアート展の告知
◆取材を終えて
一つ一つ違う絵柄や表情を見ていると、とてもかわいく愛着を感じるだるまたち。越谷だるまについて知れば知るほど、とても興味深い工芸品だと感じました。だるまの絵付け体験は、市内のイベントなどで不定期に開催されているそうですが、すぐに予約で埋まってしまうことも多いとか。
アートイベントを盛り上げてだるまの魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいという花房さん。これからどんなイベントや作品を目にすることができるのかとても楽しみです。

取材日:2022年12月6日
小林聡美