日本中どこの地域であっても公立学校に通った人なら、必ず味わった“給食”。子どものころの思い出の一つに、その場面が刻まれている人も多いのではないでしょうか。
「公益財団法人埼玉県学校給食会」は、埼玉県全域への学校給食用食材の提供・開発、食育推進などを行っている団体。事業の一環として、2010年にオープンさせたのが、「学校給食歴史館」です。埼玉県に限らず、全国的な学校給食の移り変わりをパネルや料理模型などで紹介している施設で、誰でも無料で見学することができます。
館長の中島勝男さんと、職員の正能(しょうのう)稔久さんに、館内を案内していただきました。
過去のメニューを模型で再現
入館してすぐ目に入るのは「学校給食発祥の地」の説明文です。山形県鶴岡市にあるという記念碑のレプリカも展示されています。
「学校給食の始まりは、鶴岡市のお寺の中にあった学校で、おにぎりと塩鮭を無料で提供したことだとされています。現地へ行って許可を取り、レプリカを作らせてもらいました。当初、学校給食は地域の人による慈善事業だったんですね。国が関わるようになったのは、大正時代に入ってからです」と中島さんが説明してくれました。
館内には、過去から現在までの学校給食の料理模型などがずらりと並んでいます。戦後、アメリカから脱脂粉乳や小麦粉が提供されたことや、当時米の値段が高かったこともあって、長くパンが主食となっていたそうです。
「昭和 40 年代には、学校給食に“ソフト麺”が登場します。ソフト麺は、パンに使っ ていた小麦粉で作られていて、一度蒸し上げてからゆでています。そうすることで、時間が経っても歯応えが残るんです」と中島さん。
写真コーナーや埼玉県に特化したコーナーも
正能さんは「子どもたちの学習の場になればという狙いもあって作った施設ですが、年配の方のご来館も多いです。『これ、食べたよね!』『懐かしい!』と言って、盛り上がっていらっしゃいますね」と話します。
年配の人たちには、給食風景の写真が年代順に展示されているコーナーも人気があるようです。
埼玉県では、例年、新たな学校給食のメニューを提案する「学校給食調理コンクール」を開催。館内には、同コンクールで優良作品となった献立の模型も展示されています。
学校給食用食材の調達も担う埼玉県学校給食会では、地場産物を積極的に取り入れています。現在、米、うどん用の小麦粉、納豆用の大豆は埼玉県産100%とのこと。また、埼玉・熊谷市が開催都市の一つとなった「ラグビーワールドカップ2019」が開かれた際には、応援の雰囲気を盛り上げようと、大会にちなんだ給食用食材を企画しました。
中島さんは「当館は、全国的に見ても珍しい施設だと思います。ただ収蔵品が少なく、展示品を入れ替えたり、企画展を開いたりすることができないので、どこかで眠っている給食関連の道具などがあればご提供いただけるとありがたいですね」と話します。
夏休みを迎え、これから来館者が増える時期。
「見て回るのも、撮影も自由にしていただけます。説明が必要な場合は、職員が対応しますので気軽に声をかけてもらえればと思います」と正能さん。休館日は、土・日曜日、祝日、8月13日~15日、年末年始です。
◆取材を終えて 限られた予算の中で作られている、栄養とおいしさを備えた学校給食。歴史を知ると、食材が豊富ではなかった時代から、工夫と努力が続けられてきたことがよく分かります。そして「学校給食」は、年代を越えて共通の話題になるワードだということにも気づきました。年齢差のある人と学校給食歴史館を訪れてみると、より楽しめそうです。 取材日:2023年6月29日 矢崎真弓