【挑戦者たち】源左衛門農場~マルチワークを経て見えた自分らしい働き方

川口市にある「源左衛門農場」は、トマト、ブルーベリー、栗など、作物や切り花の栽培から販売までを手掛けています。看板商品であるトマト「大安吉日」には連日行列ができています。
営むのは、早舩(はやふね)源一郎さん、土屋きようかさん夫婦。「好奇心旺盛でいろいろと学ぶのが好き」という二人は、語学やグラフィックデザインなどの仕事も手掛ける多才なマルチプレイヤーです。今は農業をメインに働く二人に話をうかがいました。

英語、フランス語、スペイン語と語学が得意な源一郎さんと、グラフィックデザインなどを手掛けるきようかさん夫妻
英語、フランス語、スペイン語と語学が得意な源一郎さんと、グラフィックデザインや庭の設計などを手掛けるきようかさん

<源一郎さん・きようかさんの働く意識>

 チャレンジへのアプローチ
・リアルな実体験から「直感」を養う
・何をしていいかわからなくなったら、子ども時代を思い出すとヒントになる

 はじめの一歩を踏み出すには
・考えすぎないこと。考えを手放したときに見えてくるものがある

 仕事を続けていくには
・やりたいこと、やらなければいけないことに200%で取り組む
・流れに身を任せる。ものごとは自然と取捨選択されていく

自分の好きなことに気づき、自然と農業に意識が向いた

 源一郎さんの実家は植木農家やブドウ園を営んでいたそうですが、源一郎さん自身は農業には関心がなかったそう。
「農家の長男であることに反発心もあったんですよね。農業とかけ離れた仕事を求めていたように思います」国内外で語学を学び、大手百貨店に就職。しかし、都会で人と接する仕事をするうちに「これは自分の好きなことじゃないかも。人より虫や鳥の方が好きだ」と気づいたとか。
農業への興味が芽生えた源一郎さんは百貨店を退職。ビニールハウスを手放すという人から声をかけられ、トマト栽培を始めます。

人気のトマトト「大安吉日」は12月~5月の販売
トマト「大安吉日」は12月~5月の販売。トマトをモチーフにした農場ロゴはきようかさんのデザイン

「トマトは育て方次第で味に個性が出しやすく、おもしろい野菜だと思ったことも、栽培を始めた理由の一つです」
独学でいろいろな知識や技術を身に付けるのが好きだという源一郎さんは、ハイポニカ農法(※)に挑戦。実はトマトを食べるのはあまり得意ではないそうですが、看板商品のトマトは大好評です。
「作物を観察しながら、いろいろな手法を試します。実験みたいでおもしろいですよ。こういう働き方が自分に合っているみたいです」
そしてロゴのデザインを依頼した縁で、きようかさんと出会ったそうです。

※ハイポニカ農法=水耕栽培の一つで、植物の根に十分な酸素と栄養分を与えて生産性をあげる農法。

いろいろな規格のトマトがあります
いろいろな規格のトマトがあるため、好みや用途に合わせて選べると好評

当初は無人販売機での販売と農協への出荷だけでしたが、廃棄トマトをどうにかしたいと店を構えたのが3年前。
きようかさんのアイデアも出店を後押ししました。植木農家をしていた源一郎さんの実家にはたくさんの花木が植えられています。それを生かしたいと考えたのです。
今では、流通にあがりにくい花も多く扱っているとファンも増えているそうです。自家栽培している植物なので花もちがいいのも理由の一つです。

右の写真は季節の切り花が並ぶ店内。左は「待つ間少しでも楽しんでもらえるように」と、きようかさんが設計した店の庭
「待つ間少しでも楽しんでもらえるように」と、きようかさんが設計した庭。店内には季節の切り花が並びます

マルチワーカーを経て見えてきた自分の方向性「今は農業をやりたい」

農業の他に翻訳や学習支援をしていた源一郎さん。きようかさんはグラフィックデザインから庭の設計、フラワーデザインまで行います。二人とも複数の仕事を手掛けてきましたが、今は農業と店に集約されてきたといいます。
「自分に合う仕事を探すために、いろいろなことに挑戦したからこそ見えてきた」というきようかさん。「若いころはやりたいことが多くて選べなかったけど、やっと自分のやりたいことが絞られてきた感じ」。
源一郎さんも「他の仕事を完全に辞めるわけではなく、やりたいときにまたやろうと思っています。今は農業をしたい」と話してくれました。

身を持って経験してこそ、直感が育つ。自分なりの感覚を養うことが大事

自分なりの答えに行きつくには「直感を養うこと」と答えてくれた二人。
「直感は日々の経験から自然に育っていくものだと思うので、経験して失敗して自分なりの感覚を養うことが大事です。あれこれ考えて前に進めなくなるより、何かに一生懸命打ち込むことのほうが断然効果的!」と教えてくれました。

取材を終えて

「思考パターンはまったく違うけど、たどり着くゴールが一緒」というお二人。大きな好奇心と、それを満たす行動力が武器となり、マルチな活躍につながっているように思います。二人だからこそ生まれる化学反応を見た気がする取材でした。
(同店の販売品はシーズンにより変わります)

取材日:2022年5月30日
小林聡美