川越城址の二の丸跡に建つ川越市立美術館は、川越市市制施行80周年にあたる、2002年(平成14年)12月1日・川越市民の日に開館しました。
同館には、特別展、常設展のほかに「タッチアートコーナー」があります。このコーナーの作品は、原則、直接手で触れることができます。開館当初、目の不自由な人も楽しめるスペースを、との声に応えてつくられました。
「目の不自由な人はもちろん、普段あまり美術館に来たことがない人でも親しんでもらえるスペースとして運営しています」と話してくれたのは、同館学芸員の折井貴恵さん。
タムラサトル展「100の白熱灯のための100のスイッチ#5」
作品に触れられるというコンセプトの同コーナーですが、昨年から新型コロナウイルス感染防止のため直接触れることができませんでした。しかし、現代作家・タムラサトルさんによる、現在の展示作品は、手で触れて楽しめるものとなっています。
タムラさんの作品の特徴は、電気を動力としていること、「装置」とよびたくなる構造であること。展示中の作品は、電球の配列どおりに並べられたスイッチを入れると、電球がつく仕組みになっています。入り切りしたときに喜びを感じてもらえるように、スイッチには少し重みのある「トグルスイッチ」が選ばれています。
「この作品は触れないと実感がわかないので、消毒液を置いて、スイッチに触る前とあとに、手指の消毒をしてもらうという対策の上で、触ってもらえるようにしました」と折井さん。作品に触って、楽しいと感じる自分の心と向き合ってみてほしいそうです。
同コーナーは年4回展示替えを行っています。観覧無料(常設展、特別展は有料)。
テーマに合わせて作品制作。小学生対象の「ジュニアアートスクエア」
同館では毎月1回、テーマに合わせた作品制作を体験できる、ジュニアアートスクエアを開催。毎月、季節や、展覧会に合わせたテーマのワークショップを実施しています。小学生対象、定員10名(抽選)、材料費別途。
8月は、タッチアートコーナー出品作家のタムラサトルさんが講師をつとめました。参加者ひとりひとりに、展示作品と同じ大きさの乳白色の電球を配布(展示作品は透明)。カラフルな針金、LEDライト、カラーペンなどで「顔」のパーツを制作するワークショップでした。
針金で髪の毛をつくる子、絵を描く子。たくさんの「顔」ができあがりました。完成した顔ランプは、タッチアートコーナーで、点灯式を行いました。
「美術館は、子どもを連れてきてはいけない場所だと思う人がいますが、全くそんなことはないので、どんどん連れてきて、いっしょに見てほしいです」と折井さんはいいます。
◆取材を終えて 8月のジュニアアートスクエアを見学させていただきました。思い思いの「顔」をつくる子どもたち。どの子も真剣に取り組んでいました。点灯式では、自分の電球がパッとつくのをうれしそうに見ていました。毎年市内の小学6年生が、美術館見学へ訪れるそうです。子どもの頃から美術作品に触れる機会があるのは、とてもすてきですね。 取材日:2021年8月24日 水越初菜