日本の“カレー元年”から150年。記念の年を迎え、さらにカレー業界がアツくなる!

家庭や学校給食、飲食店などの定番メニューであり、日本人の食生活を支えているともいえるカレー。実は、150年前に日本に伝わっていたことが分かっています。「150年も前に!?」と思うのか、「150年なんて最近だ」と思うのかは人それぞれですが、今年はそんな“カレー元年”から数えてちょうど1世紀半。日本最初のカレーはどんなものだったのでしょうか。

また、節目を迎えた今年、2022年のカレー業界ではどんな動きがあるのでしょう。そして、記念すべきこの年に流行るカレーとは?

1872年に出版!
日本で初めてカレーのレシピを紹介した「西洋料理指南」

「出典:横濱カレー ミュージアムHP」

「西洋料理指南」は、1872年(明治5年)に出版された料理本。上下2巻にわたり、レシピや調理器具の紹介、西洋料理を取り入れた新しい食生活の提案などが書かれています。

著者は「敬学堂主人(けいがくどうしゅじん)」。本名とは思いにくい名前ですが、実際、ペンネームのようで、著者は当時の高級官僚だった人物だといわれています。明治の初期、まだ一部の人しか西洋料理を味わうことができなかった時代に、すでに西洋の食に親しんでいたわけです。

そして、この本に紹介されているのが、日本初のカレーのレシピです。どのように書かれているのでしょう。原文は次のとおりです。

<カレーの作り方>
「葱一茎生姜半箇蒜少許ヲ細末ニシテ牛酪大一匙ヲ以テ煎リ水一合五タヲ加へ鶏海老、鯛、蠣、赤蛙等ノモノヲ入能ク煮後「カレー」ノ粉一匙ヲ入煮ル1西洋一字間巳ニ塩ニ熟シタルトキ加ヘ又小麦粉大匙二ッ水ニテ解キテは入ルベシ」
(出典『西洋料理指南』敬学堂主人)

これだけではなかなか分かりにくいので、読みやすいように現代仮名遣いなどに変え、補足も入れてみます。そうすると、こうなります。

「ネギ一茎、ショウガ半個、ニンニク少しばかりを細末にして、牛酪(ぎゅうらく・バター)大さじ1杯で煎り、水・一合五勺(270ml)を加え、鶏、海老、鯛、蠣(カキ)、赤蛙等のものを入れて、よく煮た後、カレーの粉を小さじ1杯入れて煮る。1時間してよく煮込まれたら塩を加え、小麦粉大さじ2杯を水に溶いて入れる」

当時、日本にはタマネギがなかったため、長ネギを使っている点が大きな違い。しかし、すでにニンニクやカレー粉を使用していて、さっと読んだ限りでは、現在、私たちが作り、食べているカレーと似通っている部分が多いです。

また当時の日本では、四ツ足の動物を食べる習慣がなかったためか、具材としてビーフやポークではなく、海鮮を中心としています。

具材に、まさかの“アカガエル”

ただ一つ、レシピをよく読んで、どうしても気になるのは「赤蛙」の記述。今ではちょっと考えられない具材です。「赤蛙“等”」とあるため、必ず使うわけではなかったようですが、なぜアカガエルだったのでしょうか。

アカガエルがカレーの具材となった理由としては、いろいろな説が考えられています。

その一つが、日本へカレーを伝えた国に理由があるとするもの。インドから日本へカレーが伝えられたと思われがちですが、実はイギリス経由だったため、当時のイギリスの植民地・中国の食文化が反映されていたのでは?といわれています。中国では、カエルは一般的な食材として流通しているので、カレーに使われていた可能性はゼロではありません。

また、カエルを食べる習慣のあるフランスの影響を受けたのかも?という説も残っています。

さらには、イギリスからのカレーのレシピには「カエル」とは、全く書いていなかったのに、ビーフやポークの代わりになるタンパク源として日本独自で取り入れたという話もあります。

どれが本当かは分かりませんが、必須ではないものの、カレーにカエルが使われていたのは事実。現在でも「食用ガエル」は流通していますから、カエル入りカレーを食べることは可能です。

実際、カレー好きの人の中には、日本最古のレシピを再現し、カエルを使ったカレーを食べてみた人もいるようです。味の評価は真っ二つ。「魚介の匂いが強くて食べられたもんじゃない」という人もいれば、「ブイヤベースみたいでおいしい」という人も。

食べてみた人にしか分からない、元祖の味。興味のある人は作ってチャレンジしてみては。

同年出版の「西洋料理通」にもカレーの作り方が掲載

「西洋料理指南」と同じ年に、もう1冊、西洋料理本「西洋料理通」が出版されています。これは、当時、横浜に住んでいたイギリス人が、雇っていた日本人に料理を作らせるために記したレシピノートを基に、戯作者で新聞記者の仮名垣魯文(かながき ろぶん)が書いたものです。

この中でカレーは、「カリードヴィル・オル・ファウル」の名称で作り方が書かれています。要点のみ紹介すると、次のとおり。

「子牛あるいは鶏肉のあり合わせの肉に、ネギ4本、リンゴ4個を刻み、カレー粉一杯、小麦粉一杯を水あるいはスープの中へ入れ、4時間半煮る。その後に柚子の露を入れ、皿に盛った炊いた米のまわりにぐるりと輪のように盛る」

長ネギやカレー粉、小麦粉を使うのは「西洋料理指南」に書かれている内容と同じ。しかし、使用する肉として「子牛あるいは鶏」とあり、「アカガエル」の記述はありません。また、「西洋料理指南」にはなかった、「ユズ」を使うとしていて、日本人の好みに近づけた味わいだったことがうかがえます。

2022年に、欧風カレーの進化版が登場の予感!

2冊の西洋料理本が立て続けに出版され、日本で初めてカレーのレシピが紹介された1872年。いずれにしても、このころが、“日本のカレーの草創期”であることは間違いないでしょう。

それから今年で150年。カレーメーカーがこの記念すべき年をスルーするとは思えず、何かしらインパクトのある商品を打ち出すことが考えられます。

もちろん、カレー店も盛り上がり、もしかしたら、“原点回帰”でアカガエルを使ったカレーを提供する店があちこちに登場するかもしれません。
また各地で、カレーに関連したイベントが開催される可能性も大! とにかくカレーでまちが活気づく年になること請け合いです。

そんな中で、今最も注目が集まっているのが、“日本最古のカレー”の進化版です。

スパイスで味を調えるインドカレーは根強い人気がありますが、日本人が一般的に食べているのは「西洋料理指南」のレシピにもあった、カレー粉や小麦粉を使うカレー。現在の「欧風カレー」につながるカレーです。

150年という節目の年に、この日本人に最も馴染みのある欧風カレーが、さまざまにアレンジされて世の中に発信されることが予想されています。
名付けて「新欧風カレー」! さて、どんなカレーなのでしょうか。期待が高まります。

<カレー総合研究所>

http://www.currysoken.jp/