【挑戦者たち】おやつ工房ひびのや 「好き」を仕事に

東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)「大袋駅」西口から徒歩8分、住宅地の一画に「おやつ工房ひびのや」があります。マフィン、タルト、スコーン、天然酵母パン、ビスコッティなどが並ぶ同店には、近所の人々や常連客など多くの人が訪れています。
店主は渡邊裕子(わたなべゆうこ)さん。子どもが自立して自宅の一室があいたことと仕事を変えるタイミングが重なり、「今だ!」と開店を決意。自分のやりたかったことへ一歩を踏み出し、4年前に店をスタートさせました。

店主の渡邊さん。訪れる人を優しい笑顔で迎えます

  <渡邊さんの働く意識>

 チャレンジへのアプローチ
・「やってみたい」や「好き」を見つけたら挑戦してみる。

 はじめの一歩を踏み出すには
・タイミングを逃さない。
・ 「やれそう」と、どこかで思ったらやってみる。
・ やりたいことをまわりに宣言する。

 仕事を続けていくには
・「好き」だけでは続けられない。大変なことがあっても乗り越えていく覚悟と強い気持ちが必要。

 妊娠を機に安心して食べられるお菓子作りをスタート

ものづくりや食べることが好きだという渡邊さん。靴のデザインやベーカリーの仕事を経て結婚。早朝勤務が常のベーカリーは辞め、その後、妊娠。
「それまでは気にならなかったのですが、妊娠中にお菓子のパッケージ裏によくわからない添加物が並んでいるのを見て気分が悪くなってしまったんです。以来、人工的なものを苦手に感じるようになりました。自分で作れば何が入っているかわかるし、子どもにも安心なものを食べさせたいと思い、手作りお菓子を始めました」
同店では、あんパンのあんこ、クリームパンのクリーム、パンに使う酵母も自家製です。

マフィンは素朴な甘さと味わいで、ボリュームはあってもぺろりと食べられます

ずっと自分で商売をしたいと思っていた。「今だ」と思ったらじっとしていられなかった

「何をするかは決めてはいなかったものの、もともと自分で商売をしたいと思っていました」
子育てをしながら働き、家ではお菓子作りを続けていた渡邊さん。自分にできることはなにか考えたら、お菓子作りだったといいます。
少しずつ貯めていた資金でなんとか店ができそうだと思ったとき、やりたいという気持ちが渡邊さんを突き動かします。
「自宅の改装や機器購入などの初期投資がかかるので、失敗したらどうしようという不安もありました。ただ、一歩踏み出せない人はずっとやれないとも思うんです。やれそう、やりたいと思ったらじっとしていられませんでした」
子どもの保育園時代から、いつか商売をやりたいと少しずつ夫に伝えていたという渡邊さん。おかげで、はじめは「できるの?」という反応だった夫も次第に態度が変わり、店を始めると伝えた時はスムーズに受け入れてもらえたといいます。

「好き」を仕事にするとは

始めは順調だったものの、3カ月もすると客数は少なくなっていったそう。さあどうしようか。予想はしていたので冷静に策を考えた渡邊さんは、ハンドメイド友達に声をかけて店でイベントを開催。集客につなげることができたといいます。
「商売は長く続けていくことが大事です。それには利益を出していかなければなりません。いい時もあれば悪い時もあり、天候が悪ければ多く売れ残ってしまう時もある。好きなことを自由にやるのとは違い、大変なことがあっても乗り越えていける気持ちの強さや覚悟が必要です」
ただ、「好き」のパワーはそれ以上に大事だという渡邊さん。
「必ずもうかるよと言われても、自分が好きじゃなければやりません。好きで地道にやれば、店を持つことができたり、仕事にすることができます。それで少しずつでも収入が増えればうれしい。何より、おいしかったと言ってもらえることがうれしいです」

マフィンやパンの焼けるいい香りが漂う店内。今はユズで起こした天然酵母のパンが並びます

取材を終えて

おばあちゃんになっても週に1回でも店を開いて、死ぬまで働いていたいという渡邊さん。他にも、これからやりたいことをたくさん教えてくださいました。好きなことが持つポジティブなパワーや原動力はやっぱり大事だなと強く感じた取材でした。
取材時も近所からたくさんの人が来店し、午後も早くに売り切れてしまう人気ぶり。リピーターも多く、渡邊さんと話しながらお気に入りのパンを予約して帰る人も少なくありませんでした。同店のパンやお菓子のやさしい味わいが地域の人たちに愛される理由がわかった気がしました。

取材日:2021年1月17日
小林聡美