大宮駅から徒歩7~8分程、氷川神社の参道に向かう一の宮通りに店を構える「サクラモヒラ」。バングラデシュで手織りされた「カディ」という綿布を使用した服や刺しゅうグッズなどを扱っています。
カディコットンは肌触りがやわらかく着心地がいいのが特徴。吸湿性や速乾性にも優れているので、暑い季節にも快適に着用できそうです。
店主の平間保枝さんに、バングラデシュとのつながりとカディコットンの魅力を聞きました。
<平間さんの働く意識>
● チャレンジへのアプローチ
・めぐってきた縁や機会を受け取ってみる
● はじめの一歩を踏み出すには
・まずは自分の目で見て、感じてみること。その実感が次に進む道を見せてくれる
● 仕事を続けていくには
・国籍や環境が違っても同じ人間。「してあげる」という意識ではなく、対等な関係を築くことが大事
・基本姿勢は変えないが、社会と共にアップデートしていくことは必要
肌触りがやさしいカディコットン
「カディコットンは手で紡いだ糸を手織りした布です。糸の間に空間ができ、空気をはらむので、着ていると心地よく感じます。皮膚が呼吸できる感じがします」という平間さん。「かゆくなりにくい」と、カディコットンを下着や肌着に使うアトピーの人もいるそうです。
「カディは『インド独立の父』ガンディーとも深い関わりがあります。バングラデシュは当時インドの一部でした。イギリス植民地だったインドは、イギリス製の機械製布を買わされていました。それに対する抵抗とインド人の自立を促すために、ガンディーはカディの手織りを推奨。自らも制作していたそうです」
貧困から抜け出すために~女性の自立支援プロジェクト
平間さんがバングラデシュと関わるようになったきっかけは、元駐日バングラデシュ大使ハクさんとの出会いでした。大学などで英語教師をしていた平間さんは、ハクさんと気が合い、家族ぐるみで仲良くしていたそう。「ぜひバングラデシュを見に来てほしい」と何度も熱心に誘われ、バングラデシュのある村を訪問し、村の小学校建設の支援をするようになったそうです。
学校建設が終わり、再度村を訪れた平間さんは、貧困から抜け出せない女性や手織り職人たちを目にしました。当時、アジアの最貧国と言われることもあったバングラデシュでは、生まれた家が貧しければ教育を受けられず、一生そこから抜け出すことができない人がほとんどだという事実に驚きます。
平間さんは、現地の女性たちが自立して生きていけるようにするには、教育と意識改革が必要だと感じたといいます。
「村の手織り職人も教育を受けてないため字が読めませんでした。手仕事は手間がかかるうえに、より向上させようという考え方があまりなかったのです。服に仕立てると違う服の袖を左右に付けることもありました」。
これでは貧困から抜け出すこともできず、社会の変化に対応できないと考えた平間さんは、文字を教える人を村に派遣したり、“売り物になる手織り”教育という形での支援を始めました。
「はじめは自分で稼いだお金を支援に回していましたが、それでは続かないと気づきました。お金を稼いで生きていく術(すべ)を“自分で考える”ことから教えなければいけない。技術や知識の必要性を何度も説明するものの、理解してもらえず、こちらも彼女たちの考えを理解できず、何度もぶつかりましたが、やっと日本で売れるレベルにすることが出来ました。彼女たちの文化や考え、ペースを守りつつ、互いに一人の人間として対等な関係が築けたのが大きかったと思います」。
平間さんはたくさんの挑戦と失敗を繰り返して、寄付や援助に頼らない、自走できる仕組みを作ったのです。
人生の中で今が一番意思を持って強く生きている
半ば強引に引き込まれた学校建設から始まったバングラデシュの村の人との関係。「ことわり切れずに始めた道でしたが、自分の人生に意義を与えてくれたと感じています。お金はないけど教師をしていた時より楽しいんです」
バングラデシュに関わって30年、汗と涙を流して築いたものに勝るものはないと気がついたという平間さん。「意思を持って育てたものがある。これは自分が生きてきた証しです。生きた手ごたえを得ることができたと感じるんです。内気で泣いてばかりの子どもだった私ですが、人生の中で今が一番意志を持って生きています」と語ってくれました。
取材を終えて
同店でカディコットンのワイドパンツを購入しましたが、肌触りのよさに驚きました。酷暑でも風通しよく快適なので愛用しています。
平間さんは9月4日~12日(2022年)にバングラデシュを訪問予定で、店舗の営業は9月14日から再開するそうです。同店では、東インド会社と紅茶など、歴史や文化に関するお話会や、近隣店舗と合同で「ご近所さんマーケット」なども開催しています。
取材日:2022年7月19日
小林聡美