【子育て】意識したことありますか? こどもとの「いい距離感」

子育て家庭支援センター施設長
村野裕子さん

子育て家庭支援センター施設長
   
村野裕子さん

こどもは親の分身ではなく、一人の人格を持った個人

「こどもって、自分の分身みたい!」と感じることはありませんか?特に女性の場合、おなかの中で10カ月間、文字通り一心同体でいたわけですから、そう感じるのも仕方がないこと。

出産時の話をすると、どんなママにもさまざまなドラマがあり、大いに盛り上がります。それだけ出産というのは大きなイベントです。
だからこそ、勘違いすることがあるのです。わが子と自分は「一心同体だ」と。

もちろんこれは母親に限ったことではなく、父親にも起こりうること。
自分が苦手なことはわが子も苦手だろう、自分が好きなことはわが子も好きだろう、そんなふうに感じることもあるでしょう。
そして、こんなことはありませんか? わが子がほめられると自分がほめられたように感じてうれしくなり、わが子が叱られたり馬鹿にされたりすると、自分が悪かったかのように落ち込んだり…。

これらはすべて自分とこどもを“同一化”していることが原因です。
毎日一緒にいるわけですから、一心同体だと感じるのも当たり前。仕方のないことです。 そして多くの人は「本当は、自分とこどもは違う人格だ!」ということを、頭では分かっていることでしょう。

言うまでもないことですが、こどもは私たちの分身ではなく、一人の人格を持った個人です。親子ですから似ているところもあるでしょう。けれど、全く同じなんていうことは決してありえません。
子育てをするうえで、ここをしっかり認識してほしい!

どうして何回言っても分からないの? それは「こどもだから」

こどもとの毎日で「どうしてこの子はこんなことするのだろう?」「どうして何回言っても分からないのだろう?」とイライラすることはないですか?
すぐに理由が分かるとき、少し様子を見たら分かるとき、さまざまだけれど、もしどんなに考えても分からなかったら、その理由は一つ。「こどもだから」なのです。

こどもだから、言われたことをすぐに忘れてしまうし、同じことを繰り返してしまう。
こどもだからすぐ泣くし、すぐにかんしゃくを起こす。
わがままも言うし、自分勝手。それがこどもの本来の姿なのです。

試しにこんなこどもの姿を想像してみてください。
朝は自らパチッと爽快に目覚め、身支度をささっと整える。
TPOをわきまえていて、大人が静かにしていてほしい時には静かに一人で遊び、元気に走り回っていい場面では人一倍元気にハツラツと走り回る。
ご飯の前には自ら手を洗い着席し、好き嫌いなんて全く言わずにご飯を完食。
夜になったら歯磨きをしてすっと眠りに落ちる…そんなこどもがいたらそれこそ驚きです!

実際のこどもはその真逆の姿。それはすべて「こどもだから」という理由なのですね。

“自分とこどもは別の存在”+“こどもはこども”= 親子のいい距離感

「自分とこどもは別の存在」「“こどもはこども”と認識する」この2つをしっかりと胸に刻み込み、毎日子どもと接すると、こどもと「いい距離感」でいられます。

「いい距離感」というのは、どんなものでしょう?
それは、こどもの年齢によっても変わりますが、どの年齢でも共通なのは、親も子も、誰もが自分の意思を尊重される関係であること。

親と子が「いい距離感」でいることで、こどもにきちんと愛情を伝えつつも過干渉ではなく、こどもの意思を尊重しつつも放任ではない。そんな関係を築くことができますよ。

「いい距離感」を築くためには、大人がこどもに対して余計なことをしないことが大切です。
私たち親は、大切なこどもたちのためにと思い、多くのことをしています。楽しい毎日が送れるように、困ったことが起こらないように、そう考えてこどもに助言をしたり、こどもが自分の意志で何かをやろうとするのを止めることもあるでしょう。
しかしその繰り返しが、こどもが自ら伸びる力を奪ってしまうことも。

大人がすべきは、こどもが大人の思うとおりに動くよう誘導することではなく、こども自身がやりたいことを見守ることです。

いい距離感で親の気持ちを伝えるコツ「iメッセージ」

そうは言っても、こどもがやることは時に危険なことや社会のルールに反していることもありますよね。それでも黙って見守っていた方がいいのか? いいえ、それは違います。
こどもをやりたい放題にさせておくことと、こどもの意志を尊重して見守ることは全く別の話です。 そして親ですから、わが子に「こうなってほしい」と望むのも当たり前。

親の気持ちとこどもの言動にずれがある時、こどもの意思を尊重しつつ親の気持ちを伝えるために「iメッセージ」を使いましょう。
こどもの気持ちを一度受け止めたうえで、親の気持ちを、親自身を主語にして伝えます。

例えばこんな風に。
2歳を過ぎたころによく見られる「わたしがやる!」「ぼくがやる!」と、何でも自分でやりたい時期。
「やりたい!やりたい!」という割にきちんとできるわけでもなく、大人の手間を増やすことが多々あります。
たとえば食事。
「自分で食べたい!」「自分でコップで飲みたい!」そんな気持ちが出てきて大人に食べさせてもらうのを嫌がることがありますね。
もちろんそれは成長の証ですから、喜ばしいことですが、食べ物はグチャグチャ、飲み物はこぼす。こぼしたことに大泣きし、おかわりを要求。おかわりを渡すと再度こぼす…こんな時、みなさんはどうしますか?
程度にもよりますが、「見守る」のが難しい場面も多々あります。だって、どんなにぐちゃぐちゃになっても、たくさんの食べ物飲み物がこぼれても、それを片付けるのは大人の役目です。こんな時イライラするのもがっかりするのも当たり前。

そこで作戦を立てることをお勧めします。食事なら、本人に任せていいことと任せられないことを分ける。
例えば、ご飯なら小さいボール状のおにぎりを用意して、手づかみでOKにする。でも納豆ご飯は手づかみNG 。お水やお茶はコップで自分で飲んでもいいけれど牛乳はNG、など妥協できる点はどこなのか、大人側が決めます。
そして床には片づけが楽なようにレジャーシートを敷くなど、できる限りの工夫をし、この戦いに挑むのです!

けれど、こどもは大人が考える先へ先へと進んでいくので、どんなに作戦を立ててもうまくいかないことも。
そんなときは「あなたはこうしたかったのね」とやりたい気持ちを認めて受け止めつつも、「ママ(パパ)は、こんなにグチャグチャにされたらイヤなんだよ」「ママ(パパ)は、スプーンをこうやって使うとこぼさないで食べられると思うな」と、大人の気持ちをiメッセージで伝えましょう。
こどもの「やりたい」という気持ちは尊重されるけれど、何をしてもいいわけではありません。大人にもこどもにもそれぞれの気持ちがあり、それはどちらも尊重されます。
何でもやりたい時期は、少し面倒ではあるけれど、親と子のいい距離感を育むチャンスにもなりますよ!

iメッセージ 具体例

「自分で食べたい・飲みたい!」。しかし食べ物はグチャグチャ、飲み物はこぼす。こぼしたことに大泣きし、おかわりを要求。おかわりを渡すと再度こぼす。
こんな“修羅場”で、こどもの気持ちを一度受け止めたうえで、親の気持ちを、自分を主語にして伝えるiメッセージは…

親 :「あなたは自分で食べたかったのね」
こども :(大泣き)
親 :(こどもの自分でやりたい気持ちを受け止めつつも)
 「ママ(パパ)は、こんなにグチャグチャにされたらイヤなんだよ」
 「ママ(パパ)は、スプーンをこうやって使うとこぼさないで食べられると思うな」

iメッセージ 具体例

「自分で食べたい・飲みたい!」。しかし食べ物はグチャグチャ、飲み物はこぼす。こぼしたことに大泣きし、おかわりを要求。おかわりを渡すと再度こぼす。
こんな“修羅場”で、こどもの気持ちを一度受け止めたうえで、親の気持ちを、自分を主語にして伝えるiメッセージは…

親 :「あなたは自分で食べたかったのね」

こども :(大泣き)

親 :(こどもの自分でやりたい気持ちを受け止めつつも)
「ママ(パパ)は、こんなにグチャグチャにされたらイヤなんだよ」
「ママ(パパ)は、スプーンをこうやって使うとこぼさないで食べられると思うな」