【熊谷】全国から注目される仕組み~移動式子ども食堂「あい♡だいな~」

2012年に東京で始まったとされる「子ども食堂」。今や日本各地に数多く存在していますが、利用対象者や提供メニュー、料金などはそれぞれ異なります。主催者の考え方や工夫によって、さまざまな形態があるのが、子ども食堂の特徴の一つのようです。

熊谷市を拠点とする「移動式子ども食堂 あい♡だいな~」には、いくつものアイデアが生かされています。主宰しているのは、貧困対策に取り組む「NPO法人あいだ」。副代表の奥野大地さんに、子ども食堂を始めたきっかけや内容などを伺いました。

臨床心理士として医療機関にも勤務している奥野さん

 キッチンカーでプロが作った料理を提供

同法人は、2019年より、なんらかの事情で親と暮らせない子どもたちの生活の場「自立援助ホーム すだちの木」の運営を主な事業としています。定員6名のところ、現在、児童相談所を経てきた5名の女子が生活しているそうです。

この事業の開始と並行するかのように、奥野さんは「もっとたくさんの人の役に立てる方法はないか」と新たな取り組みを考え始めます。周囲からは「まだ次の事業に着手するのは早い」との声もありましたが、どうしても援助を広げたいと、強い思いで考えを巡らせ、子ども食堂にたどり着きます。

「子ども食堂は分かりやすくていいなと思ったんですが、いろいろ調べてみたら、食材を調達したり、メニューや食数を決めたりするのが難しそうだったんですよね。そのうち、これは飲食業の人がやるべきことで僕の仕事ではないと気づきました。そして、いい方法を思い付いたんです」と奥野さん。

それは、「キッチンカーに出店してもらう」というものでした。子どもと妊婦には無料で料理を提供しますが、それ以外の人には正規の値段で販売し、その売り上げは全てキッチンカーが得るという仕組み。無料分の食事代や食材費などは、同法人に寄せられる寄付金で賄います。また、各地域の子どもたちが来やすいよう、市内を移動して開催する方法を取ることにしました。

「困っている人だけに食事を配りますと言っても、キッチンカーは来てくれません。きちんとしたクオリティの料理を提供し、しっかり商売ができることが大切なんです。一方、正規の値段で買ってくれる大人は、困っている人を間接的に助けていることになります」と奥野さんがポイントを説明してくれました。

これまでピザやタコライス、ロコモコ丼などのキッチンカーが出店。会場には、地域の人たちが気軽に集まってきます

子ども食堂での体験が将来につながるように

子ども食堂で、プロの手による料理を提供するのには、もう一つ狙いがあるとのこと。

「子どもたちに“お客さん体験”をしてもらいたいんです。医療関係などに多いイメージですが、自分がサービスを受けて満足するとその職業を目指すということがありますよね。そうした体験の一つになればと思っています」

子どもたちの視野を広げ、将来の職業の選択肢を増やすため、子ども食堂の開設時には、さまざまな職業の人も協力。これまで、カメラマンやパティシエ、ドローンパイロット、マジシャンなどによる体験教室が開かれたそうです。

子ども食堂の会場で開かれた写真教室の様子

現在、この新しい子ども食堂の仕組みは全国から注目を集めています。

「実は今、“フランチャイズ展開”をしようとしています。と言っても、ロイヤリティをもらうどころか、当法人からノウハウの提供と共に資金の一部を補助しているんですけどね。直接、人を援助する事業を行う場合、通常は特別なスキルなどが必要ですが、この方法ならキッチンカーと旗振り役さえいれば、どこの土地でもできます。既に、埼玉の熊谷市以外の地域、茨城、千葉、東京、神奈川、福岡で開かれているほか、北海道、岩手、大阪、島根、沖縄で開催に向けた動きがあります。こうした展開は日本初だと思います。これからどんどん広げていきたいですね」と、奥野さんは話しています。 

◆取材を終えて
困っている人を助けたい場合、変に意気込んだり、無理をしたりせず、“できる人ができることを一生懸命にする”のが、長く続けるためにも大切なことだと思います。「あい♡だいな~」の仕組みは、まさにそれに当てはまっていました。奥野さんは、発想力と行動力のある方。これからも貧困対策として、新しいことを始めてくれそうな気がします。

取材日:2023年8月8日
矢崎真弓