同じものでも見え方が変わる

“平成の大修理”を終えた世界遺産「日光東照宮」。さらに国宝陽明門の手直し工事も終わったというニュースを見て、ふらりと日光へ1泊の旅に出かけました。日光を訪れたのは、小学6年生の修学旅行と、30代の家族旅行の2回。今回が3回目でした。

小学生のときは建物の大きさときらびやかさに圧倒されました。
2回目のとき印象的だったのは、家康が眠るとされる奥宮です。杉木立の中、長い石段を奥へ奥へと進みました。そこは江戸時代、歴代の徳川将軍しか立ち入ることができなかったそうで、神聖な空気に包まれていました。

そして今回50代。大修理を経て、美しい色彩がよみがえった東照宮を見て、むしろすがすがしさを感じました。「眠り猫」など、あらゆるところに配された動物や人物の彫刻を見ていると、「もう二度と乱世に戻ってほしくない」という当時の人々の切実な思いが、胸にすとんと落ちてきました。

ところで今回発見だったのが、三猿「見ざる・聞かざる・言わざる」です。3匹の猿がそれぞれ、目・耳・口を両手で覆っているユーモラスな姿はよく知られていますよね。
私は三猿を、人の失敗や欠点などを見たり聞いたり人に話したりしない方が、人間づきあいが円滑にいく、という処世術を教えているのだと思っていました。

ところが今回は三猿のそばに説明書きがあるのに気付きました。そこには「幼いうちは、純真で周囲の影響を受けやすい。だからこの時期は良いものだけを与えよ。この時期に良いものを身につけておけば、悪いものにふれても正しい判断ができる」といった内容が書かれていたのです。当時の人々が“子育ての教え”を次世代のためにここにのこしたのでしょう。私の解釈は違っていたようです。

それにしても、同じところを訪れたとしても、こちらの心のありようや状況が変化しているので、見え方や気づくことが変わるものなのですね。
きっと日々の生活の中でも同じでしょう。見慣れたものであっても、視点を変えると新しい景色に見える。そう思うと、これからどんな景色が見えてくるのか、楽しみに思えてきます。

2023年3月
彩ニュース編集部