酪農の現場を多くの人に伝える役割も
上尾市の西部、荒川沿いにある「榎本牧場」は、埼玉県内で数少ない観光牧場です。営業時間内であれば来場者は牛舎を見学したり、自家製ジェラートを味わったりして自由に楽しむことができます。
榎本牧場の開場は、1945年。販売責任者・榎本 衛(まもる)さんは「終戦後、アメリカ文化が入ってきて日本人が牛乳を飲むようになり、祖父が牛を飼ったのがこの牧場の始まりです。一時は上尾市内の100軒以上で牛を飼っていたようですが、現在は7軒ほどですね」と話します。
牛1頭の値段が高かったことから、酪農の継続を断念する人も多い中、榎本牧場では少しずつ頭数を増やし、1974年には市街地から現在の場所に移転。その後、経営をより安定させるため、また酪農という仕事や乳牛について広く知ってもらうため、人を呼び込むスタイルへ変えていったそうです。
乳牛たちの様子を間近で観察
榎本牧場では、約70頭の乳用種「ホルスタイン」を飼育しています。来場者は牛舎の2階に上がることも可能で、乳牛たちの様子を上から眺めるという貴重な体験ができます。
搾乳作業は、コンピューター管理のロボットが行っています。牛の首に付けた機器を読み取って1頭ずつ自動的に搾乳するシステムで、その様子も常時公開。取材日にも、興味深くロボットの動きを見守っている来場者の姿がありました。
土・日・祝日には、「牧場体験」(対象5歳以上、料金1人2200円)を実施。牛の乳搾りやブラッシング、子牛へのミルクやり、バター作りなど2時間かけて酪農の仕事を体験できるとあって人気です。ただ現在は新型コロナウイルスの影響で、受け入れを1日1組に限定しているので、早めに予約したほうが良いようです。
新鮮な牛乳で毎日作るジェラートが好評
売店では、搾りたての牛乳を使ったジェラートやヨーグルトなどが販売されています。ジェラートは作り置きせず、毎朝製造。店内には定番の「ミルク」のほか、日替わりで約10種類の味が並びます。
現在、市内にある茶の専門店とコラボレーションした「さやま抹茶ジェラート」を期間限定で販売中です。
東京と埼玉を結ぶ「荒川サイクリングコース」に程近い榎本牧場は、サイクリストたちの休憩場所としても知られています。全長90㎞に及ぶコースのほぼ中間地点に牧場があるため、往復100㎞を目安に走る人がよく立ち寄るとのこと。敷地内にはロードバイク用スタンドも設置されていて、特に休日には、サイクルウエアを身に着けた人の姿が目立ちます。
牧場内では乳牛のほか、ミニブタやニワトリなども飼われています。「どの動物にも決して食べ物を与えたり、驚かせたりしないで、安全に楽しく見学していただきたいですね」と榎本さん。
各所に手洗い場や消毒液を設置したり、来場者からの質問に丁寧に答えたり。“安全に楽しく”過ごしてもらえるよう、牧場としてもできる限りの努力を行っています。
◆取材を終えて 春には牧草地に咲くストロベリーキャンドルの摘み取り体験、初夏には桑の実の提供などを無料で行っているそうです。榎本牧場のサービス精神と自然の豊かさに触れ、心が和みました。 取材日:2021年6月14日 矢崎真弓