和紙のふるさととして知られる小川町。「吉田家住宅」は、享保6(1721)年以前に建てられた、実年代のわかる埼玉県内最古の民家です。平成元(1988)年に、国の重要文化財に指定されました。
国指定重要文化財認定を受ける数年前、同住宅のご主人・吉田辰己さんは、わらぶき屋根などの維持が大変という理由で、同住宅を建て替えることにしました。当時、業者との話し合いのなかで、「この家は築300年くらいかな」とポロッと言ったことが、国の古民家調査のきっかけとなりました。
同住宅は、わらぶき屋根の上にトタンを乗せて、民家として使用していたため、これまで調査に入ることがありませんでした。トタンのおかげで雨もりせず、わらぶき屋根の状態が良かったのだそうです。
調査時、柱のひとつから、「享保六丑歳霜月吉祥月」と記された御祈祷札が発見されました。
「家のために“火”を入れられてよかった」
いろりの前で、サービスの自家製ビワ茶をいただきながら、家主の吉田辰己さん・千津代さん夫妻に話を聞きました。
「古民家は、火を燃やしていないとカビ臭くて入っていられないのよ。煙が家屋の虫を退治しながら、湿気と臭いを取り除いてくれるのよ」と千津代さん。
かつては、文化財の中で火を使用することはできませんでしたが、すでに生活していて、常に火の管理ができるならば使用しても良いと、国から許可を得たそうです。
火を入れられたのが一番の功績だと千津代さんはいいます。火の番をしながら、同住宅を訪れる人との交流を楽しんでいるようです。
平成11年に開館の同住宅。住宅見学のほか、食事もできます。天ぷら500円、そば700円など。天ぷらの野菜は無農薬。上新粉を使った昔ながらのだんご(1本100円)は、いろりで、食べる人が自分で焼きます。当時流行していた童謡「だんご3兄弟」をヒントに、3つのだんごを串に刺して出したところ好評だったそうです。
同家は、教室や会議、接待場所、結婚式会場としても利用できます。ドラマの撮影現場になったこともありました。「せっかく古民家を残したのだから、見にきてほしいです」と千津代さん。
◆取材を終えて 大きないろりを囲んで、ご夫妻にたくさんのお話を聞かせていただきました。優しくあたたかな雰囲気の「吉田家住宅」。季節感にもこだわっているということなので、季節ごとに訪れたいと思います。 取材日:2021年9月25日 水越初菜