火専門のアウトドアショップと銘打ち、たき火空間の魅力を提案している店があります。その名も「火とアウトドアの専門店 iLbf(イルビフ)」。店名のiLbfは、「I Love the bonfire(たき火)」の頭文字です。なぜ火の専門店なのでしょう。そこにはオーナーである堀之内健一朗さんが自分の生き方を見つめたときに、火・炎が人間らしさや自分らしさを思い出させてくれた体験があるといいます。
< 堀之内さんの働く意識>
● チャレンジへのアプローチ
・ 自分を知る。
・「つらいこともやれば乗り越えられる」とは限らない。時に逃げることも必要。逃げは恥ではない。
・「自分にストレスのない選択」も一つの方法。
● はじめの一歩を踏み出すには
・ 思い切って一歩踏み出すことも大事。
・ 走りながら考える、走りながらやってみることも一つの手。
● 仕事を続けていくには
・ 自分だけでなく周りの人の幸せも考える。
幼いころを思い出し、火に懐かしさや癒やしを感じた
以前はシステムエンジニアとして会社務めをしていた堀之内さん。ぼろぼろになるまで働いていたそう。退職し、心身を休める1年間を経て、「自分には何ができるんだろう」と考えながら、いろいろなことをしたといいます。
堀之内さんは趣味のパラグライダーのためにキャンプをすることもしばしば。自然の中で過ごすことによって、心を無にして自分と向き合うことができ、心が落ち着く空間を見つけられたと教えてくれました。
「キャンプで火をつける瞬間、ふと幼いころを思い出したんです。なんだか落ち着くというか懐かしい感覚でした」
宮崎県で暮らしていた幼いころ、薪(まき)をたいて五右衛門風呂に入っていた原体験を思い出し、癒やされる感覚がよみがえったことで、火の専門店の構想が始まったそうです。
しかし「火の店と言っても夏はどうするのか」など、さまざまな葛藤をすること2年。候補テナントが埋まりそうになったことに後押しされ、「走りながらやっていこう」と決め、開店に踏み切りました。今ではたき火体験ができる「BfLabo(ビフラボ)」やランプを集めたカフェスペースを併設するまでに拡大しました。
火をきっかけに、ひとりの空間を作る。火を見つめ、自分と向き合う
火はとても奥が深いと語る堀之内さん。
「人間は火によってさまざまなものが食べられるようになり、暖をとる、明かりをともす、獣から身を守ることにも使うようになりました。火を見つめていると、人間の原点を感じるというか、自分の人間らしさを思い出させてくれるんです」
炎と向き合いながらウイスキーを飲むのが好きという堀之内さん。「炎と向き合っているとき、自分の内面と向き合うことができる、リセットできる」と言います。
火を育て、たき火空間を体験してみよう
火の扱いに慣れていない人、初めての人は、キャンプ場など管理された場所できちんとした道具を借りてやってみるのがいいそう。
「マッチ棒1本から火を育てていくと愛着がわくんです。火はやり方によって大きくも小さくもなります。自分で育てた火で沸かした湯で作るカップラーメンは本当においしいんですよ」
もっと気軽に炎の癒やしを感じたい人にはランプやキャンドルがおすすめ。
「3カ月に1回でも、電気を消して、明かり一つで夜を過ごしてみるといろいろな気づきがあると思います。防災訓練にもなるので、災害時や停電時も慌てずに過ごせますよ」
乗り越えた先に見つけた喜び。人の幸せも自分の幸せになる
「かつては対人恐怖症にまで陥り、どうやって生きていったらいいかわからなくなりましたが、今は自分が構想したことが社会に受け入れられたと感じられることがうれしい。利益を出すことより、自分が提案した商品を使って喜ぶお客さんの顔を見るのが幸せ」という堀之内さん。
最後に「今の自分が好き」と話してくれました。
◎注意事項
・火を扱う際、たき火を行う際は、火気の使用が許可されている場所で、機器の使用法をしっかりとご確認の上、十分に注意しながら行ってください。
・必ず最後に、火が十分に消火されたことを確認し、ルールに沿って火の後始末を行うようにお願いします。
取材を終えて
平日にもかかわらず店にはアウトドアグッズを見に来る人が多数。みなさん滞在時間が長く、スタッフや堀之内さんに相談する様子が見られました。キャンプブームの昨今、アウトドアを始めたいがどうやっていいかわからない人やブランクがある人の来店も多いといいます。「ここを手掛かりに始めたり、再開のきっかけになれたらいい」と語る堀之内さん。今後は「安全かつしっかりとした知識の上で、たき火を体験することができる機会を増やしていきたい」といろいろな計画を進めているそうです。
一人になりたいときこそ、SNSなどから離れて、炎を見つめる空間に身を置いてみるのはいかがでしょうか。
取材日:2022年5月25日
小林聡美