【川越】埼玉県初のクラフトジン「棘玉」~川越の里山ボタニカルを味わう

世界的にも日本でもブームになっているクラフトジン。産地特有の原料や製法で風味や味わいが異なり、さまざまなおいしさが楽しめるのが人気の理由の一つです。
今回紹介するのは、川越や埼玉県産の原料を使用した埼玉県初のクラフトジン「棘玉(とげだま)」。
スピリッツコンペティションの中でも最高峰と言われる「IWSC(インターナショナルワインアンドスピリッツコンペティション)」「SFWSC(サンフランシスコワインアンドスピリッツコンペティション)」で、ともに金賞を受賞するなど、国内だけでなく、世界的にも高く評価されています。

クラフトジン棘玉には川越産の緑茶や山椒、地下水などを使用。川越の里山の恵みが味わえます
クラフトジン棘玉には川越産の緑茶や山椒(さんしょう)、地下水などを使用。川越の里山の恵みが味わえます

ジンとは、ハーブや薬草などのさわやかな風味が特徴の蒸留酒。ジュニパーベリー(針葉樹セイヨウネズの果実)を主体に、コリアンダーや果皮などのボタニカル(植物成分)で香りづけしたものが一般的です。
「棘玉」はジュニパーベリーの他、越生産ユズ、川越産の緑茶や山椒などを使用。純日本製の蒸留機を使い、独自の抽出方法で製造しています。

製造者である川越の老舗酒店、株式会社マツザキ(1887年・明治20年創業)専務取締役、松崎裕大さんにお話をうかがいました。

製造者である川越の酒店、株式会社マツザキ(明治20年創業)の松崎裕大専務。クラフトジンを蒸留する武蔵野蒸留所は2019年に本店敷地内に建設
松崎さん。クラフトジンを蒸留する武蔵野蒸留所は2019年に中福本店敷地内に建設

先祖代々の敷地をきれいにしたことがきっかけ

クラフトジンづくりのきっかけは10年ほど前、先祖代々受け継いできた敷地(同社中福本店裏)をきれいに片付け始めたことだそう。当時は胸ほどの高さまで草木が生い茂り、不法投棄された家電なども散乱していたとか。
「ふと思い立って敷地をきれいにしたら、とても気持ち良い空間がありました。この場所はきっと何かにつながる!という予感と期待が膨らみ、もっとみんなに知ってもらいたいという思いから、さまざまな構想が生まれました。その一つがクラフトジンづくりです」

将来は自社栽培したボタニカルだけで純川越産ジンを作りたい

もともとジン好きだった松崎さんと父・敦雄さん(同社社長)は、ジンの主原料であるジュニパーベリーの植樹に挑戦。うまく育ったため植樹を増やし、今では100~200本ほどが植えてられているそう。
「ジュニパーベリーの栽培は国内ではまだ少ないんです。木は育ちがゆっくりで時間はかかりますが、ゆくゆくはジュニパーベリーをはじめ自社栽培した原材料だけを使った“純川越産ジン”を作りたいです」

敷地には、お茶、山椒、ユズなどさまざまな植物があり、松崎さんのジンづくりの刺激にもなっています。
「ジンを作り始めてから、さまざまな草木が気になるようになりました。これも今度、蒸留してみようと思ってます」。
散策しながら植物の枝葉を折っては香りをかぎ、ジンの原料にしたらどうかと楽しそうに思いを巡らせます。

植樹して5年ほどのジュニパーベリーの木(左)とアルコールに漬けこんだ後のジュニパーベリーの実
植樹後5年ほどのジュニパーベリーの木(左)とアルコールに漬けこんだ後のジュニパーベリーの実

昔ながらの武蔵野の風景を守っていきたい

中福本店の裏手は自然の散策路として開放しており、誰でも散歩することができます。新緑や紅葉など季節の景色が楽しめ、富士山もきれいに見えるといいます。
「この辺りは昔ながらの武蔵野の風景が多く残っています。このような景色が見られる場所はもう少ない。それならここを守っていこう、そして子どもたちのために使えたらいいなと、敷地を掃除していくうちに考えるようになりました」
社員、地域の人と一緒に集めた落ち葉で作った腐葉土は、保育園の子どもたち向けの野菜作りにも使われています。カブトムシやキジなども生息しており、子どもたちのあそびや学びの場にもなっているそう。
敷地をきれいにしたことにより、落ち葉を掃きに来てくれるボランティアや地域の人の協力も増え、近くを流れる不老川の整備にもつながるなど、多方面に波及効果を生んでいる活動は、松崎さんの働くモチベーションになっているといいます。

◆取材を終えて

酒造りや販売など酒店としての仕事の一方で、広い分野に興味を持ち、社会課題への取り組みなど、広い視点で活動をされている松崎さん。「実は慎重派なんです」と言いながら、お酒を飲みつつアイデアをノートに書き出していると教えてくれました。その数1000~2000個。そこから少しずつできることを実践しているといいます。
4月には浦和パルコに新店舗をオープンしたばかり。埼玉県内の人にももっと知ってもらいたいと活動の場を広げています。

取材日:2022年2月25日
小林聡美