2021年に入り全国的なブームとなっているのが、ニュータイプキーマカレー。味付け、ひき肉の種類や挽き方、色、ソースの比率、食べ方など、基本のキーマカレーから複雑かつ多岐にわたり進化を遂げたカレーで、その進化はこの先もとどまる気配がありません。カレートレンドシリーズ第2回目では、いまもっとも注目されるカレーの人気の秘密とその背景を、株式会社カレー総合研究所(本社:東京都渋谷区)代表であり、カレー大學学長を務める井上岳久氏にインタビューします。
井上 岳久
●Takahisa Inoue
井上 岳久
●Takahisa Inoue
PROFILE●1968年生まれ。慶應義塾大学、法政大学卒。株式会社カレー総合研究所代表。カレー大學学長。中小企業診断士。カレー総合プロデューサー。加須市観光大使。事業創造大学院大学客員教授。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。元横濱カレーミュージアム責任者。横濱カレーミュージアムでは出店店舗の8割を全国のカレー店から誘致。カレーの商品開発は1000件以上に携わり、ヒット商品多数。レトルトカレーは全国から3000種類以上を試食。食べ歩きは全国7000店舗以上。企業・外食産業・関係者など1000以上のヒアリング調査と研究によるトレンド予測に定評。カレー全般に精通し、テレビ、雑誌などのメディア出演は年間100件を超える。著書は、『おとう飯カレー』(徳間書店)、『カレーの世界史』(SBビジュアル新書)、『カレーの経営学』(東洋経済新報社)、『一億人の大好物カレーの作り方』、『国民食カレーで学ぶもっともわかりやすいマーケティング入門』、『カレー雑学』(日東書院本社)、『咖哩なる広報』(ごきげんビジネス出版)など20冊以上。
1 トレンドの背景と理由
1 トレンドの背景と理由
日本人の特性と見事に合致する
――今年、ニュータイプキーマカレーがブームになっていますが、キーマカレー自体の人気が年々高まっているのはなぜでしょうか?
井上 2008年のブーム以降、キーマカレーは一過性の流行で終わらずに、食卓の定番となりました。その後も何回かに分けて徐々に盛り上がっています。定番化した理由は大きく分けて①手軽さ、②日本人はひき肉が好き、③アレンジ好きを触発する料理、の3つあります。
キーマカレーが食卓に定番化した理由
1 手軽さ
2 日本人はひき肉が好き
3 アレンジ好きを触発する料理
キーマカレーが食卓に定番化した理由
1 手軽さ
2 日本人はひき肉が好き
3 アレンジ好きを触発する料理
――1つめの手軽さとはどのようなことでしょうか?
井上 フライパン1つあれば、30分で作ることができるということです。コロナ禍で在宅勤務をする男性もチャレンジしてみようと思えます。それに、ひき肉が安くてお財布にやさしいというのも魅力ですよね。働く女性も多いなか、社会のニーズとピッタリ合致しました。
――日本人はひき肉好きということが、2つめにあげられていますね。
井上 日本の食卓には、ハンバーグ・メンチカツ・ミートボール・そぼろ・麻婆豆腐などひき肉料理がたくさんありますよね。どこのスーパーでもひき肉コーナーが大きめにもうけられています。そんなひき肉料理のカレー版・キーマカレーに魅了される人が多いんですよ。
――3つめのアレンジ好きを触発する料理とは、どういう意味ですか?
井上 単純な調理でありながら、肉の部位や種類・スパイスの挽き具合・スパイスの選定・調味料の種類・追加食材などバリエーションは無限大です。そうなると、自分好みのオリジナルキーマを作りたくなりますよね。元来アレンジ好きな日本人にぴったとハマったんです。
ここ数年のカレーブームと社会環境の変化でキーマが劇的に進化
――確かにひき肉料理は老若男女に親しみがあります。どのような進化をしているんですか。
井上 いま外食では、コロナ禍で営業時間に制限があって大変な時期ですよね。そのなかでランチやテイクアウト、宅配に強いカレーに注目が集まっています。競争激化のなか、個性を出しやすいキーマカレーは差別化を図るための武器となっているんです。
井上 ビジュアル系でいうと真っ白なラクレットチーズをたっぷりかけて、真ん中に卵を落としたキーマ(CHEESE CHEESE &Meat. COMTE/東京・南池袋)は女性に人気ですね。インドの長粒米を南インド製スパイスで炒めたピリリと辛いキーマ(ケララバワン/東京・練馬)は、後を引くおいしさでクセになります。見た目のインパクトがあったり、味も特徴的で個性的なカレーがほかにもたくさんあります。
――では、内食(自宅で作るカレー)ではどういう変化がありますか。
井上 内食ではカレーメーカーがキーマカレー専用の商品を多数投入していて、いろいろチャレンジできます。種類が豊富なので食卓でも飽きないですよ。
また、インターネットでは多くのレシピが公開されています。そのため、家庭ごとの好みで個性的なキーマカレーを作る人が急増中です。
2 バリエーション豊富な
ニュータイプキーマ
2 バリエーション豊富な
ニュータイプキーマ
ニュータイプキーマ、ハイブリッドキーマ、フュージョンキーマを分類すると…
●ニュータイプキーマ・ハイブリッドキーマ・フュージョンキーマの体系図
――ニュータイプキーマはアレンジしやすいということですが、そのバリエーションにはどのようなものがありますか。
井上 体系図をみてもわかるように、カレー分類はインド系に加えて、中華系、和風系があります。中華系は担々麺のカレー版、和風系は出汁にこだわったカレーなど、味のバリエーションが広がっています。他にもさまざまな個性があります。
――バリエーションが多くて興味深いです。
井上 スパイスカレー系では、様々なスパイスやハーブを組み合わせた独創的なカレーが人気の旧ヤム邸シモキタ荘(東京・世田谷区)や、中華系では甘辛い味付けの牛肉が特徴の魯肉飯(ルーローハン)に好みのカレーを合わせるSPICY CURRY 魯珈(東京・新宿区)などが有名です。
これらの進化したキーマカレーにより店の存在感が際立ち、さらに知名度が上がっています。
具体的な種類の例
1 スパイスにこだわるスパイスカレー系キーマ
2 担々麵のカレー版や魯肉飯(ルーローハン)などの台湾料理中華系キーマ
3 出汁にこだわる出汁/和風キーマ
4 チーズをかけて見た目を白くするなどビジュアル系キーマ(白/黒キーマ)
5 ブランド牛・ラム・マトンなど肉にこだわる肉系キーマ
6 高タンパク質や低脂質などに注力栄養系キーマ
7 鯖など魚介にこだわる魚介系キーマ
具体的な種類の例
1 スパイスにこだわる
スパイスカレー系キーマ
2 担々麵のカレー版や
魯肉飯(ルーローハン)などの
台湾料理中華系キーマ
3 出汁にこだわる出汁/和風キーマ
4 チーズをかけて見た目を白くするなど
ビジュアル系キーマ(白/黒キーマ)
5 ブランド牛・ラム・マトンなど
肉にこだわる肉系キーマ
6 高タンパク質や低脂質などに
注力栄養系キーマ
7 鯖など魚介にこだわる魚介系キーマ
「ニュータイプキーマ」今後の展望
――個性的なキーマカレーを提供する店が増えて、家庭でも作ってみたくなるという相乗効果がブームを呼んでいるんですね。
井上 キーマカレーが複雑に進化したのが「ニュータイプキーマ」「ハイブリッドキーマ」「フュージョンキーマ」なんです。カレー業界のプロやカレーマニアには当たり前のことでも、一般の人はあまり知らないかもしれませんね。
それが今年はプロやマニアの常識から一般の常識へと広がってきています。「ひき肉入りのカレーと何が違うの?」という一般の声と、マニアの常識とのギャップが埋まる瞬間が“ブーム”となるんですよ。
――ちなみに、「ハイブリッドキーマ」「フュージョンキーマ」とはなんでしょうか?
井上 ニュータイプキーマを別の視点から、もしくは一部の種類を指して「ハイブリッドキーマ」「フュージョンキーマ」と呼ぶ人もいます。新しい分野カテゴリーであるため、呼び名が定着していません。「スパイスカレー」「スープカレー」なども、はじめはバラバラであったものが一つに定着していったように、今後、新しいキーマの名称も定まってくると思います。
――今後はカレー業界、カレー市場では、どのような動きがあるのでしょうか?
井上 この先も大手のファミリーレストランや外食チェーン、コンビニエンスストアなどの外食で新たなキーマカレーの新商品やメニューを発売してくるでしょう。すでに、外食大手のガストでは「焼きキーマ」なるニュータイプキーマを今春より販売し好評を得ています。
そしてカレーの名店でも新作を出すなど新たな動きがあります。さらにはまちおこしの一環でご当地カレーが誕生するなど、キーマに関して次々と活発な動きがあります。
今年は、このように外食、内食ともに一層販売が強化していくでしょう。そして、本格的なニュータイプキーマが日本中に増殖し、確実にトレンドになると確信しています。
【2021 カレートレンド情報 Vol.2】
今回は2021年にトレンドとして注目されている「ニュータイプキーマ」の流行の理由についてレポートしました。
個性あふれるキーマカレーを提供する店が急増したことで、家庭でも作りたくなるという相乗効果がブームに拍車をかけています。おうち時間を楽しむためのヒントがここにはたくさんありました。
インタビュアー:小原恵利子
《 Profile 》カレー大學、大学院 第1期卒業生。若い頃、カフェで提供されるインドカレーに魅せられ、ほぼ毎日カレーを食べ続けた。その後、本格的にカレーを学びたいとカレー大學、大学院を修了。子育て中は、様々なカレールウ調理やレトルトカレーにチャレンジ。現在は、カレー伝道師として日々変化するカレー業界について学び続けている。
彩ニュース 編集部代表