働きやすい職場づくりを実践「プラチナ認定企業」
埼玉県では、仕事と家庭の両立を支援するため、多様な働き方実践企業の認定制度を設けています。
彩ニュースでは、3区分された認定ランクの中で最高位の「プラチナ認定企業」を取材し紹介します。
今回は「田部井建設株式会社」です。近年、同社は女性や若手の技術者が活躍していることで注目を集めています。熊谷市にある本社を訪ねました。
♯05 田部井建設株式会社
創業:1882年(明治15年)
業務内容 : 土木(河川や橋の修繕工事など)、建築(一般住宅や公共施設など)、不動産(土地や建物の売買・賃貸など)
特徴 : ノー残業デー(毎週水曜日)・バースデー休暇制度の導入、資格取得の費用負担、女性技術者の積極採用、男性社員への育児休業取得促進など
企業担当者にインタビュー
常務執行役員・土木事業部長 丸橋達雄さん
常務執行役員・土木事業部長 丸橋達雄さん
常務執行役員の丸橋達雄さんに、現在の職場環境や目指す方向について伺いました。(以下敬称略)
離職率が低い理由は、全社挙げての“面倒見の良さ”
――職場環境づくりや社員育成についての考えを教えてください。
丸橋 建設業界は、長く働き手が確保できない時代が続いてきました。夢を持って業界に入ってきても、「イメージと違った」「厳しい」などと言って辞めていく人が多いんです。建設会社の新入社員は5年で半分は辞めてしまうといわれていて、中には3人求人したいところ、あえて5人採用し、2人は辞めても仕方がないという考え方をしている会社もあります。
弊社は、入社してきたら徹底的に面倒を見るという方針です。自慢は、同業他社に比べ、離職率が非常に低く、5年で辞めてしまうような人がいないことです。
――具体的にどのような取り組みをしているのですか。
丸橋 高卒で入社した人には5年間、大卒の人には3年間、年4回の面談を続けています。朝食はちゃんと食べているか、夜はよく眠れているか、パワハラと感じることはないかなどいろいろ聞き、記録に残します。ですから、一人で悩んで辞めてしまうことはありません。
また、社内には、環境改善に向けた提案をする「スマイル委員会」が設けられています。10人ほどのメンバーは、若手社員が中心で男女が半々ですね。委員長が会社の役員会に出席して働きやすさにつながる提案をし、役員がその内容を検討します。「ノー残業デー」や「バースデー休暇」などは、スマイル委員会からの提案で実現しました。
――若い社員の意見を吸い上げているんですね。ほかにどのようなことをしていますか。
丸橋 男性社員が育児休業を取りやすいよう、出産予定日のころにちょうど工事が終わる現場を選んで本人を配属しています。工事が進んでいる途中では休みにくいでしょうからね。私も「決まりだから休めよ」と声を掛けるようにしています。これまで2人の男性社員が育児休業を取りました。
――工事現場での仕事の仕方も変わってきていますか。
丸橋 特に土木の現場ではデジタル化が進んでいます。弊社ではICT(情報通信技術)を活用していて、例えば、ブルドーザーに設計データを取り込めば、画面を見ながら楽に作業ができるようになりました。デジタル化によって危険な作業や力仕事も減ってきていますから、女性も活躍しやすいと思います。
――今後の抱負を教えてください。
丸橋 建築・土木の施工現場を案内する「現場見学会」や、インターンシップ(職業体験)を通して、若い人たちに弊社のことを知ってもらいたいですね。インターンシップでは、簡単な仕事を体験したり、職人さんと直接話したりすることもできます。これからも、しっかり面倒を見ながら次世代を担う人を育てていきたいと思います。
社員にインタビュー
技術者として働いている社員の方に、入社のきっかけや働きやすさなどを伺いました。
子育てと両立しながら、地元企業で技術者として活躍
子育てと両立しながら、地元企業で技術者として活躍
建築事業部工事部設計課主任・一級建築士 神山明子さん
建築事業部工事部設計課主任・一級建築士 神山明子さん
――こちらに入社するまで、どのような仕事をしていたのですか。
神山 工業高校と専門学校で建築を学んだ後、東京の会社でCADオペレーター(※)として働きながら、一級建築士の資格を取得しました。その後、結婚して関西へ移住。そこでは、介護住宅に何が必要なのか知りたくて訪問介護の仕事に就いたこともありましたが、10年くらいは子育て中心の生活で建築業界からは離れていました。
※コンピュータで図面を調整・製作する人
――入社のきっかけを教えてください。
神山 地元・熊谷に帰ってきて、自分が本当にやりたい仕事は何だろうと考えてみたら、やっぱり建築だったんです。好きな仕事をしている姿を子どもたちに見せたいという思いもありましたね。自宅から近いことと、子どものころから馴染みのある地元企業であることから、ここで働きたいと思い、7年ほど前に入社しました。それまで一級建築士の資格を生かして働いた経験がなかったので、ゼロから学ぼうという気持ちで仕事に向き合い、失敗しながらも少しずつ経験を積んできました。
――現在の仕事内容と、どのように子育てと両立しているのか教えてください。
神山 お客様との打ち合わせから設計、見積もり、そして設計図面通りに工事が進んでいるかを監理する「設計監理」まで一通り担当しています。お客様と相談しながら、またときには悩みながら進めた工事が無事完成して喜んでいただけると、私も喜びを感じます。
子育て中ということで会社に配慮していただき、小規模現場や個人住宅などを担当させてもらっています。小規模な工事では私が工程管理も担うので、子どもの予定なども考えて日程調整をすることで、問題なく両立ができていますね。
――とても良い環境ですね。ほかに働きやすいと感じることはありますか。
神山 毎週水曜日が「ノー残業デー」なので、みんなが意識をして声を掛け合い、早く帰るようにしていますね。コロナ禍でしばらく休止されていますが、当社の女性会長を中心に開かれる「女子会」は、部署の違う女性社員が集まって意見交換をする良い機会になっています。
――今後の抱負を教えてください。
神山 最近、建築事業部では一人1台タブレットが与えられ、遠隔にいても現場とやり取りができるようになり、さらに働きやすくなりました。私自身も、女性・男性問わず、働きやすい環境づくりのために何ができるのかを常に考え、実行していきたいと思います。
社内の支援制度を利用して、仕事に必要な資格や免許を取得
社内の支援制度を利用して、仕事に必要な資格や免許を取得
土木事業部土木部工事課・一級土木施工管理技士補 村田朱音(あかね)さん
土木事業部土木部工事課・一級土木施工管理技士補 村田朱音(あかね)さん
――土木の仕事に興味を持ったきっかけと、入社の決め手を教えてください。
村田 中学生のとき、高校説明会でたまたま工業高校の土木科について知り、「人の生活に直結するインフラを整える仕事はかっこいい」と思ったのがきっかけです。それまで普通科志望でしたが、進路変更して工業高校に入学しました。
私が入社したのは5年前、高校を卒業してすぐです。高校在学中に「現場見学会」に参加したときの印象がとても良かったこともありますが、洪水を防ぐための河川の工事を多く手掛けている会社なので、ここなら自分のやりたかった、人の生活を守る仕事ができると思いました。
――今、どのような仕事をしているのですか。
村田 3年ほど前の台風19号で氾濫した河川に堤防を造っています。私が担当しているのは、測量と、発注元の国土交通省の担当者が出来形(工事の出来上がった部分)を確認する際の資料づくりなどです。間違うと工事に大きな影響が出るので、今でも測量をするときは緊張します。
河川の近くに住んでいる方が通り掛かりに「工事してくれるのね。台風のときは怖かったから」などと話し掛けてくれたりすると、この工事に携われて良かったと思いますね。
――昨年、資格を取得したと聞きました。御社は資格取得のためのサポートが充実しているそうですね。
村田 資格取得に必要な費用は、すべて会社が負担してくれます。私は、一級土木施工管理技士補(※)の資格を取るために教材を買って勉強しましたが、その代金も負担してもらいました。予備校に通う場合も同じで、自分で授業料を出す必要はないです。そして資格を取得したら、資格手当として給料に上乗せされるので、とても良い制度だと思います。
※施工の技術管理を担う「監理技術者」の補佐ができる資格
――このほか、どんなときに働きやすさを感じますか。
村田 誕生月の前後1カ月のどこかで1日休みをもらえる「バースデー休暇」がうれしいです。必ず休みを取るよう周知されるので、遠慮なく休めます。
社員はベテランの方を含めて一人一人に壁がなく、とてもフレンドリーなのでコミュニケーションが取りやすいです。若い人にとっても働きやすい会社だと思います。
――今後の目標を教えてください。
村田 先輩方と一緒に働いていると学ぶことがたくさんあります。発注元の方からの提案を想定し、先回りして準備する先輩もいます。そうした先輩のみなさんを見習い、目標にして仕事をしていきたいです。
●田部井建設株式会社
住所 埼玉県熊谷市上根102
電話 048-588-1551
取材を通して
田部井建設株式会社は、2022年に創業140年を迎えた歴史ある企業です。時代に合わせて社内制度を整えるなどし、2020年には、男女共同参画を進める事業所等に贈られる「第15回さいたま輝き荻野吟子賞(いきいき職場部門)」を受賞しました。
企業が人を大切にして、働き方改革を積極的に進めれば、言うまでもなく、社員一人一人に大きなメリットをもたらします。さらに同社の場合は、建築事業部による学校等の建築、土木事業部による橋の修繕や堤防の強化といった公的な仕事を担う企業として、外部からの信頼を得ることにもつながっているようです。まさに“一石二鳥”です。
今回、インタビューをさせていただいたのは3名ですが、ほかにも快く写真撮影に加わってくださったり、本社から工事現場まで取材者を送迎してくださったりと、多くの社員の方にお世話になりました。その雰囲気の良さは、やはり働きやすい職場環境から生まれるものではないかなと感じました。
取材日:2022年3月15日
矢崎真弓