楽しく学んで、おいしく食べて。体験しながら深く知る“しょうゆの世界”

笑顔のある未来へ向け、思いを込めてオープン

川島町に本社を構える笛木醤油株式会社は、1789年の創業以来、木桶(きおけ)でじっくり仕込む醸造方法を守り続けている醤油蔵。2019年11月、創業230年の節目を記念して敷地内にオープンさせたのが、体験型複合施設「金笛しょうゆパーク」です。

蔵を改装した建物(右)にレストランと直売所、トレーラーハウス(左)にバウムクーヘンの工房を整備

同パークの開設を発案したのは、十二代目当主・代表取締役社長の笛木吉五郎(ふえき きちごろう)さんです。そこには、多くの人に醤油の魅力を伝え、今や貴重となった手仕事での醤油造りを守っていきたいとの強い思いがありました。

「かつて川島町は、原料となる大豆や小麦の栽培が盛んなうえ、四方を川に囲まれていて仕込みに必要な水にも恵まれていたため、醤油蔵が多く“埼玉の醤油の産地”と呼ばれるほどでした。しかし、食生活の変化や人口減少などによって、川島町だけでなく日本全体で醤油の生産量や蔵が激減してしまったんです。同時に機械化が進み、時間をかけず、大量に製造する方法が主流になっていきました」と醤油業界の現状を話す笛木さん。2017年8月、37歳で社長に就任してからは今後に悩み、眠れない日も多かったと言います。

そんな中、笛木さんは亡き父が残したノートを見つけます。

「ノートには『醤油を造っているところをお客様に見ていただいて、価値や魅力を伝えていかないといけない』と書いてありました。これを見て、親父の思いと、コト消費(体験にお金を使うこと)を融合させた施設を造りたいと思ったんです」

こうして「しょうゆでつなぐ みんなの笑顔」をコンセプトとした「金笛しょうゆパーク」が誕生。食べる・学ぶ・買う・遊ぶをテーマに、さまざまな楽しさを来場者に提供しています。

毎日開催!仕込み蔵まで案内する「工場見学」

4つのテーマのうち「学ぶ」に当たるのは「金笛しょうゆ楽校(がっこう)」と名付けられた、醤油工場の見学です。参加無料で、平日は1日3回・土日祝は1日10回以上も開催。参加者には、イラストや写真で醤油について説明した約50ページの“教科書”を配布するとともに、原料から仕込み蔵まで公開し、その工程を丁寧に伝えています。

もろみの入った38本の木桶が並ぶ「仕込み蔵」。空気を入れるため、定期的にかき混ぜる必要があるという

工場見学のガイド役は、実際に醤油造りに携わっている製造担当者や営業担当者、品質管理担当者など、部署の異なる従業員が交代で務めています。工場を案内する際、基本説明にそれぞれの立場ならではの知識が加えられるため、ガイドを変えて参加してみるとまた新しい情報が得られるそうです。

敷地内には、木桶を使った遊具やブランコ、ツリーハウスなどを備えた遊び場もあります。
同パークの担当者・中島理絵(なかじま りえ)さんは「どなたでも自由に利用していただけます。目の届きやすい広さなので『小さな子どもを遊ばせるのにちょうどいい』と喜んでいただいていますね」と話します。

さまざまな形で伝える手作りの味

「しょうゆ蔵のレストラン」では、だしと一緒に醤油のおいしさを味わえるよう、自家製うどんを中心としたメニューを用意。「金笛ソフトクリーム」(380円)など醤油を使ったスイーツもそろえています。

名物の一つ「蔵出し醤油の食べ比べうどん」880円。4種類の醤油を1種類ずつ、うどんで味わい、その違いを楽しむことができる

「木桶バウム工房」では、職人が毎日4種類(プレーン・しょうゆ・いちご・さつまいも)のバウムクーヘンを焼き上げています。原料の卵やイチゴも川島町産。中でもイチゴは、不ぞろいで出荷できないものを仕入れ、地元農家の応援につなげています。「日時を決めて焼き立てを販売したり、バウム作りのワークショップを開いたり、楽しんでもらえる企画も実施しています。これからもっとパークのファンを増やしていきたいです」と中島さん。

オープンから約1年半経った時点で、総来場者数は予想を上回る約7万人。このうち、1万7千人が工場見学に参加しました。「根本にあるのは、この地域にお醤油屋さんがあって良かったなと思ってもらえるようにすること。そのために、日々研さんし、自分たちのやるべきことをやっていくつもりです」(笛木さん)。同社のチャレンジは、まだまだ続きそうです。

  ◆取材を終えて  

同パークでは、「彩の国景観賞」を受賞した蔵のスケッチを目的に訪れたり、遊び場だけを利用したりする人も歓迎しているとのこと。本当に地域や人とのつながりを大切にしているからこそできることだと思います。 

取材日:2021年5月12日
矢崎真弓